127 パスカル②
その時、思ったのです。自分の信念を貫くには強さが必要なのだと。
すべてを失い、商人ギルドに再就職した私に待っていたのは、誰も欲しがらないような土地の管理と売買という仕事。そして、商会を潰した商人という不名誉な称号でした。
そんな称号返上しようと、自棄になってお客様を蔑ろにした商売をしようとしたこともございます。
しかし、私はどうしても師匠の言葉を忘れることはできませんでした。
『商人は、お客様を本当に満足させてこそ、その存在意義が生まれる』
その言葉はまるで呪いのように私を苛みました。
なぜなら、私の扱う商品である土地は、自信を持って誰かにお勧めできるような土地ではなかったためです。
防壁で仕切られ、限られた王都の土地であるため価値こそありますが、同じ値段でより良い土地などいくらでもあるのが現状です。
土地は安い買い物ではございません。
そのため、私はこの土地を買おうとするお客様の笑顔を曇らせないために、他の土地を買うのをお勧めしています。
それ故に自分の評価が地に落ちても、それでも師匠の言葉を忘れることができませんでした。
賢い商人なら、あの手この手でお客様にこの地を買わせ、功績を上げるでしょう。
しかし、私にはそれはできませんでした。
なので、私は三流商人なのです。
今、目の前には若くして成功した冒険者の少年がいます。
少年のなぜという質問に答えるのなら……。
「それが私の矜持だから、でしょうか?」
◇
目の前の冴えない男、パスカルは、オレに忠告した理由を矜持だと言った。
オレにはまだその矜持がどういったものなのかはわからない。
だが、死んだ魚のようなパスカルの目が、キラリと輝いたのが見えた。
このパスカルという男はまだ死んでいない。それが確認できただけでも質問してよかった。
「パスカル、急な話で悪いけど、オレに雇われる気はないかな?」
「はい? 雇われる、ですか? たしかに商人ギルドは商人の斡旋などもしておりますが……。正直な話、私よりも優秀な商人など、それこそ星の数ほどいますよ?」
そんなことを悲しそうな顔で言わないでくれよ。こっちまで悲しくなる。
「いいや、パスカルがいいんだ。オレはパスカルの心根が気に入った!」
「私の、心根……?」
意外そうな、不思議そうな顔をするパスカル。
「そうだよ。パスカルの行動の指針になっている部分って言えばいいのかな? とにかく、オレはパスカルのその素直なところが気に入ったんだ。ぜひとも、オレと一緒に新しい商会を作ってほしい!」
「ッ!」
なぜだかパスカルが一瞬泣きそうな顔になった。知らず知らずのうちにオレはパスカルにひどいことを言ってしまっただろうか?
「で、ですが――――」
「まぁ、何をする商会なのかわからずにこっちに来てくれというのも不安だよね。わかるわかる。オレはこの地に巨大な銭湯を作るつもりなんだ! ああ、銭湯というのは、うーんそうだなぁ。何と言えば伝わるのか……。あれだ。貴族たちが風呂と呼んでいるものがあるだろ? あれを庶民向けに低価格で入れるようにするんだ」
「なッ!? そんな事業の核たる部分を私なんかに話してしまっていいんですか!?」
パスカルが慌てたように周囲を見ている。
幸い、オレとパスカルしかこの場にはいないようだ。
そんなに気にするようなことなのか?
「え? ダメだったか?」
でも、事業内容を知らないのに転職しようぜって勧めてるのはオレだしなぁ。普通、説明するよね?
「ダメかって……それはダメでしょう! こんな画期的なアイディア、秘中の秘ですよ! 間違っても、私なんかに言っちゃダメです!」
そう言い切るパスカル。だが、パスカルの態度で確信した。やっぱりこの人はいい人だ。そして、商人としてギルドで働いてきた経験もあるし、こちらの世界の常識人な気がする。
やっぱりパスカルしかいないな。
「でも、なんでオレがこの土地を欲しているのか、オレが何をやろうとしているのかはわかっただろ? どうだろう? オレとしてはパスカルに手伝ってもらいたいんだが……。給料はこのくらいでどうだろう?」
「ええ!? こんなにたくさん!? ダメですよ! まだ上手くいくかも決まってないのにそんな大金使っちゃあ!」
「いいね! さすがパスカルだ! でも、オレは上手くいくと思うんだがどう思う? パスカルの意見を聞かせてくれ」
「……恐ろしく画期的なアイディアです。上手くいけば、良心的な使用料だとしても、それこそ一年もかからずに費用を回収できると思います」
「いいね!」
まぁ、アイディア自体は前世の知識だからあまり褒められるとこそばゆい気持ちだ。
でも、この世界の住人、それも一般常識を持っていそうな商人であるパスカルが認めてくれたのは大きな自信になった。
「なら、給料はこのくらい出してもいいだろ? オレだけ儲けても仕方ないからね」
「ッ!?」
オレとしてはなんとなく言った言葉なのだが、パスカルはまるで感銘を受けたかのように硬直してしまった。
「その言葉は、師匠の口癖……」
「え?」
師匠? 誰だ? パスカルの商人としての師匠だろうか?
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