番外編③大山田の懊悩〈急〉
大山田は同僚の野々原のことで激しく悩んでいた。彼女は、処女らしい。
一体それは、いつ頂いたら良いのだろうか。クリスマスデートの夜か、それとも結婚初夜か……。初夜…なんという甘美な響き……。
ところで、大山田と野々原は付き合っているわけではない。大山田は夜勤番があるので、都合の合う時に晩ご飯へ行く仲止まりであると思っている。
にも関わらず大山田の脳内暴走が止まらないのは、初めてのいわゆるお疲れ様会で、なんの流れか野々原が処女だと聞いてしまったからだ。
しかも今、情報部は何かがキてるようだ。
万年独り身だと思っていた河野がエロい美女に初めてを頂かれ、隠れイケメンの小川主任は積年の推しと想いを遂げた。
次は自分かと思ってしまうのも止む無し…。
童貞と処女…。果たして上手くいくのか?やはり先に童貞を卒業しておいて、歳上の余裕を醸してリードすべきではないか。だがしかし、卒業する当てがない。プロのお姉さんなんて逆にハードル高いわ。
お互いが最初で最後の人になる、というのもロマンが溢れていて大変によろしい。
その場合は、机上であっても予習に重点を置く必要が……いやもう十分だな。2次元でのアレコレならもはや免許皆伝レベル。リアルが皆無なだけだ。
なんだか虚しくなってきたところで、ようやく考えが及ぶ。
え、俺たちって、付き合ってんの?
「なぁ、俺たちって、どういう関係……?」
今夜のお疲れ様会は、野々原チョイス。窓際のカウンター席で横並びだ。野々原の顔は直接見られないが、聞きにくいことも口にしやすい……気がする。
隣の野々原が、怪訝そうに首を傾げた。リアルの女子がしたならば、内心で唾棄するようなその仕草を見て、自分が末期だということを悟る。
KA・WA・I・I……!!
もう壺とか布教目的とかでも赦すわ、俺。もうダメだ、すでに沼の底だった。
「その…付き合ってるのか、って…」
声が尻すぼみになるのは、不可抗力。窓ガラスが鏡みたいになってたらどうしよう。野々原の顔を見る勇気がない。カウンター席で横並びで心底ホントに良かった。
フッ、と息の漏れる音がした。笑ってるのか呆れてるのか、それとも失笑か…。
「決定的なひと言、まだもらってませんが」
「決定的なひと言…」
「分かりやすくしてたつもりなんですが。私から言った方がいいですか?」
「いや、」
大山田はグッと背筋を伸ばした。思考が高速演算を始める。
それってばつまり、男女の仲に持ち込んでもオッケーってなことだな。つまりこの場合は、両想い。りょ!?奇跡だ…。
なんて言うんだ?やはり男気を見せたい。好きです、付き合ってください。
しかし付き合ってどうする?趣味や時間を共有して楽しんで、出来れば夜も共にして…?サイコーだな、おい!
その後は?いつまで付き合うんだ?しかも最近、腹が出てきた。いや、割れてたことなんて皆無だが。そんな俺でも受け入れてくれるのか?それにもし、野々原が見た目通りでなかったら、どうする?実は胸パット三枚くらい入れてるとか…?待て俺は彼女の見た目が好きなのか?いや、俺好みの二次元美少女に、野々原はかすりもしない。当然の事だな。彼女たちはあくまでドリームワールドの住人。
俺は…俺なんかに声を掛けてくれたことが、嬉しかった。好きになったのは彼女自身だ。出来ればこの先もずっと一緒にいたいし、笑ってる彼女が見たい。一番近くで。
そうだ決めた。胸パット三枚くらい、なんだ!そんなの問題じゃねぇ!!啓介、行きまーす!!!
メガネをずり上げる間にそれだけのことを巡らせると、大山田は人生最大出力の勇気を振り絞って口を開いた。
「好きです。結婚前提で、付き合ってください」
なんのひねりもウィットもないド直球。目を見て言うには、それでも勇気が足りなかった。言った後も、顔が見られない。
野々原がゆっくり身を乗り出して、顔を覗き込んできた。就業後なので野々原はメガネ無しだ。
直接、目と目が合う。むき出しの心で向かい合って、拒否か受容か…。
「はい。よろしくお願いします」
笑ってる。野々原がごく自然に、嬉しそうに笑ってる。大山田は世界が突然輝き出した気がした。揺れて、よく見えなくて、光で満ちている。
「先輩、それ何涙ですか?」
野々原が笑いながら備え付けのナフキンを渡してくれる。
「うれし涙に決まってるだろ」
カッコ悪い、俺。
だけど、野々原になら見せられる。野々原が俺を受け入れてくれたから。
「で、俺、何買ったらいいの?」
その後、とんだ勘違いに野々原から怒られまくったのは、言うまでもない。
そして怒られながら、二人ともニヤけていたことも。
後日、情報と総務の女子が再び集まったとか何とか…。
これにて「社畜OLと魔法のドリンク剤」完結といたします!
エピソードは他にまだあるのですが、ジンの株が上がるだけなので、やめておきます…。
お楽しみいただけたでしょうか…
お付き合い頂き誠にありがとうございました!!
次作「ハーレムでのし上がりたい令嬢、募集します」
中世南欧風で参ります。
そちらもお楽しみ頂ければ幸いです!!




