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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
205/231

205話 おまけの兄は異世界で幸せになります(6)

◇◆◇


 宿舎でのお祝い翌日はお休み。これは二日酔いを懸念しての事と、その日の午後にロイが来る予定になっていたからだ。


 今では王太子妃になったロイだけれど、普通に一人で離れた第二騎士団宿舎まで来る。あまりに変わらないから「結婚したっけ?」と疑問に思えるくらいだ。

 今日もほっそりとした体を白いタイトな衣服で飾った優しげ黒髪黒豹お兄さんだ。


「昨日は楽しかったですか?」

「はい、とても」


 ニッコリ笑って伝えたのに、彼の手が俺の目元へと伸びて親指の腹が目の下をなぞる。心配そうな様子の彼はどこか色気があった。


「泣いていましたか? 少し赤いですよ」

「色々と、感極まってしまって。色んな事を思い出したりもして」


 こんな事でバレるなんて、ちょっと恥ずかしいな。

 笑って誤魔化している間にクナルとデレク、そしてフィンも来て、明日の話になった。


「明日はマサさんとクナルは朝に入城していただき、そのまま結婚式当日まで過ごしていただきます」


 日程表を丁寧に出しながらの最終確認。いよいよ迫ってきた感じがして妙に緊張した。


 明日の朝、俺とクナルは城の馬車で王城へと行く。衣装の最終確認なんかもあるし、何より明日は遠方から式に出席してくれる人が到着する日なのだ。そのお迎えもある。


「ウォルテラの紫釉王と燈実将軍は当然か」

「瑞華の千姫と桃も来てくれるのか」

「エルフの森からは次期王のセレン殿とその補佐のアルマニーラ様です」


 皆、俺とは関わりの深い人達だ。皆、俺の結婚式に参加してくれると知って嬉しい限りだ。


「星那とスティーブンさんも明日?」

「だな。二人は俺より後に出発だったし、俺は単騎だから早かった」


 フィンは国境の町レナウォンにいたらしく、そう教えてくれた。


 星那は去年の春に一度王都に戻ってきたけれど、その後スティーブンが王都へと来て星那へプロポーズをし、まずは普通に恋人からと言って住まいを彼が治めるレナウォンへと移してしまった。その後も順調らしく、俺の結婚式の後で正式に婚約する事が決まっている。

 この世界に来た当初、スティーブンは精神操作の魔法でとても嫌な感じになっていたけれど、今は優しくて気遣いのできる良い青年になった。星那もそんな彼が「可愛い」と言っている。


 そして、本来であれば殿下の弟で王族のスティーブンだが、彼の希望でその権利を放棄した。兄である殿下と争わない事と、結婚もしたし子も望めるだろうからその邪魔をしないという意志らしい。

 そのかわり、レナウォン領の正式な領主として公爵の地位は受け取ったみたいだ。


「フスハイムのフェレンツ王とユディト王女も来るのか」


 出席者名簿からデレクがその名を読み上げると、クナルは少し困った顔になる。

 それもそのはずで、北の獣人国フスハイムの王フェレンツはクナルの叔父にあたるのだ。

 去年の冬にまたフスハイムに遊びに行ったのだが、その時もクナルは少しぎこちなかった。両親も故郷の記憶もないクナルにとってフェレンツ王はどう接していいか分からない相手になっている。

 でも、俺の目から見ると二人は不器用な父と息子のようにも見えなくはない。別に仲が悪いわけでも、対立しているわけでもないんだ。少しずつ、ゆっくりと歩み寄っていけばいいと思う。


 他にも西側の代表やドラゴニュート、ドワーフの国からも来るという。前夜だっていうのに偉い人が大勢で、なんだか凄く賑やかな予感がした。


◇◆◇


 そうして翌日、朝食を食べたくらいで城から迎えが来て黒塗りの地味な馬車に乗り込んで移動した。ひっそりと行きたいという俺の希望を叶えてくれた形だ。

 到着したのは城の正面ではなく、それを回り込んだ王族の住居側。大きな正面の城は政治の場でもあり人も多いが、王族の住居区は王族と招かれた人しかいないのでひっそりとしている。今日はこちらにお世話になる。


 馬車を降りると待ち構えていたロイが嬉しそうに目を細めて近付いて、スッと俺の手を引いた。


「おはようございます、マサさん、クナル。早速ですがマサさんをお借りしますね。衣装の最終チェックなどしたいので。クナルは式場の方へ行って現場の確認をお願いします」

「え?」


 何かを言う前に早口に纏め上げたロイに確保され、クナルが何かを言う前にさっさと連れ出されてしまう。呆然としたクナルが呆気に取られている姿を横目に、俺は王族のお屋敷の中へと連れていかれた。


 王族の屋敷だからって華美な装飾はなく、むしろ落ち着いた重厚感がある屋敷となっている。そこには屋敷を取り仕切るメイドさんと一緒に第二王妃のエルシー妃が待ち構えていた。


「お待ちしておりましたわ、マサ。さぁ、試着をして最終確認をいたしますわよ。ヴェールは短い物と長い物、両方用意したのですが決められなくて」

「えぇ!」


 頬に手を当て困り顔をするが、前に試着した時のヴェールも凄く繊細で薄くて付けている感じがしないくらい素敵なもので気後れしたっていうのに、長いのも作ったの!

 裁縫専門のメイドさんを恐る恐る見ると、彼女達はとても満足な顔でサムズアップした。ひえぇ!


「さぁ、来賓の方がいらっしゃる前に始めますわよ! ロイも手伝ってね!」

「はい、エルシー様。二人でマサさんを素敵な花婿にいたしましょう」


 左の腕をエルシー妃が、右の腕をロイが取ってズンズン奥へ。主役のはずの俺だけが取り残される現状で助けはなし。大人しく着せ替え人形になるより他にないのであった。


 ちょっとヨレヨレになりながらクナルと再会したのは少し早めの昼食会場。お屋敷の食堂にはロイとエルシー妃の他に第一王妃のクライド妃と殿下もいて、出てきた料理は王族専属シェフのバルが明日の為に作るものの試作だ。

 じつはこれ、俺も少しレシピ提供してたりする。


「今回はマサの希望もあり、珍しくはありますが立食形式での披露宴となります。よって、食事は全て小さめに作ってあります」


 これは俺もクナルも、勿論城の代表として殿下やロイ、料理長のバルも含めて考えた事だ。

 何がって、来賓の食事情が違いすぎて困ったのだ。


 海王国では海の幸が好まれ、洋食の味付けは少し珍しい。瑞華でも魚料理が多いが、米や味噌や醤油が好まれる。ドラゴニュートは香辛料を沢山使った料理が好まれるが獣人はちょっと苦手。ドワーフなど酒があればいいレベルになる。

 それならいっそ、各々が好きな物を食べればいいだろうと俺が提案した。

 これが王族ならはしたないって言われるかもしれないけれど、主役だろう俺は王族ではないし、そもそも異世界人だ。これも「異世界流の結婚式スタイル」で通す事が出来る。


 ということで、バルと一緒に食事メニューを沢山考えた。


 肉、魚、サラダ、果物、生魚のマリネもある。スパイシーなピザに果物のパイもある。お酒も数種類用意して、そんな酒と合うように三種のソーセージも作った。

 今日はそれらの味チェックと昼食を兼ねている。


「この肉のソースいいね。さっぱりする」


 早速肉にくいついたのはクライド妃だった。ソースは俺特性、すりおろし玉ねぎの醤油風味のやつだ。


「私はやっぱりこのパイがいいわ。四角いサクサク生地にカスタードクリーム、そこに生の果物が乗っていて色鮮やかですし」


 これは本当はパイではなくデニッシュなんだろうけれど、彩りとしては正解だとバルも太鼓判だった。


「ソーセージ辛い」

「それチョリソーだよ!」


 赤味を帯びたソーセージを食べたクナルの尻尾がビビッと逆立ち、勢いよく水を飲み込んでいる。耳がへにゃへにゃになってペタンと閉じた。


「ドラゴニュート用に用意したもんだな。俺も味見してびっくりした」

「確かに刺激的だな。でも、彼らは辛い物を好むというしね」


 殿下も警戒しながら一口。でも、二口目にはいかなかった。


「このピザも辛めだな」

「こっちの白っぽいソーセージは香草の香りがふんわりとして美味しいですよ」


 ソーセージは三種。チョリソーと香草を練り込んだ物、一般的なものだ。エルフは香草を練り込んだ物が好きではないかという話になった。


「マリネの酸味がいつもと違いますね。なんというか、フレッシュな感じがします」

「柑橘系の果物を使っているんです」


 この世界にもビネガーはあるのだが、酸味が強い事が多い。そこで今回はグレープフルーツに似た味わいの果物を使ってマリネした。生の果物の果汁は香りもいいし味も爽やかになる。

 ロイは怖々とサーモンと鯛のマリネを食べて、美味しかったのか無言でおかわりをした。


「この、ふかふかの生地に肉の入ったのが俺は好きだ」

「肉まんね」


 ハフハフさせながら肉まんを頬張るクナルが幸せそうに目尻を下げている。三口程度で食べられる小さな物を蒸し器に入れたまま提供する予定だ。

 点心はいいよな。俺も専門じゃないけれど、本格的に作りたい。海王国が中華料理っぽかったから、今度習いに行ってみようかな。


 そんな事を考えながら試食会は進んでお腹はいっぱい。

 結果、辛いものには注意喚起をする。という事が決まったのだった。

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