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126 パスカル

「買いだ!」


 諸々の要件を勘案した結果、オレは即決でこの土地を買うことに決めた。


「ええ!? ですが、この土地は……」


 商人ギルドから派遣された男はよほど驚いたのか、オレの正気を疑うような顔でオレを見ていた。


 まぁ、普通の商会を立ち上げるなら、あまり向かない土地だろう。


 だが、オレはただの商会を作る予定じゃない。この地に冒険者や職人をターゲットにした銭湯を作るのだ。


 いや、ただの銭湯ではこのスペースはもったいないな。


「この両隣の土地も空いているが、こちらも売りに出されているのか?」

「はい……。なかなか買い手がつかず……」

「じゃあ、この土地も買う!」

「ええ!?」


 決めた! この地に、飲食も可能なスーパー銭湯を作ってやるぞ!


 こういうのは広い方がいいからな。隣接する空いた土地を片っ端から売約していく。


「ちょ、ちょっと待ってください!? あのですね、ここは大変商売には難しい土地でして……。大変言いづらいのですが、初めて商会を持つ方には正直、難しいと言わざるをえなくてですね……。それに土地は確かに安いですが、あくまでもそれは土地の値段としては安いというだけで、これだけ多くの土地をお求めになると、大金に……」


 商人ギルドから派遣された男が、顔の汗をハンカチで拭きながら言う。


「正直ですね、これだけのお金を土地にかけられるのでしたら、王都の大通りの土地も買えてしまいます。絶対にそちらの方がいいですよ!」


 この人、いい人だな。


 商人ギルドとしては、人気のないこの土地を大量に買うオレはカモみたいな存在だろう。この人も、おそらく上司なりに絶対にオレに買わせるように言い含められているに違いない。


 それでも、この男はそれをよしとせず、オレに忠告をしてくれているのだ。


 商人ギルドで働いているということは、この男も商人なのだろう。言うなれば、商人ギルドの不動産部門のセールスマンだ。


 この男は素直すぎる。いや、それだけ今日会ったばかりのオレにまで損をしてほしくないと思っている優しい男だ。


 素直すぎる、優しすぎるのは商人として失格なのかもしれない。商人の中には、客が損をしても自分が儲かればいいという考えの者たちがいるのも事実だ。


 でも、オレの中でこの男の好感度がぐーんと増した。


 改めて見れば、くたびれた印象のちょっと頭頂部が怪しい四十代くらいの男だ。


「忠告は感謝するよ。ありがとう。ところで、もう一度名前を伺ってもいいかな?」

「はえ? あの、パスカルと申します」

「パスカルさん、あなたはいい人だね」

「え?」


 パスカルと名乗った男は、ビックリしたような顔でオレを見ていた。


「普通、買い手がつかないような土地が大量に売れれば、それはパスカルさんの功績になるんじゃないかな?」

「まあ、そうですね……」

「なのに、あなたはオレに王都の大通りに店を持つことを勧めた。それはなぜです? オレたちは今日会ったばかりで、次に会うことがあるかもわからない間柄だ。そんなオレになぜ自分の功績を捨ててまでも忠告してくれたんです?」

「それは……」


 パスカルが考えを纏めるように俯いた。



 ◇



 私はパスカル。商人ギルドの不動産部門で働くしがない職員です。


 そんな私ですが、今は目の前の不気味な髑髏の仮面を被った少年に圧倒されていました。


 元々、目の前の少年は高名な冒険者らしいです。上司からも粗相がないように対応しろと厳重に注意されました。


 大を成した人物というのは、独特のオーラがあります。まさかそのオーラを自分の息子と同じくらいの少年から感じるとは……!


 そして、少年からの質問。それは私の商人としての核心を突く質問でした。


 私は、商人としては二流、三流です。それには、私の持つ矜持が関係しています。


『商人は、お客様を本当に満足させてこそ、その存在意義が生まれる』


 元々は私の師匠の言葉でしたが、いつしか私の商人としての柱になっていました。


 今は商人ギルドの不動産部門の窓際商人の私ですが、昔はある小さな商会の番頭をしておりました。


 充実した、人生最良の毎日だったと思います。師匠の娘とも結婚を許され、ゆくゆくは商会を継ぎ、商会を大きくすることで恩返しをしようと考えていました。


 お客様にお喜びいただけるのは嬉しく、私の誇りでもありました。


 しかし、その商会はもうございません。経済戦争に敗れたためです。


 王都では、限られた土地やお客様を得るために、頻繁に商会同士の金で殴り合うような戦争が起こります。私はそれを経済戦争と呼んでいるのですが、悲しいことに、私の勤めていた商会はそれを乗り切ることができませんでした。


 敗因はわかっているのです。すべては資金力の差でした。


 私の勤めていた商会は、時には自分たちが損をしてもお客様の喜びや世間からの評価を追求していました。


 師匠は「損して徳取れ」とよく言っていました。


 しかし、元々小さな商会であったのも災いし、お客様ファーストの商売ではどうしても利益は小さく、今は商人ギルドの理事をしている商人の商会に資金力で潰されてしまいました。

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