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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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再会1

その日は、雨の日だった。


穂積カナメは、昼は製薬会社の総務課に勤めるサラリーマン、夜はコンビニでバイトをしている。


ちなみにバイトは趣味でやっている。


経営者夫婦を、とても慕っているし、何より学生時代から働いているので、愛着がある。


何より、時間を持て余しているので、バイトでもした方がマシだと考えた。


今日も、いつものように先ほど入荷したばかりの商品に値札をつけて、商品棚に並べていた。


窓の外で降っている雨は、まだ弱い。


(雨か…帰る時にひどくならなきゃいいけど…)


その後、ふぅっと息をつくと、


「お、どうした?」


興味深そうに向こう側の商品棚から顔を出したのは、経営者の田宮イチロウだ。


カナメは、あからさまに嫌な顔をして


「別に何もありませんよ」


そう答えてから、作業を続ける。


「か・な・め・くぅ~ん」


イチロウは、カナメの方へすり寄って来る。


「何だよ、何だよ、冷たいなぁカナメは。で、何でため息ついていたのかなぁ?」


甘えた声で聞いてくる。


この人の好奇心は、お茶の間の主婦級なのだ。


カナメは、冷たい視線を送りながら


「ほんと、何でもないっす」


と、答えた。


イチロウは、口を尖らせて


「なんだよ、ケチ」


子供みたいな口調で言う。


これでも一応、カナメより五歳年上なんだが…


そして続けざまに


「そんなんだから、カノジョが出来ないんだよ」


とひねくれた調子で言う。


カナメは、カッチーンときたが


「関係ないでしょ」


ムスッとしながらも、黙って作業を続ける。


「ナギサちゃんの後輩に、いい子がいるんだけどさ、今度紹介しようか?」


カナメは、手を止めて


「結構です!」


キッパリと答える。


「なんだよー好きな子でもいるの?」


野次馬根性丸出しで、聞いてきた。


カナメは、呆れたように


「別にいませんよ」


無表情のまま答えながらも、心の奥は痛い。


…いる。


たった一人、忘れられない人が


もう叶わない、と分かっていても、忘れられない。


どんなに想っていても、もう…手が届かない。


それを思うと、胸が痛い。


だがカナメは、それを人には悟られないようにしている。


とくに…イチロウには。


イチロウの性格上、あれこれ詮索するだろうし、何より世話好きの彼に迷惑をかけたくない。


それに、イチロウは彼女とは浅からぬ縁がある。


だから、知られたくない。


だが、イチロウは引かない


さすが、【お茶の間の主婦級の好奇心の塊】と言われるだけはある。


「なぁなぁ、カ・ナ・メくーん」


と、すりよってくる。


カナメも我慢の限界か、爆発しそうになるが…


【ガチャリ】


事務所の扉が開き


「イチロウくん」


と、スラリとした美人が、困った顔をして出てくる。


イチロウの妻である、ナギサだ。


イチロウ曰く『俺と結ばれる為に生まれてきた』らしいが、未だに何故にナギサがイチロウと結婚したのかは謎だ。


ナギサは、町内でも評判の高い美人で頭もよく、その上器量良しさんだ。


当然、昔から男性にモテていた。


さらに、父親はエリート会社員だったから、お見合いの話も多数あった、と聞いている。


一方、イチロウは、幼い頃から近所でも評判のワルガキだった。


周囲の親が『田宮商店のイチロウみたいにはならないで』と懇願したくらいだった。


確かに、イチロウは親分肌みたいなところがあり、弱者には味方をしていたし、イチロウの懐の広さに、近所の子供は、イチロウを慕って、彼の周囲には人が絶えなかった。


カナメも、その内の一人なんだが…


どうみても釣り合わない二人が【幼なじみ】という理由だけで、なんで結ばれたのか謎である。


それは、二人にしか分からない事なんだろう。


ナギサは、陳列の前にいたイチロウ達に近寄り


「イチロウ君、ごめん。タケルがどうしても、お父さんと一緒じゃないと寝たくないって駄々をこねているの」


困ったように言うと、イチロウは先程とは違う顔に変わる。


いわゆる、父親の顔だ。


ちなみにタケル君は、イチロウとナギサの長男で5歳になる。そして、その下には3歳になるミコトちゃんという娘もいたりする。


「タケルが?」


イチロウの問いかけに、ナギサは頷いて


「そうなのよ。パパはお仕事だからって言っても聞かないの。とうとう泣き出しちゃって」


困り果てているようだ。


そういう姿も、ナギサは美しい。彼女が店に出ていると男性客が絶えないはずだ。


イチロウは、カナメを見て


「カナメ、店、任せられるか?」


今まで会話していた時の顔とは違うキリッとした表情で聞いてきた。


カナメは仕方ないように手をヒラヒラさせて


「どうぞ、タケル君が待っているんでしょ?店の方は、こんな天気で客は少ないだろうから、行ってきてください」


そう言うが、ナギサは不安げに


「私が、店にいようか?」


と言うが、カナメは


「ナギサさんには、ミコトちゃんがいるでしょう?」


「でも…」


「ほらほら、お子様達が、お待ちかねですよ」


そう言って立ち上がり、二人の背中を押す。


イチロウは、ケータイを取り出して


「じゃあ、スマホの電源は入れておくから、何かあったら、電話して」


と言い、ナギサは


「ごめんね、カナメ君」


申し訳無さそうに言った。


ちなみに、この上にイチロウ達の自宅がある。親子四代8人家族だ。


二人を事務所から繋がる自宅への階段に追いやった後、カナメは息をつき


「さて、作業再開しますか」


と、売り場に戻る。


しばらくすると、自動ドアが開き、若いカップルらしき男女が、イチャイチャしながら入ってくる。


(うわぁ、アツいねぇ)


と思いながらも


「いらっしゃいませ」


とりあえず愛想良く笑いながら声を掛けてからレジに入った。


二人は、しばらく店内をウロウロしながら、商品を物色した後、女性の方が、カゴを持ってレジに来た。


「よいしょ」


レジ台にカゴを置く。


男の方はというと、そそくさと自動ドアから外に出て、タバコを吸いだした。


(おいおい、彼女に払わせる気ですか?)


呆れながらも、表面上は無表情に商品をスキャンする。


「合計で、1453円です」


カナメが言うと、女性は慌ててバックから財布を取り出してから小銭入れを覗くが、小銭がなかったのだろう、お札入れから千円札を二枚取り出して、レジ台に置く。


「二千円からよろしいでしょうか?」


事務的かつ愛想よく、確認をする。


「あ、はい」


女性が答えると、カナメはレジを打ってから


「547円のお返しになります」


と、小銭を女性に渡して商品を袋に入れる。


「お待たせいたしました」


と、袋を女性に渡して


「ありがとうございました」


と、頭を下げた。


だが、女性はカナメに目もくれず、一目散に店の外に出て


「お待たせ」


と彼氏に言う。


「おっせえよ」


男性は、少しイラついたように言った。


「ごめーん」


女性は手を合わせてから、自分の腕を男性に絡ませる。


男性は、まんざらでもない表情になり


「しょうがねぇな」


そう言ってから、二人は夜の闇に消えていった。


(最近、カノジョに払わせて偉そうなのいるな)


正直、ちょっとした怒りを覚えたりしたが


(ま、人の幸せはそれぞれだ)


と、陳列棚に戻り、商品の陳列を再開する。


カナメは、黙々と作業を続けた。


そして、終わった頃には雨足は強くなっており、雷まで鳴っていた。


(おいおい、帰りどうすんだ?明日が休みとはいえ、濡れるなんて冗談じゃないって)


嘆きに近い状態で、外を見ていたら、雨の中に人影が見えた。


この雨の中を、傘もささずにふらついた様子で歩いている。


「マジかよ…」


カナメは、マジマジと人影を見た。


「え…」


声にならない驚きと衝撃が、カナメを襲う。


(嘘だろ?こんな所にいるはずが…人違いじゃないのか?)


もう一度、目をこらしてよく見るが、間違いない。


彼女だ…


カナメが彼女を見間違えるハズがなかった。


彼女こそ、カナメの心をとらえて離さない女性だから。


まずは、入り始めです。

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