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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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再会2

―宮里アオイ…結婚しているから名字が違うハズ。カナメの同級生で、才女だった。


(いや、まさか、そんな)


カナメは信じられない気持ちで一杯だった。


アオイは、ふらついた足取りで歩いている。


危なげで、怖い。


何も見えてないかのように、店の前を通りすぎようとしていた。


(宮里…)


カナメは、どうしようか悩んだ。声をかけてはいけない。彼女は遠い人だから。


だが…


意を決して、事務所から傘を取り出して、店から出る。


アオイは、店の前を通りすぎようとしていた。


カナメは、


「宮里!」


大きな声で叫んだが、アオイは反応もしない。


仕方なく小走りで駆け寄り


「宮里!」


腕を掴む。


アオイは、ゆっくりと振り向いた。


生気のない表情だった。


「誰?」


消え入りそうな声。


だが、自分の腕を掴んでいる人物を確認する。


「あ…」


アオイは、驚いたように目を開く。


「ほ…ずみ…くん…?」


彼女もまた、信じられなかった。こんな時に…どうして…?


「何してんだ?濡れているじゃないか?」


カナメが問うと、アオイは掴まれた腕を振りほどき


「穂積君には、関係ない」


そっけない答え方をする。


カナメは、ジッとアオイを見てから、もう一度腕を掴み店内に連れていく。


「ちょっ…穂積君、何を!」


アオイは、カナメの行動に戸惑う。


店内に入ると、アオイを務所まで連れていき、自分は売り場からバスタオルとホットコーヒーを取る。


「あ、あの…」


アオイが戸惑っていると、カナメは、黙ってそれらをバーコードをスキャンして、財布を取り出してお金を払う。


【ビリッ!】


袋を破きながら事務所に戻り、中を取り出して、アオイにバスタオルを被せた。


「それで早く拭けよ。それと体が冷えているだろうから」


【コトリ…】


そう言って、コーヒーを目の前に置く。


アオイは、自分の中に熱いモノが流れていくの感じた。


【ポタリ…】


その瞳から自然に涙が溢れてきて…止まらない。


これには、カナメが慌ててしまう。


「み、宮里…」


すっかり動揺している。


「ごめんなさい」


アオイは、涙を拭きながら謝る。


「人に優しくされたの…久しぶりだから…」


寂しげに言った。


カナメにも、何かあったのは分かる。大雨の中、傘もささずに歩いていたのだから。


それは、聞いてはいけない事だと、分かっている。


だが、聞きたい。


《君に何が起こった》


のか…


カナメは、喉まで出掛けた疑問を飲み込んだ。


《今は聞いてはいけない》


傷ついている彼女の心を、さらに傷つける真似は出来ない。


【ピンポーン…】


店内に誰かが入ってきたらしい。カナメは慌てて


「じゃ、寒いから、コーヒー飲んどけよ」


と言いながら、事務所から出ていく。


「あ、あの…」


アオイは、声をかけるがドアは閉まってしまった。


(どうしよう…)


アオイは困り果ててしまった。


(このまま、穂積君に迷惑かけられない)


辺りを見渡すと、先ほどカナメが出ていったドアの他にもう一つドアがある。


(あそこが出口かしら?)


アオイは立ち上がり、そのドアに向かった。


ドアノブに手をかけて、ゆっくりと開く。


(ごめんなさい、穂積くん)


アオイは、心の中で謝った。


しかし、ドアの向こうは上に上る階段だった。


そう、田宮一家の自宅に続く階段だったのだ。


(どうしよう…)


こっそりドアを閉めてから、キョロキョロと回りを見渡す。


他に出口らしきドアはない。


あえて言うなら、カナメが出ていったドアしかない。


アオイは、困り果ててしまう。


(どうしよう、このままじゃ…)


焦りだけが、アオイを襲う。


とりあえず、もといた場所に戻り、カナメが置いていった缶コーヒーを手にとる。


(あたたかい)


同時にカナメの優しさを痛感して涙が溢れてきた。


(穂積くん、ごめん。私…)


苦しい感情だけが、止めどなく溢れてくる。


しばらく涙が止まらなかった。


しかし…


『お疲れ様でぇす』


ドアの向こうからの声にハッとして、慌てて涙を拭く。


【ガチャ…】


という音と同時に誰かが入ってきた。


その人物は、アオイを見て戸惑っている。


《誰?》


というのが顔に書いてあった。


「おーい、カナメくぅん?」


彼は振り向き、レジにいるカナメに話しかけた。


「あ、その娘、俺の知り合いの子なんです。ちょっと事情があって…」


カナメは、察したのか説明をする。


「ふぅん…」


彼は、とりあえず納得する。


《ずぶ濡れ》《年頃の女性》《暗い表情》


どう見ても、何かあるとしか思えない。


しかし、彼―市宮は無粋な真似はしない。


アオイに微笑んで会釈してから、ロッカーから制服を取り出す。


アオイは、軽く会釈したが、俯いたまま固まっていた。


(どうしよう…)


かなり動揺している。


誰かに見られた…


恐怖だけが沸き上がってくる。


市宮が出ていくのが分かると、同時に震えが沸いてきた。


【カタカタカタ…】


恐怖で今にも倒れそうだ。


だが、アオイは…


(ダメよ…迷惑をかけちゃう)


何とか踏み留まった。


『じゃあ、上がりまーす』


カナメの声に我に返った。


(落ち着いて、落ち着くのよアオイ)


自分に言い聞かせて、深呼吸する。


何も悟られてはいけない。


知られてはならない。


今は、一刻も早くここから、カナメから離れないといけない。


段々と落ち着きを取り戻す。


【ガチャリ…】


ドアが開き、カナメが入ってくる。


「ちょっと待ってて」


そう言ってから、制服を脱いで、自分のロッカーのハンガーにかけてから、ジャケットと大きめのバックを取り出す。


「あの…」


アオイが声をかける。


「もう遅い時間だし、送るよ」


優しい微笑みでカナメが言う。


時計を見ると、PM11:08だった。


(こんな時間になっていたの?)


アオイには時間の感覚が無かった。何も考える余裕が無いに等しい状況だったからだが…


「さ、行こう」


カナメに促されて


「あの…」


アオイは、何か言いたげになる。


そんなアオイをジッと見つめていたが


「旦那さんに連絡取る?」


カナメの一言に


【ビクッ!】


アオイの体が震えた。


【カタカタ…】


震えが止まらない体。


「知って…いるの?」


消え入りそうな震えた声。


カナメは、目を背け


「噂…でね」


と、出来るだけ明るく答えた。


アオイは、震えたままうつ向いて


「知っているなら、私には関わらない方がいい」


声を振り絞った。


(知られていた…)


いい知れない悲しみが全身に広がる。


涙は、抑えた。


《知られてはいけない》


と言う、アオイの一念で。


「家に帰れないなら、実家まで送るよ」


カナメが言うと、アオイは首を


【ぶんぶんっ】


音がしそうな位に横に振り


「だめよ…お父さんには…」


青ざめた顔で言う。


「じゃあ、どこか行くあてはある?」


カナメの問いかけにアオイは答えられない。


《友達の家》と答えるべきか…だが、そこまで送ると言われたらどうしようもない。誰にも迷惑をかけたくないから。かと言っても現金も持たずに飛び出したから、ホテルという訳にもいかない。いや、ホテルに行けばすぐに…


アオイが頭を悩ませていると、カナメは《ふうっ》と息をついて


「しょうがないな、今夜の宿は何とかするよ」


と、言った。


これには、アオイも驚いた。


「ダメよ。迷惑かけられないわ」


その表情は、危機せまるものがある。


「大丈夫だよ。誰にも知られないから」


「でも…」


「それとも、行くあてがある?」


カナメの言葉にアオイは詰まった。


《無い》のは、アオイの態度から明白だったから。


「さ、行こうか」


アオイは悩んだ末、従う事にした。とりあえず、カナメが紹介してくれる場所に行き、カナメが帰ってから、何か理由をつけて出ていけばいい。


「…わかったわ」


椅子から立ち上がり、バスタオルで椅子を拭く。


ずぶ濡れのアオイが座っていたから、当然濡れていたからだ。


だが、拭いても湿り気は残っている。


「いいよ。そのままで」


「でも…」


「自然に乾くだろうし」


カナメに微笑まれて、胸が締め付けられる。


「行こう」


「ええ…」


と、二人は事務所から出る。


出るとすぐにレジにいた市宮が


「カナメくん、店長は?」


と、聞かれた。


カナメは、上を指差して


「タケルくんが、ごねちゃって、上に」


と答える。


「げっ、俺1人なの?」


市宮は、あからさまに嫌な顔をする。


カナメは、ハハ…と笑い


「大丈夫っすよ、こんな天気で客も来ないし、何かあったら携帯に電話しろって店長言ってましたから」


と、言ってから


「じゃあ、俺、この子を送ってから帰りますんで」


と言ったあとに


「お疲れ様でーす」


アオイを連れて店を出る。


「送り狼になるなよ」


市宮は、冷やかしで言った。


「はいはい」


返事をしてから、傘をさして


「傘、一本しかなくて…せまいけど」


照れているように言う。


「大丈夫、構わないわ」


アオイは、笑顔を作る。


二人は、コンビニから離れ夜の闇に消えて行った。


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