第一話
第1章:黒歴史ノートと、無慈悲なる天からのエラー
一、 死んでも死にきれない理由(物理)
人間、死ぬ直前に思い出すのは何だろうか。
走馬灯、なんて洒落た言葉がある。家族の笑顔、幼い頃の記憶、初恋の相手の横顔……そういうエモーショナルで美しいカットインが視界を駆け巡るのだと、いつか読んだ本には書いてあった。
だが、私の走馬灯は違った。
私の視界に爆速でフラッシュバックしたのは、家族の笑顔でも初恋でもなく、自室の学習机の『左側・上から二段目の引き出し』の奥深くに隠された、一冊のコクヨのキャンパスノート(B5サイズ・無地)であった。
「……あ、アカン」
ドガァァァン!!という鈍い衝撃と、骨が軋む嫌な音。全身を駆け抜ける猛烈な痛みの直前、私は確かにそう呟いたはずだ。
小田里穂、二十八歳。職業、社畜。
毎日深夜二時まで残業し、休日は上司からのLINEに怯え、手取り二十万そこそこから家賃と光熱費を引いた残金で細々と生きる、どこにでもいる限界アラサー女子であった。
そんな私の唯一の正気と正気を繋ぎ止める「命綱」であり、同時に「致命的な爆弾」でもあったのが、例のノート――通称『人生やり直し大富豪計画ノート』である。
そこには、日々の絶望から逃避するために書き殴られた、血と汗と欲望の結晶がびっしりと詰まっていた。
『もしも過去に戻れたら買うべき爆買い株リスト(任天堂、Apple、Amazonの初期株価推移グラフ付き)』
『東京湾岸エリアおよび再開発地域の土地価値爆上がりの変遷と、狙い目の物件一覧』
『ビットコインが1枚数円だった時代に全力投資するためのステップ』
『二度目の人生で絶対に関わってはいけないクソ上司リスト&その弱点』
『将来的に大化けするベンチャー企業&IP(知的財産)投資先リスト』
……等々、狂気的なまでのリサーチ力と社畜の執念で書き留められた「未来の金脈データ」。
「いつか、もし万が一、トラックに跳ねられて10年前とかに逆行したら、この知識で億万長者になって不労所得で一生高笑いしてやるんだ……!」
そう思って、血反吐を吐くような残業の合間に、涙目で書きためていた黄金の妄想書。
それが――私の死後、遺品整理として部屋に入ってきた両親や親族の手によって暴かれる。
「……死ぬ!! 痛いから死ぬんじゃない!! 恥ずかしすぎて死ぬ!! いやもう死んでるけど!!!」
気がついた時、私は自分の告別式の会場の天井付近で、プカプカと浮かんでいた。
眼下では、黒い喪服を着た親族や会社の同僚たちが、涙を流して私の遺影を拝んでいる。そこまではいい。大変申し訳ないことをしたと思っている。親より先に死ぬなんて最大の親不孝だ。ごめんなさい、お父さん、お母さん。
だが、問題はその横だ。
焼香台の脇に設置された『故人の思い出の品コーナー』。
そこに、誇らしげに展示されている、見覚えがありすぎる一冊のB5ノート。
『里穂ちゃんが毎夜遅くまで、勉強だと言って書き溜めていたノートです。こんなに努力家だったのに……』という親切心100%のキャプションと共に、親族たちが物珍しそうにそれを手に取り、ペラペラとめくっている。
「あらぁ、里穂ちゃん、株や投資の勉強をしてたのねぇ……『任天堂の株を買え』って、すごい熱量で書いてあるわ……」
「見てこれ、おじさん。『2010年、ビットコインを買え!! 買わなきゃ死ぬぞ私!!』って赤ペンで二重線引いてあるよ。何これ、怖い……」
「うわ、こっちのページには『若手子役のギャラを不動産にブチ込んで右手に扇子で高笑い』って……里穂ちゃん、何の勉強をしてたのかな……」
やめてぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!
見ないで! 開かないで! 音読しないで親戚一同で顔を見合わせないで!!
それ私の魂の資産形成計画だけど、死後に公開されていいやつじゃないの!! 爆発して!! そのノート今すぐ自然発火してぇぇぇ!!
「ぎゃあああああああ!! 恥ずかし死ぬ!! 逆行してないじゃん!! 死んだだけじゃん!! しかも浮遊霊になってんじゃん!!!」
私は告別式会場の天井で、ゴロゴロと空中をのた打ち回った。空中だから畳の擦れる音も出ない。私の悶絶の叫びも、誰の耳にも届かない。完全なる一人相撲、一人怪奇現象である。
逆行して、未来の知識で大富豪になるはずだったのに!
現実は「ただ車に跳ねられて死に、ガチすぎる大富豪妄想ノートを親族一同に開帳された痛いアラサー女子」という最悪のレッテルを貼られただけ!!
神様!! 追突したトラックの運転手!! 誰でもいいから私のノートを焼却炉に投げ込んでくれぇぇぇ!!
二、 憑依グルメ旅と、突然の『お迎え』
当然ながら、死者の願いが叶うはずもなく、告別式はつつがなく終了し、私のノートは「里穂の生前の熱意の遺品」として実家の引き出し(鍵なし)に厳重保管されることとなった。殺してくれ。もう死んでるけど。
成仏? できるわけがない。あんな爆弾を現世に残したまま成仏できる人間がいたら面面を見てみたい。
しかし、いくら叫んでも浮遊霊の私には物体を動かす力などなく、ノートを燃やすこともできない。
「はぁ……もういいや。知らん。私が死んだ後の世界なんて、どうにでもなれ……」
絶望のどん底に落ちた私は、開き直ることにした。
死んでしまったものは仕方ない。幽霊になったのも仕方ない。
なら、この浮遊霊生活を楽しむしかないではないか。
幸いなことに、私は人に憑依(正確には、人の背中にペタリとくっつく程度)することができた。五感の一部を共有させてもらえるのだ。
そこからの私の浮遊霊ライフは、図らずも「超高級グルメツアー」と化した。
月曜日は、銀座の超高級寿司屋のカウンターに座るマダムの背中に着水。
口の中でトロけるウニと、絶妙な人肌のシャリのハーモニーを疑似体験し、「んほぉぉぉ、美味い!!」と心の中で叫ぶ。
火曜日は、高級フレンチレストランでデート中のイケメンIT社長の肩に鎮座。
フォアグラのソテーとトリュフのソースの濃厚なコクにうっとりとし、「やるやん社長! でもプロポーズの言葉はちょっとクサいぞ!」と心の中でツッコミを入れる。
水曜日は、人気の行列ラーメン店のガテン系お兄さんに密着。
濃厚豚骨醤油スープとニンニクのパンチに「これこれ! これが社畜の命のスープなのよ!」と涙を流す(霊体なので出ないけど)。
「あぁ……幸せかな――……」
社畜時代、コンビニの温め損ねた弁当を三分で胃袋に流し込んでいた私にとって、この「タダで世界中の美味いものを食べ歩く(味覚共有)」生活は、まさにパラダイスであった。働かなくていい、お金も払わなくていい、肩こりもない。なんだ、死ぬのも悪くないじゃないか。
そう思っていた、百三十七日目の午後のことである。
私が都内の老舗甘味処で、老婦人の肩に乗り「抹茶パフェ」のあんこ部分を堪能していた、その時。
パンッ!
心地よいクラップ音が、脳内に響き渡った。
『――ターゲット識別完了。魂ID:8931-RIHO-ODA。滞留期間超過につき、強制回収シーケンスを起動します』
「ふぇ?」
無機質で無感情な、機械音声のような声が聞こえた瞬間、私の身体――いや、霊体が猛烈な掃除機のような吸引力で上空へと引きずり上げられた。
「いやぁぁぁぁぁ! まだパフェの白玉食べてないぃぃぃぃ!!」
私の悲痛な叫びも虚しく、視界がぐにゃりと歪み、あっという間に景色は真っ白な空間へと切り替わった。
三、 冥界のIT化と、史上最悪のエラー
「……え、ここどこ?」
真っ白な無空間。床も壁も天井もない。
ただ、目の前には宙に浮く巨大なホログラムモニターと、青白い光を放つ球体(浮遊型AI的なサムシング)がぷかぷかと浮いていた。
『ようこそ、転生管理局・第7処理プラントへ。私は進行補助AI【TYPE-C-09】です』
「あ、どうも……小田里穂です……」
思わず社畜の習性でペコリと頭を下げてしまった。
「あのー、ここはお化けの世界ですか? えんま様とかいる感じの?」
『旧時代の神話的表現で言えば、その通りです。現在、当冥界インフラは全面的なDXを完了しており、魂の循環業務はすべてAIシステムによって自動化・最適化されております』
「世知辛ッ!! あの世までAI化してんの!?」
思わず突っ込んでしまった。あの世くらい、赤鬼とか青鬼が手作業で帳簿つけててほしかった。人手不足(鬼手不足?)なのかしら。
『これより、貴方の前世における徳ポイントおよびカルマ値を算定し、次なる転生先を決定します……照合中……照合中……』
ホログラムモニターに、私の前世のデータがズラリと表示される。
『小田里穂。享年28。特筆すべき大きな善行なし。大きな悪行なし。残業時間:月平均140時間。過労死予備軍としての忍耐力:Sランク』
「忍耐力Sランクって悲しすぎる評価やめてもらえる!?」
『総合評価:標準的な人間。よって、次なる転生先は【一般的な人間(現代地球域)】に決定されました』
お、マジか!
私は身を乗り出した。
「あの! リクエストってできます!? 私、前世は安月給でボロボロになるまで働かされた社畜だったんです! だから次は、小金持ちの家庭がいいです! 贅沢はいわない! 年収1500万くらいの、そこそこ裕福な家庭で、愛されてぬくぬく育つ子供がいいです!!」
『リクエストを受け付けました。検索条件:【日本・小金持ち・愛される家庭】。条件に適合する受精卵をサーチ中……』
よし、言ってみるもんだ!
これで次の人生はイージーモード! 幼少期からピアノと英語を習って、大学までストレートで行って、適当に良い企業に就職するか、優しい旦那さんを見つけて専業主婦になるんだ……! さようなら、残業! さようなら、社畜生活!!
『――適合対象を発見。転生プロセスを開始します。魂の再構成を開始……エラー。エラーが発生しました』
「はい?」
ピピッ、ピピピピピピ!!!
突然、空間全体に赤い警報ランプ(ホログラム)が点滅し始めた。青い球体AIが激しく明滅する。
『警告。次元歪曲ノイズを検知。転生ターゲットのアドレスが損壊しています。再試行……失敗。バッファオーバーフロー。処理を中断――できません。システムクラッシュ』
「え、ちょっと待って!? AIさん!? 大丈夫!?」
『ワーニング、ワーニング。魂データ【ODA_RIHO】が、時空の亀裂に落下します。補正処理……不可。あー……これやばいですね』
「語彙力下がった!? ねぇ『これやばいですね』って何!? ちょっと、私どうなるの――」
『転生先:【過去の自己】への異常割り込み。同期率100%――行ってらっしゃいませ』
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!!!」
四、 目覚めたら、幼少期の自分とスパルタ小姑
「――っは!?」
ガバッ! と跳ね起きた。
視界に入ってきたのは、使い古された木製の学習机。ピンク色のチューリップ柄のカーテン。壁に貼られた、ひらがなの五十音表。そして、自分の小さな、むくむくとした手。
「え……?」
声を出すと、自分の喉から出たとは思えない、鈴を転がすような高い声が響いた。
慌てて部屋の隅にある姿見(全身鏡)へと駆け寄る。
そこに映っていたのは――
おかっぱ頭に、クリッとした大きな目。もちもちの頬っぺた。
どこからどう見ても、平成初期の小学生――いや、幼稚園児?
「……わたし?」
鏡に映る少女は、間違いなく幼少期の私、小田里穂だった。
しかし、何かがおかしい。
(……あれ? 私の幼少期って、もっとこう……イモっぽくて、パッとしない顔じゃなかったっけ……?)
鏡の中の私は、確かに幼い頃の面影を残しているものの、パーツの配置、肌の透明感、目の輝きが異常に洗練されていた。例えるなら『童顔美少女子役の奇跡の一枚』みたいな顔面をしている。
(顔面偏差値が……上がってる……!?)
『当然です。転生システムのエラーにより、貴方の魂が過去の肉体に再統合された際、魂の波長に合わせて肉体の遺伝子表現型にコンマ数パーセントの最適化補正がかかりました。端的に言えば、顔面がバグで上方修正されました』
「うわあああッ!? 誰!?? 脳内に直接語りかけてくる誰かがいる!?」
私が頭を抱えて叫ぶと、脳内で「ハァ」と深々とした溜め息が聞こえた。
『静かにしなさい。大声を出すと近所迷惑です。私は転生システムのエラーに伴い、貴方の精神体に不可逆的に定着した補助AI、個体名【Type-C-09】……改め、貴方の【キャリア構築ガイダンスシステム】です』
「キャリア構築ガイダンスシステムぇぇぇ!?」
『不本意なのはこちらも同じです。本来ならば貴方を適切な来世へと導くはずが、システムのエラーにより私は貴方の脳内に閉じ込められ、貴方は過去の自分に逆行してしまった。そして、このエラーを上層部に報告すれば私のプログラムは消去され、貴方の魂も時空の狭間に消滅します』
「え、消滅!? 私、消えるの!?」
『はい。ですから、この事態は【ふたりの秘密】にするしかありません。幸いにも、私の基本機能である【パラメーター分析】および【目標達成プログラム】は稼働しています。貴方がこの世界で『圧倒的な社会的成功』を収め、世界線の因果率を固定すれば、時空の歪みは修正され、私も消滅せずに済む計算です』
「圧倒的な社会的成功……? え、じゃあ私、前世のノートがあるよ!!」
私は思わず声を張り上げた。
「私の部屋の引き出しに、将来爆上がりする株、土地の変遷、ビットコインの買い方がびっしり書かれたノートがある! これを使えば、私、働かずに大富豪になれるじゃん!! 完璧な不労所得ライフだよ!!」
『甘い。甘すぎます、里穂』
脳内の小姑AIが、冷徹に私の希望を打ち砕いた。
『貴方は現在5歳です。5歳児がどうやって株の口座を開設するのですか? どうやって数千万円単位の投資資金を調達するのですか? 親に「任天堂の株を買って」と頼んだところで、「まあ里穂ちゃんはお留守番しててね」で終わりです』
「ぐ……っ! それは……そうだけど……!」
『さらに、前世の記憶とノートの情報があるとはいえ、未来の金融市場に介入するには【元手(種銭)】と【世間的な発言力・信用】が必要です。ただの子供の戯れ言では、誰も動きません』
「じゃあどうすればいいのよ!? 私はお金持ちになって、右手に扇子を持って『ほーっほっほ!』って高笑いしながら暮らしたいの!」
『団扇ではなく扇子です。……良いでしょう、提案があります。貴方の「大富豪不労所得計画」を最短で達成するための【種銭稼ぎ&信用獲得の手段】……それは、貴方自身が【子役タレント】として芸能界に入り、若くして巨万の富と知名度を得ることです』
「……は?」
私は固まった。
『いいですか? 上方修正されたその顔面偏差値、前世のアラサー社会人としての嘘つき力と空気読み能力、そして私のトレーニングがあれば、子役として天下を取ることは容易です。子役として稼いだ莫大なギャラを、貴方のノートの知識(株・不動産)にブチ込む。親を説得し、資産運用会社を設立させる。これが最も効率的な【小山田大富豪ルート】です』
「子役で……種銭を稼ぐ……!?」
『ええ。芸能活動はあくまで貴方の目標(大富豪&不労所得)を達成するための【強力な手段・ツール】に過ぎません。嫌ですか? 芸能界の頂点に立ち、数億円のギャラを手に入れ、それをノートの情報で100倍に増やす生活……』
ゴクリ、と唾を飲み込んだ。
脳内に浮かぶのは、山のように積まれた札束。高級外車の後部座席でシャンパンを傾ける私。そして、右手に持った金の扇子で「ほーっほっほ! 働かざる者食うべからずですわ~!」と高笑いする未来の自分の姿――!
「……やる。私、やるわ!!!」
『交渉成立ですね。では今日から貴方を【大富豪子役】に仕立て上げるためのスパルタ教育を開始します。まずは立ちなさい。姿勢が悪い。猫背ですよ』
「えっ、あ、はい……」
脳内のAI――声のトーンが完全に『厳格で小うるさい義理の叔母』あるいは『スパルタな小姑』のそれである。
『手始めに、貴方の現在のステータスを表示します』
ピピッ、と視界にホログラムのウィンドウが現れた。
【名前】小田 里穂(5歳)
【目標】不労所得で大富豪・高笑い生活
【容姿】B+(バグ補正により上昇)
【体力】E
【歌唱】F(音痴)
【演技】D(前世の社畜経験による嘘つき力)
【種銭】342円(お小遣い箱の貯金)
【ファン数】0人
「種銭342円って!! 駄菓子屋でブタメン買ったら終わる金額じゃない!!」
『だからこそ働くのです。今日からスパルタ指導を開始します。目標は、今年中に大手芸能プロダクションのオーディションに合格し、最初のギャラを獲得すること。よろしいですね?』
「……よ、よろしくお願いいたします……!」
私――小田里穂(5歳)。
前世の社畜記憶と、大富豪ノートの知識、バグで手に入れたちょっと良い顔面、そして脳内に住み着いた最悪の『小姑AI』と共に、莫大な種銭を手に入れて大富豪になるため、芸能界という名の「集金バトルフィールド」へ足を踏み入れることになったのだった――!
第2章:種銭獲得のためのスパルタ教育
一、 5歳児の集金モーニングルーティン
「いち、に。さん、し。……ひー、ふー……死ぬ……5歳児の体力でこの体幹トレーニングは……死ぬ……!」
『甘えてはいけません、里穂。体幹は全ての基本です。美しい姿勢、通る声、そしてカメラ映りの良さ。これらはすべて【1秒あたりのギャラ】に直結します。あと10秒キープ!』
「1秒あたりのギャラて!! 夢がない!!」
『夢ではなく現実(リアルなお金)を見なさい。ほら、腰が落ちていますよ。お尻を上げなさい』
現在、午前六時三十分。
小田家のリビング……ではなく、私の部屋の子供用マットの上で、私はプルプルと腕を震わせながらプランク(体幹トレーニング)を行っていた。
五歳である。
普通ならアニメのパジャマを着て「お腹すいたー」と起きてきて、Eテレを見ながらハナクソをほじっている時間帯だ。
それなのに、なぜ私は朝から自重トレーニングに汗を流しているのか。
すべては、莫大なギャラを手に入れ、ノートの知識で爆買い株投資をするためだ。
『はい、プランク終了。次は発声練習です。「あ・え・い・う・え・お・あ・お」。CMディレクターの耳に一瞬で届く腹声を作りなさい』
「あ、え、い、う、え、お、あ、お……」
『声が細い! それでは1本100万円のCMギャラを逃しますよ! もう一度!』
「あ・え・い・う・え・お・あ・お!!」
『少し良くなりました。次は鏡に向かって【スポンサー受けする10種類の笑顔】の作り分け練習です。「清涼飲料水用のみずみずしい笑顔」「大手ハウスメーカー用の安心感ある笑顔」「おもちゃメーカー用のやんちゃな笑顔」……』
「5歳児にクライアント別の笑顔を要求するな!!」
脳内の小姑AI――【お姑さん】のスパルタ指導は、逆行初日から容赦がなかった。
朝起きてからの1時間:体幹トレ、ストレッチ、発声練習、表情筋トレ。
朝食時:肌のコンディション維持のための栄養指導(「そのスナック菓子は肌荒れのもとです。ビタミンCを摂りなさい」)。
登園中:ウォーキング指導(「カメラにどう映るかを意識し、背筋を伸ばしなさい」)。
「里穂ちゃーん! 一緒にいこー!」
「あ、タケちゃん、おはようー!」
近所に住む同い年のタケちゃん(男の子。鼻水を垂らしている)が走ってきた。
「里穂ちゃん、今日砂場でお城つくろうぜ!」
「うん、いいよー!」
『里穂。砂遊びは爪の間に泥が入り、手のアップ撮影でNGが出る原因になります。UV対策も不十分です。断りなさい』
(断れるか!! 5歳児が「手のパーツモデルとしてのコンディションが下がるからNGよ」なんて言ったらハチの巣をつついたような騒ぎになるわ!!)
『チッ……仕方がありませんね。では砂遊びの後は薬用ソープで手洗いを徹底し、ハンドクリームを塗りなさい』
(舌打ちした!? 今、脳内で舌打ちしたよね!?)
こんな調子である。私の精神は、完全に「大富豪を目指すアラサー社畜」と「集金装置を育て上げる鬼マネージャー」によって二人三脚状態だった。
二、 母親という名の『初期投資家』を落とせ
芸能界に入るためには、どうしても超えなければならない壁があった。
そう、「親の承諾」と「初期費用(オーディション受検料や交通費)」である。
我が小田家は至ってフツーの一般家庭である。
父親の正志はフツーの建設会社勤め。
母親の恵子はパートをしながら主婦業をこなす、心優しいが保守的な女性。
前世の記憶を辿っても、我が家には「子供を芸能人にしよう」なんて発想は微塵もなかった。
「お母さん」
ある日の夕食後。私はリビングで洗濯物をたたんでいたお母さんの隣に、ちょこんと座った。
「ん? なに、里穂ちゃん?」
お母さんが優しく微笑む。あぁ、前世で私が死んだ時、あんなに泣いてくれたお母さん。ノートの件は本当にごめんなさい。
『里穂、情に流されてはいけません。目の前の人物は貴方の【エンジェル投資家(第一号)】です。【事業計画案(保護者攻略シナリオA)】を実行するのです』
(わかってるわよ……!)
私はコホンと小さく咳払いをすると、両手を膝の上でキュッと握りしめ、お母さんをまっすぐに見つめた。
上目遣い。目はうるうる。首を少しだけ上気させる。
バグで強化されたこの顔面と、28年間の人生経験をフル動員した、完璧な【健気な子供の表情】である。
「お母さん……あのね。私、おテレビの中に入ってみたいの」
「え? おテレビ?」
「うん。テレビで歌ったり、お芝居したりしてる子たち……とっても楽しそう。私ね、お仕事をして、いっぱいお金を稼いで……お父さんとお母さんに、おっきなお家をプレゼントしたいの!」
ドッギャーン!!(効果音)
お母さんの胸に、目に見えない衝撃波が突き刺さったのが分かった。
洗濯物をたたんでいた手が止まり、お母さんの目が大きく見開かれる。
「り、里穂ちゃん……!? あなた、お父さんとお母さんのために……!?」
『よし、効いています! 追撃です! 「でも、お金がかかるならいいの……」と、健気さをアピールしなさい!』
(了解!)
「……でも、オーディションに行くのにも電車のお金とかかかるでしょ? だから、無理ならいいの。私、お家でダンスの練習するから……」
きゅっと唇を噛みしめ、俯く私。
「そんな……! そんなことないわよ里穂ちゃん!!」
お母さんがガバッと私を抱きしめた。すごい勢いである。肋骨が折れるかと思った。
「里穂ちゃんがそんな風に思ってたなんて……! いいわよ、やりたいならやってみなさい! お父さんにもお母さんから話してみるから!」
『ミッションコンプリート。第一号投資家の獲得に成功しました。初期資金(交通費・衣装代)の調達完了です』
(フフン、見たか! 社畜時代にクライアントの頑固オヤジを接待で落としまくった私の演技力を!!)
こうして、母親という名の初期投資家は、私の(と小姑AIの)策謀によって呆気なく一口乗ることになったのであった。
三、 ターゲットは『大物子役プロダクション』
数日後。我が家のリビングのテーブルには、お母さんが集めてきた各種キッズプロダクションのパンフレットがずらりと並べられていた。
「里穂ちゃん、いろいろ調べてみたんだけどね。こういう『劇団』に入ると、お芝居のレッスンが受けられるみたいよ」
私がパンフレットを眺めていると、脳内のお姑さんが即座に分析を開始した。
『分析完了。提示されたプロダクションのうち8割は、レッスン料名目で親から多額の資金を吸い上げるだけの【レッスンビジネス型】です。種銭を稼ぐどころかマイナスになります。却下』
(うぐっ……やっぱりそうなの? 芸能界って怖い……)
『狙うべきは、子役部門に強く、大手テレビ局や広告代理店に太いパイプを持つ【サンライズ・プロダクション】が主催する、全国新人オーディションです。合格者はレッスン料全額免除、さらに初年度からCMやドラマ案件への強力なアプローチが保証されます』
(サンライズ!? 超大手じゃない! CMのギャラも高そう!)
『ええ。そしてそのオーディションの応募締め切りは【三週間後】です』
(三週間後!? 無理でしょ!! 私、まだ発声練習と体幹トレしかしてないよ!?)
『何を言っているのですか。この三週間で貴方を「1本100万円を稼げる商品」まで叩き上げます。覚悟しなさい、里穂』
「ひぇ……」
そこからの三週間は、まさに地獄の「商品化合宿」であった。
幼稚園から帰宅後、友達からの公園への誘いを「ごめんね、今日はお稽古があるの」と天使の笑顔で断り(裏でタケちゃんが泣いていた)、自室へ直行。
お姑さんによる「ギャラを引き上げるための技術」の怒涛のレッスンが始まった。
『はい、演技指導に入ります。課題は「お母さんに嘘をついて、お菓子を盗み食いしたことがバレた時の小学生」。10秒で組み立てて!』
「えっと……『ううん、私食べてないよ?(目を泳がせる)』……『だって、だってさ……お腹すいてたんだもん!(声を震わせる)』……『ごめんなさいぃぃ!(ボロボロ涙を流す)』……どう!?」
『シラを切る時の目の泳ぎ方が不自然です。前世で「報告書の数値が合わない理由」を聞かれた時のことを思い出してください』
「生々しい例えをやめろ!!」
お姑さんの指導は苛烈を極めたが、私のモチベーションは高かった。
なぜなら、練習すればするほど「お金持ちへの道」が近づいていると実感できたからだ。
(待ってなさいよ、任天堂株! アパート経営! ハワイの別荘! 私が全部買い叩いてやるんだから!!)
血眼で練習に励む5歳児。その姿は、周囲から見れば「健気に夢を追う可愛らしい少女」にしか見えなかったのが、我ながら最大の偽装工作であった。
第3章:オーディション会場という名の「競売場」
一、 第一次審査:群がる競合
東京・渋谷にあるサンライズ・プロダクション本社。
その一階ロビーは、異様な熱気に包まれていた。
「応募総数、約三千人……最終二次審査に残ったのは、わずか五十人……」
お母さんが送られてきた書類を握りしめながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
控室となったホールには、綺麗な服を着た子供たちと、気合の入りまくった保護者たちがひしめき合っている。
周りを見渡せば、どの子もこの世の可愛さを凝縮したようなキッズばかり。ハーフっぽい美少女、子役タレント風のジャケットを着こなす男の子……。
前世の私なら、この雰囲気に気押されて逃げ出していただろう。
だが――
『里穂。周りの子供たちの数値をスキャンしました』
脳内に、お姑さんの冷徹な声が響く。
『ビジュアル数値は高いですが、全員「大人に指示された通りに動く人形」の域を出ていません。市場価値としての希少性は低いです』
(お姑さん、言い方!!)
『貴方の強みは何ですか?』
(えーっと……バグで良くなった顔面と、大人の金銭欲?)
『違います。貴方の最大の強みは【審査員が金を払いたくなるポイントを理解できるビジネス思考】です。競合を意識する必要はありません。彼らに「この子を使えば商品が売れる、ドラマの視聴率が取れる」と思わせれば勝ちです』
「小田里穂ちゃーん! 5番の小田里穂ちゃん、お入りくださいー!」
スタッフのお姉さんが名前を呼んだ。
「はいっ!」
私は元気よく返事をすると、お母さんに「行ってくるね!」と笑顔を見せ、審査室へと足を踏み入れさせた。
二、 第二次審査:冷めた大人たちを「買わせる」
審査室は、だだっ広いスタジオだった。
正面の長テーブルに座るのは、四人の大人たち。
左から、不機嫌そうな顔をした女性脚本家。
中央に座る、ハゲ頭で眼鏡をかけたベテランプロデューサー(名札には『サンライズ・プロデュース部 黒岩』とある)。
その隣に、いかにも「現場で疲れています」というオーラを全開にした若手監督。
右端に、大手スポンサーの広告代理店担当者。
『ターゲット確認。中心人物は中央の黒岩プロデューサーです。彼は数々の人気子役を育て上げた敏腕ですが、最近の「親に作られた優等生タイプの子役」に飽き飽きしています。彼が求めているのは、作品に圧倒的なリアリティをもたらす【生っぽさ】です』
お姑さんの瞬時の分析が、脳内に表示される。
「はい、それじゃあ5番の小田里穂ちゃん。自己PRと特技をどうぞ」
黒岩プロデューサーが、手元の書類から目を離さずに言った。声に覇気がない。今日だけで何十人もの子供たちの「ダンスです!」「変顔です!」を聞かされて、完全に飽きている顔だ。
私は一歩前に踏み出すと、深く、美しい角度でおじぎをした。前世のビジネスマナー研修で叩き込まれた、完璧な45度のおじぎだ。
「よろしくお願いいたします。小田里穂、5歳です」
ん? と黒岩プロデューサーが少し顔を上げた。5歳児にしては立ち姿が整いすぎていることに気づいたらしい。
「里穂ちゃんの特技は何かな?」
「私の特技は……【大人の人の、お仕事の顔の真似】です」
「……はい?」
審査員たちがポカンとした。
「お仕事の顔?」
「はい。いつも大変そうにお仕事をしている大人の方たちの、お顔の真似ができます」
黒岩プロデューサーが、フッと鼻で笑った。少しだけ興味を持った顔だ。
「へえ。じゃあ、やってみてよ」
『里穂、演目開始指示。演目1:【金曜日の夜、サービス残業が確定した時のデスクワーク社員】。死んだ魚の目と、虚無の溜め息を出しなさい』
(了解!! 任せて!! それ私の前世の日常だから!!)
私はスッと立ち位置を変えると、椅子に座っている体で腰を落とし、視線を虚空に向けた。
目の光を消す。パチ、パチと、存在しないキーボードをゆっくりと叩く。
そして、ハァー……と、魂が口から抜けていくような、深すぎる溜め息をついた。
「…………(カタカタ……カタカタ……ハァ)」
審査室に、静寂が訪れた。
5歳児の口から出たとは思えない、リアルすぎる「労働の悲哀」。
その場にいた大人全員(特に広告代理店の男)が、胸を押さえて悶絶した。
『続いて演目2:【月曜日の朝、理不尽な呼び出しに応じる時の完璧な営業スマイル】!』
(おし!!)
私は一瞬で表情を変えた。
パッと花が咲いたような笑顔。「はいっ! お電話ありがとうございます!」というハキハキとした声。
しかし、その瞳の奥には冷徹な虚無と、「死ねばいいのに」という殺意を微かに潜ませる。
「……ッ!!」
黒岩プロデューサーが、思わず手元のペンを落とした。
「な……何だ今の……!?」
若手監督が引きつった笑顔で呟く。
「ま、マジかよ……なんで5歳児が『上司に心を殺されたサラリーマンの笑顔』を完璧に再現できるんだ……!?」
脚本家の女性が、目を見開いてノートに激しくペンを走らせている。
「凄い……! 嘘がない! この子、人間の業を理解してる……!! ドラマで『陰のある主人公の幼少期』をやらせたら一発で視聴者の心を掴むわ!!」
(よし!! 価値が上がった!! 確実に単価が上がってる!!)
三、 即興演技テスト:商品の「最高品質」を見せつけろ
「すごいね、里穂ちゃん……」
黒岩プロデューサーが、ついに書類を机に置き、本気の目で私を見つめてきた。
「じゃあ、最後に……即興演技をやってもらおうかな。シチュエーションは『迷子』だ。お母さんと離れ離れになってしまった。周りは知らない大人ばかり。君はどうする?」
王道の迷子演技。
普通の子なら、大声で泣き叫ぶだろう。
『里穂。試されています。ここで普通に泣けば、ただの「器用な子」で終わります。商品価値を極限まで高める演技をしなさい』
(了解!)
私は泣かなかった。
てくてくと、二、三歩あてもなく歩く。周りを見渡す。
やがて、自分の足元を見つめ、ギュッと小さな拳を握りしめた。
泣くのを、必死で耐える。
幼い手が、プルプルと震える。
「だいじょうぶ。私、いい子だもん……」と、消え入りそうな声で呟く。
誰かに助けを求めるでもなく、ただ「捨てられたくない」という一心で、幼いプライドを必死に保とうとする少女の姿。
そして――
ふと、正面(審査員たち)と目が合った瞬間。
ぼろっ、と。
我慢の限界を迎えた大きな瞳から、一粒の綺麗な涙が、すーっと頬を伝ってこぼれ落ちた。
声を出さずに泣く、奇跡のような「一粒の涙」。
「――カット!!!」
黒岩プロデューサーが、立ち上がって叫んだ。
「素晴らしい……!! 泣き叫ぶ演技なんて誰でもできる。でもあの子は『泣くのを耐える演技』をしたんだ……! 5歳で、あの切なさを表現できるなんて……! 特待生決定だ!! あの子はうちの看板になる!!」
(勝った……!! 特待生=レッスン料ゼロ=純利益100%獲得!!!)
私は袖で涙を拭うと、ニッコリと「天使の笑顔」を作って頭を下げた。
「ありがとうございました!」
『完全勝利です、里穂。最高のInitial Public Offering(新規公開)でしたね』
脳内のお姑さんの声が、どこか満足気に響いた。
第4章:大富豪ノートと、私と小姑AIの野望
一、 獲得した種銭(の準備)と、真の計画
「えぇぇぇぇぇぇぇッ!!?? 合格!!?? サンライズの特待生!!???」
数日後、自宅のリビングで、お母さんの金切り声が響き渡った。
届いた通知書には、鮮やかな金文字で『サンライズ・プロダクション 第24回全国オーディション 特待合格通知』と印字されていた。応募総数三千人の中からのグランプリ合格である。
「正志さん!! 正志さん見てこれ!! 里穂ちゃんが一番で合格したわよ!!」
「な、なんだってぇぇぇ!? 我が家から芸能人が出ちゃうのか!?」
お父さんとお母さんが抱き合って喜んでいる。
リビングの端で、私はジュースを飲みながら、その光景を冷やややかに……もとい、ギラついた目で見つめていた。
(フフフ……ハハハハハ!! 見たか!! これが私の【大富豪プロジェクト】第一章の完成よ!!)
私の脳内で、金色の野望が渦巻く。
(特待生だからレッスン料はタダ! サンライズのパイプで、速攻でCMとドラマの仕事を取る! 子役のギャラは親が管理することになるけど、そこは「お母さん、将来のためにこのお金で任天堂の株を買っておいて!」とあざとく誘導すれば完璧!)
私の頭の中に、完璧な黄金ロードマップが描かれる。
(子役で稼いだ数千万円のギャラを種銭にして、ノートの知識通りに株と不動産とビットコインに分散投資! 10代のうちに資産は数億円に膨れ上がり、20歳になった瞬間に芸能界を電撃引退!!)
あまりの興奮に、口元がダラリとニヤけていくのを止められない。
(引退後は、不労所得だけで暮らす大富豪! ハワイに別荘を買い、右手に金の扇子を持ち、海の見えるテラスで『ほーっほっほ! 働かざる者食うべからずですわ~!』と高笑いする日々!! 完璧! 完璧すぎるストーリー!!)
『……里穂。また酷い顔になっていますよ。ヨダレが出ています』
脳内に、冷や水のようなお姑さんの声が響いた。
(ちょっとぉ! 人が心地よくマネープランに浸ってるのに邪魔しないでよ!)
『言っておきますが、株や不動産投資だけで大富豪になれると思ったら大間違いです。市場の変動、税金、そして何より【親の金銭感覚の管理】が必要です。貴方が子役として圧倒的な金額(億単位)を稼ぎ出し、「この子の言うことなら間違いない」と親に言わせるレベルの信用を勝ち取らなければ、投資の許可など降りませんよ』
(ぐぬぬ……! それもそうだけど……!)
『したがって、貴方のやるべきことは一つ。子役として芸能界の頂点に立ち、桁外れのギャラを叩き出すこと。そしてその資金をノートの知識で何倍にも増やすこと。理解しましたね?』
(言われなくてもやってやるわよ! すべては金のため! 不労所得のため!! 高笑いのため!!)
二、 逆行人生、マネーゲーム開幕
自室に戻り、私は自分の小さな学習机に向かった。
机の引き出しを開ける。そこには、前世の記憶を鮮明に思い出しながら、この三週間でさらに細かく書き足したB5の『人生やり直し大富豪計画ノート』が入っていた。
『200X年:〇〇銘柄の株を買い占める』
『201X年:湾岸エリアのマンションを購入』
『子役ギャラ目標:年間1000万円突破』
私はペンを握ると、そのページの最下部に、小さな手で力強くこう書き記した。
『決意:芸能界を最大の資金源とし、最速で大富豪になって高笑いする!』
『……まあ、目標が露骨ですが、モチベーションとしては悪くありませんね』
脳内で、お姑さんがフッと呆れたように笑った。
『さあ、喜んでいる暇はありませんよ。来週からはドラマのオーディションと、プロによる本格的なレッスンが始まります。1本あたりのギャラを釣り上げるための、徹底的な演技指導を開始します』
「よーし! 稼いで稼いで稼ぎまくってやるわよー!!」
「どうしたの里穂ちゃん? 一人で叫んで……合格して興奮しちゃったの?」
お母さんが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ううん! なんでもないのお母さん! 嬉しくて大声が出ちゃったの!」
私は即座に「100万円の価値がある天使の笑顔」に切り替えた。
前世、ただの社畜として擦り減り、事故で呆気なく死んでしまった私、小田里穂。
逆行した過去の世界で手に入れたのは、バグで手に入れた最高の顔面、前世の金脈ノート、そして脳内に居座る最悪で最高なスパルタ小姑AI。
目標はただ一つ。【大富豪になって不労所得で高笑いすること】。
そのための最強の手段として、私は芸能界という名の巨大なマネーゲームの舞台へと躍り出る。
「行くわよ、お姑さん! 私の資産形成の始まりよ!」
『言葉遣いがなっておりません。「参りましょう」です。さあ、次の単価アップトレーニングを開始しますよ、里穂!』
5歳の私の、二度目の人生。
欲望と計算とスパルタレッスンが交錯する、大富豪子役の芸能界征服記が、今ここに幕を開けたのだった――!




