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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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不眠1

窓を打つ雨の音が聞こえる。


(眠れない…)


アオイは、布団の中で溜息をついた。


(穂積君の匂いかな?)


そう思った途端に恥ずかしくなってきた。


(私、何を考えているのよ!私は…)


と、布団を頭から被る。


ふと、【悲しい】という感情が一気に込み上げてくる。


涙が出ていた。


【何故…?】


答えは分からない。


ただ悲しい…


アオイは起き上がり涙を拭く。


カーテンの隙間から、時々ヘッドライトらしき光が差し込んでくる。


…怖い


これから、どうしたらいいのだろう?


家に…日高家に早く帰らなくてはならない。


そうしないと、父や兄そして姉が…


【きゅっ】


と、唇を噛む。


(早く、ここから出ていかないと…)


また1人、日高家に苦しめられる人間が増える事になる。


身震いがする。


(何だか…喉が渇いたな)


水をもらおうと立ち上がる。


そっと、静かに歩いて襖に耳を寄せた。


静まり返っている中に雨音だけが響いていた。


(眠って…いるのよね…)


アオイは、そっと襖を開けて足音を立てないように台所に向かう。


流し台には、先ほどのカップが置いてあった。


辺りを見渡してグラスを見つけると、そっと蛇口を捻る。


グラスに水が注がれた。


アオイが水に口がつく直前


「生の水道水は、危ないよ」


カナメの声に驚き、思わずコップを落としそうになる。


無事に掴んでから、ホッと息をつく。


そして、コップを流しに置いて


「ごめんなさい」


と、笑顔を作りカナメの方を見る。


だが、次の瞬間、アオイの表情は凍りつく。


薄暗い部屋…


近づいてくる影…


それは、アオイの脳裏に鮮明に写し出された。


アオイの目には、今いる場所が日高家の寝室に見えてきた。


近づいてくる影が、コウスケに見えてきた。


【ガタガタ…】


体が震えだす。


「あ…あ…」


うまく言葉が発せない。


自然に足が後ろの方へと動く。


「宮里?」


アオイの異変に気づいたカナメは、さらにアオイに近づく。


アオイは、震えながら後ろの方へと下がる。


壁に【ドン!】とぶつかると、その場にしゃがみ込んだ。


【ガタガタ…】


体の震えは止まらない。


「宮里?」


さらに、カナメが近づいてくる。


「い…いや…」


小さく呟く。


カナメが肩を叩くとビクッと肩を震わせる。


顔色がなく、恐怖の表情を浮かべている。


『来ないで…』


その声すら出せない。


「どうしたんだ?」


カナメが顔を伺うように見る。


近づいてくる顔にアオイの恐怖心が限界を迎えた。


『アオイ、何故言う通りに出来ない?』


『お前には、しつけが必要なようだな』


『さぁ…立て!』


「いやぁ!!」


頭を抱えて、錯乱状態に陥る。


息が苦しい…


過呼吸を起こしている。


「宮里?」


「いやぁぁぁ!」


弱々しくも悲鳴に似た声をあげる。


「落ち着くんだ、宮里!」


カナメは、必死に肩を揺するが、アオイの錯乱は収まらない。


カナメは、アオイの体を引き寄せて力強く抱き締めた。


「落ち着くんだ、怖くないから、大丈夫だから」


優しく言う。


アオイは、我に返り


「穂積…くん?」


瞳から涙が溢れてきた。


ぎゅっと、カナメの体を抱き締める。


荒くなっていた呼吸も安定してきた。


時間が、しばらく過ぎた。


完全に我を取り戻したアオイは、バッとカナメから体を引き離し


「ごめんなさい」


恥ずかしそうに言う。


カナメは、笑みを浮かべて


「落ち着いた?」


そう問いかけた。


「うん…」


アオイは、小さく答えてから


「迷惑かけて、ごめんなさい」


辛そうに言う。


カナメは、立ち上がり


「大丈夫、気にしてないよ。それより、暖かい飲み物でも作ろうか」


そう言ってから台所に立った。


「ここじゃ寒いから、部屋に行ってなよ」


カナメに笑顔で言われると、ただ黙って従うしかない。部屋に戻り、畳の上に座り込む。


グッと手を握る。


(優しすぎるよ…)


アオイの胸は、チクチクと痛む。


唇を血が滲みそうになるくらいに噛んだ。


【ここに、いてはいけない】


カナメの優しさを感じて、アオイは強く思った。


これ以上、ここにいたら…


カナメの身に危険が及ぶ。


夫・コウスケが、嫉妬深く恐ろしい男である事は、アオイ自身がよく分かっている。


(早く…早くここから出ていかないと)


アオイは、考える。


上手い理由を。


ただ、帰ると言えば、【家まで送る】と言い出すだろう。


そんな事になったら、大変な事になってしまう。


(考えるの、考えるのよ)


アオイが必死に考えていると


「大丈夫?」


トレイを持ったカナメが、心配そうに言う。


青ざめた顔をしているからだろう。


アオイは、ハッとなり


「大丈夫」


と答えた。


「そう…」


納得はしてないが、カナメはアオイの前にインスタントコーヒーを置いて


「はい、どうぞ。ブランデーを少し入れたから、眠れると思うよ」


と言う。


「…ありがとう」


アオイは、カップを手に取る。


ブランデーが入っているからだろうか、飲んだ後にほんのりと体が暖かくなる。


「ブランデー入れすぎたかな?」


カナメが、心配そうに言う。


「大丈夫よ」


アオイは、笑顔で答える。


実は…アオイはアルコールが全くダメな体質である。


少量でも、火照ってしまい酔いが回ってしまう。


「でも、何か…気持ちいいかも…」


頬が、ほんのりと赤くなってしまっている。


(やっぱり、まずかったかな?)


カナメは、ブランデーを入れた事を後悔した。


やはり、本人に確かめてから入れるべきであった、と。


しかし、なんだろう…


ほんのり酔いが回っている表情が、なんとも…


カナメは、胸が高鳴る。


(いや、いかんいかん)


理性をフル回転で働かせる。


「寝た方がいいよ」


と言った。


「ほぇ?」


軽くアルコールが回ったアオイは、うつ向いてから


「きっと…眠れない」


その仕草は、何とも…可愛い。


「え?」


カナメは、ドキリとする。


「…怖いもの」


今にも泣きそうな顔で言う。


(え?おいおい…)


正直言って、カナメは戸惑っていた。


アオイが言う言葉に、何か期待をしてしまう。


(この展開は…)


カナメの胸が勝手に高鳴る。


(いや、やめるんだ、俺。そんな妄想は)


あっという間に冷静に戻る。


アオイは、うつ向いたまま何も言わない。


「でも、ゆっくり眠らないと…ね?」


カナメが優しく言っても首を横に振るだけだ。


カナメは困り果ててしまった。


とりあえず…


「どうしたら、眠れる?」


と聞いてみる。


アオイは、かなり躊躇がちに


「…を…いで…たら」


消え入りそうな声で答えた。


「え?」


聞き取れなかったカナメは


「ごめん、聞こえなかったから、もう一回言ってくれるかな?」


と言う。


アオイは、少し悩んでから


「手を…繋いでくれたら」


顔を赤くしながら言う。


これには、カナメも赤くなってしまう。


アオイは、ぎゅっと手を握りしめて


「ごめんなさい。今のは聞かなかった事に…」


と言って立ち上がった。


しかし、アルコールに弱く、微妙に酔いが回っているのに、急に立ち上がれば…


【ぐらっ…】


と、足元がおぼつかずバランスを失ってしまう。


「危ない!」


カナメは素早く立ち上がり、アオイの腕を掴んだ。


何とか転ぶのは回避出来たが、カナメの目から見ても、どうやら危うい。


「ベッドまで連れていくよ」


そう言ってアオイを支える。


「大丈夫よ。今のは、ちょっと…油断しただけだから」


そうアオイは言うが…


「ちゃんと立ててないよ」


【グッ】と肩を握る。


「大丈夫だって」


アオイは、そう言いながらもカナメが支えてないと、足元がおぼつかない。


そのまま、大人しくベッドに寝かされ布団をかけられる。


「寒くない?」


カナメが聞くと


「少し…」


アオイは、アルコールが入っているせいなのか、すごく素直だ。


カナメは、部屋にあるストーブを点ける。


「これで少しは、暖かくなると思うよ」


そう言ってから部屋を出ようとする。


「あ、あの…」


アオイは、起き上がって声をかけた。


襖に手をかけていたカナメは


「何?」


振り向き様に言うが、アオイは、首を横に振り


「何でもない。ごめんなさい」


そう言って再び横になる。


カナメは少し考えてから


「眠れないの?」


と、ベッドの傍らに座る。


アオイは、小さく


「…うん」


と答えた。


「じゃあ、眠れるまでここにいるよ」


と言い、その後に


「でも、俺って一応は男なんだよ」


苦笑いを浮かべる。


アオイは、微笑んで


「大丈夫。穂積君は、私を傷つけたりしないよ」


(そんな顔して、そんな事を言われると困るんだけどな)


そう思いながらも、微笑む。


アオイは、笑顔で


「ありがとう」


と言う。


「もう眠った方がいい」


カナメの言葉に、アオイは顔を曇らせて


「…きっと眠れない」


と答えた。


「何故?」


カナメが問いかけると


「…………」


暗い表情のまま、何も答えない。


「無理に話す必要はないよ。話したくない事を」


カナメはそう言って微笑む。


「…ごめんなさい」


「謝る必要はないさ」


カナメの言葉にアオイは、少しだけ笑った。


「じゃあ、何か話しでもしようか」


カナメの言葉に


「そうだね」


それから二人は、昔の話を話した。


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