21・嵐の前に青い嵐
今日は土曜日。そう、約束の土曜日。
先輩宅の最寄駅で落ち合う予定なんだけど……ジンに絡まれて外出できないでいる。
「なーんかアヤシイと思ってた。先日からコソコソ、コソコソ……マツリ、言ってみろ、俺に!隠さず!」
「だから先輩宅にお邪魔しに行くだけだって」
私は演技派ではないと思う。なのでジンの目を見て、隠し事を隠し通せる自信は無い。
え?隠すことなんてあったっけ?
「誰と行くんだ、誰と。俺の目を見て言ってみろ?」
「なんか過保護のお父さんみたいよ」
「言えないようなヤツと行くのか?」
玄関で一歩も引かず、いわゆる壁ドン状態で詰問されてるけど、甘さは全く無い。
「ほら。言えよ。」
このままでは待ち合わせ時間に間に合わなくなる。言いたくないだけで、言えないような相手ではない。
「小川主任よ」
「なんだと?マチハルだと?」
「そうよ。悪い?」
青い鬼火のような形相だったジンは、瞬く間に鎮火し、にこにこしだした。
「なんだ、マチハルとか〜。も〜早く言えよ〜。もぉっ!」
180度どころか別ジンになってる。
「なんでアンタが照れてるのよ」
「いや〜。それってデートだろ?どっちから誘ったんだ?なんで誘ったんだ?どこ行くんだ?今夜は泊まりだな?」
予想通りの質問攻め。だから言いたくなかったのよ!
「詳細は企業秘密よ。待ち合わせに遅れるから行くわ」
クールに切り上げようと思ったのに、ジンは離してくれない。
「アリかナシで言ったらどっちなんだ」
「どういうこと?」
「マチハルだよ。アリ?」
ナシだったら頼ってない。
だが敢えて言う。
「そんな二択で割り切れるほど、シンプルな人間じゃないのよ」
「いや、割り切れよ! じゃあ、できるか?マチハルとキ・ス」
「やめてウインクしないで、その口もイヤほんとイヤ」
「考えろ、ってかハートに聞けよ。アリ?ナシ?」
両手でハートを作るジンから目を逸らす。アリかナシかなんて、聞かれなくても分かっている。だけど、なんだかジンには言いたくない。なのに待ち合わせ時間が人質に取られているから、これ以上引き延ばせない。
「まぁ、アリ、よね…」
「アリ!アリよりのアリ!!」
次の瞬間、複数の破裂音が爆音で鳴った。撃たれた!?と思ったが、紙テープまみれになる。
答えた瞬間に、ジンが片手に持てるだけのクラッカーを束ねて一斉にならしたのだ。いやどこに持ってたの。
「よし、挙式だ!」
「待って待って待って!アリ、なだけよ!
ていうかナニ今のクラッカー!近所迷惑でしょ!」
「マツリ!結婚おめでとう!!」
クラッカー並みにデカい声でジンが叫ぶ。
「まだ何も始まってないから!」
「大丈夫だ。これで発砲事件とは思われない。」
ジンのドヤ顔に、これほどイラついたことはない。
「とりあえず出るわ……」
一体どんな顔して会えばいいのか。緊張がまた増した気がする。
メイクが崩れることを覚悟して、駅まで必死に走ったおかげで、予定の電車に間に合った。待合せ時間にも間に合った。
小川主任は先に来ていて、誰かと電話で話していた。が、私を見るなり通話を終わらせる。
「おはようございます」
さわやかに挨拶を交わす。電話、良かったのかな?
小川主任の装いは秋素材のジャケットに開襟シャツ、チノパンとカジュアルにキチンとしてる。何より、
「いつものメガネと違うんだ」
いつもは色付き…ブルーライト対応なメガネ。でも今日のは透明レンズで落ち着いた雰囲気だ。
「今日はパソコンと睨めっこしませんからね」
小川主任はニコニコして言う。なるほど。
「そうね。じゃあ、今日はよろしくお願いします」
「はい!」
それが、長い週末の始まりだった。
次回、デートに見せかけたお宅訪問、マツリ編
朝7:00 更新




