綺麗な水晶女性
ここは神聖ユニシア王国、王都コルニアス。
人口800万を超え、どこよりも栄えるパクス・ユニシアの象徴。
そんなコルニアスの辺境の地…ここは迷いの山。山麓にある貧民街の人々がそう呼ぶ、誰も立ち入らない山。
「ふーっ……」
「なにこの…貧民街に合わないすごいところ」
人はほぼいない。
居ても、会ったら大体襲ってくる。
なんかすげえお宝でもあるのか?
そうか!宝があるんだな!そうに決まってる!
宝があるなら盗むしかないよな!
どこにあるのかって?
大体そんなのは一番奥に大切に保管するもののはず!
大切なんだから奥だよ奥!
そうと分かれば今すぐにでも行かないと!
「居たぞ!侵入者だ!」
「ぴゃっ!?」
くそうっ!なんで見つけるんだよ。
盗み終わった後にして欲しかったぁ!
あいつらが来るより前に走り出す。
奥に向かうだけ、入ってきたところから奥に進めばいつか一番奥!
それだけっ!
「はぁっ!はぁっ…!貧民街舐めんなっ!」
あいつら容赦ねえー!当たり前にナイフ?で足と首を狙って普通に攻撃してくる!
地面を蹴って足を斬られる前にジャンプ!
ジャンプで動きずらい時に首にくるからぁ!!
「どっせい!」
ギッリギリ首に来そうだったナイフをアッパーする。
あのナイフ長いって!
身軽に攻撃できないし使いずらいでしょあれ!
足は止めちゃダメ!次は曲がり角!
「ふっ…さすが私の勘」
見つけた。
「意味深な扉ぁっ!」
全速前進、見つけた岩でできた扉をぶっ壊して中に入る。
そこには
「…綺麗な、石?」
真ん中に大きな石がドンっ!って置いてあって。
壁も床もツルツルで川で拾える石のようで。
目を奪われていた。
でも一番、綺麗って思ったのは…デカい石の中で寝てるあの人…。
「貰った!」
「まずっ!」
あの変なナイフは私のお腹に先っぽだけで、殆ど当たらなかった。
いや、多分あれの使い方はそれが正解なのかな。
「グフッ…ゲホッゲホッ」
斬られた切られたきられた。
痛い……痛いよ。
──痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
──苦しい、苦しい、苦しい!
──熱い、寒い、熱い、寒い、熱い、寒い、熱い、寒い、熱い、寒い、熱い、、
──死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ね、死ね、死ぬ、死ね!
お前らが死ね!私じゃなくて!!!
………ああ、死ぬ。お腹から中身が出てる…。
あったかいけど、寒い。
まだ生きてる?死なせて痛いのはやだ。
もう辛くないよって誰か言ってよ!
やな寒さ。ああ…1人で死にたくない。
生きたいよ…1人で居たくないよ。
"もう嫌だ"
『汝願いを祈いて我が前に立つ汝よ』
『その御魂を喰らいこの身を持つことを』
何この声…どこから聞こえてくるの?
追ってきた奴らじゃない……綺麗な力強い声。
安心する気がするような声。
「かしこみかしこみかしこみ白す、願いを割し身己をお赦し通す。我らが王にかしこみ白す」
この声……さっきの。
追ってきた奴ら!?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
もう寒いのも痛いのも、もう嫌だ!
『すでに契約は完遂せし、愚骨が入るすべはおらず。契約者を陥れるべき忌むべき愚行。』
「王よ!どうかっ!信心深き我らに庇護を…」
「契約は完遂せし、一度目だ見逃される幸せを噛み締めよ」
『我と契約せし者よ。名を』
「セト…」
『この身体はセトのだ』
この体……?思考が、固まらない…や。
目を閉じた時、普通理解できない真っ黒になる。
真っ黒なのによくわからない。そんな黒。
けど…今は目を閉じると、眩しい白に覆われていた。
多分結構長い間、目を開けられなかった気がする。
……真っ白。全面白だったのが、光を失い真っ黒に戻っていく。
完全に真っ黒になった頃。
ゆっくりと目を開ける。
「少し…高い?」
視界が高い。
地面までの距離が遠い。
「…ああ、王よ。ついに目覚めましたか…王よ」
「ひっ……」
さっきの追ってきたやつ…なんで私を王って呼んでるの?
「あ、あのっ!」
『血を求めよ』
えっ!?今なんて…血を求めよ?
そんなことしたら…堕鬼になっちゃうんだよ?
『血を求めよ』
「…血を……求める」
「血ですか?ならばこの侵入した女を!」
……は?
私だ。それは私の体だ。
なら……私は誰?
『喰らえ、同化せよ。抱きそして混ざり合え』
「その、…その体を!寄越せ!」
半ば無理やりだ。無理矢理、私の体を奪って抱き寄せる。
私の綺麗な顔、細い体。大切なもの…全部ある。
お腹は斬れてるけど…大丈夫。
今、一緒になるんだから……大丈夫。
「あ、…ああっ!ああ、感涙です。その力はまさしく王の証!」
私の体がゆっくりこの体と溶け合う。
違和感は消えた。普段のいつもの…変わらない私だ。
「あの者が羨ましい!王の血肉になれるなんと名誉なことか!」
『血を求めよ』
「血を…血となり名誉を」
「まだ血が必要なのですね。この体で足しにしてください」
あのナイフ…カタナって言うんだ。
首をスパって切って、首をスパって!
あんまりにも簡単に!
ペラペラ喋ってたやつも!ずっと無口だった奥のやつも!
スパって!あんな痛かったのに、あまりに簡単に!
顔が、顔だけが地面に転がって!
血が溢れてる………顔にもたくさんついた。
柔らかい…空気を切ったみたいに!
『飲むのだ』
「飲んだらっ!私は」
『飲むのだ』
「あ、あぁ…ああああ……」
顔についた血を拭くため、血を拭くため。
これは血を拭くために仕方なく。でも拭いたても汚れちゃったから。
だから、嫌々仕方なく。私は悪くないから!
「……美味しい」
「もっと、」
『血を求めよ』
あの体から噴き出てる血を飲む。
美食だ。貧民街では食べたこともないような。
最高の美食なんだ。
もっともっともっともっともっともっともっともっと。
「血をよこせ」
「ふふふふ、あははっ。血!血!血!血ィ!もっともっと飲ませろ」
「ああ…王よ。なんと強いのだ。この身を最後にしてくれたことに感謝を」
これで、終わり…か。
飲み足りない、脳はもっと欲しがってる。
が…腹は満腹か。
『かねて血を求めたのなら、眠れ』
この声はなんなんだ。
その言葉に逆らえない。
睡魔が…………美食が並んでるここで……美食?
違う、違うんだ。全然チガウ。
生臭くて生暖かくて、鉄の味だ。
あんなものは美食なんかじゃない!
死ねって願ったのに、あいつらが自ら首を切って死んでいったのがただただ辛い。苦しい。
なんで死んだんだよ。
あんな痛くて辛いことをなんで出来るんだよ。
こんな悲しみを辛さを伴わないと食べれない血なんて…ただ臭いだけの、醜い堕鬼の食べ物だ!
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただの女であったセトは望まず生まれた。
父親も母親も知らない。知っているのは育ての親だった爺が持ってきた訃報と女を拒絶していたことだけ。
その爺も死んだ。
そこからは1人で生きている。
人から盗みを働き、強請りもした。
世界に対する反吐と一緒に生きるための血反吐を吐いた。
弱く脆く少し力を入れれば折れてしまうような体で14年生き続けた。
そしてこれからも、弱い体と共に生きていく。
そのはずだった。
「……っはぁ!」
胸糞の悪い夢を払いのけるように飛び起き、あたりを見渡す。
木造の壁に石造りの床。生活感あふれる家具の数々。
…あの場所じゃない。
「起きたか、遅えぞ」
あの脳に響く、綺麗な声。
けど今までと違って耳から通り抜ける声。
それが聞こえてきた方に目を向ける。
「よぉ、寝坊助セト」
そこにいたのは、机に座る。
随分とガラの悪い。
そんでもって、水晶のように美しい女性だった。




