124 ボイラー的魔道具
「いいんですか? 貴重なものなんじゃあ?」
「いえ。勝手に繁殖しますので、処理に困っているほどですよ。王都の商会にも安価で売り出しております。王都ではわりと一般的に使われていますよ」
「そうなんですか……」
驚いたな。オレがたまたま知らずに育っただけで、王都ではかなり一般的なものらしい。
「ありがとうございます。頂戴いたします」
でも、これで公衆浴場の廃水問題が一気に片付いたな。あとは大量に必要になるだろう薪代だが、こちらは考えがあった。
オレが注目したのは魔道具だ。
魔道具とは、魔法で稼働する道具の総称である。主に錬金術師が作ることができるのだが、オレはアリスに水を温める魔道具の製作を依頼しようとしていた。
思い出すのは、リットリアで使われている空間を冷やす魔道具だ。
たぶんだが、冷やすよりも温める方が簡単なのではないだろうか?
とはいえ、公衆浴場のお湯をすべて魔道具で賄おうとすれば、かなり大型の魔道具になるかもしれない。そのあたりもアリスに相談だな。
「この度はありがとうございました」
「いえいえ。お気を付けてお帰りください」
というわけで、オレは浄水施設を見せてくれたドワーフ執事と別れ、カチェリーナの錬金工房を目指す。
校舎の隅に作られた大きな空間。その中には何に使うのかわからないような専門的な道具や機械が並んでいる。ここがカチェリーナの錬金工房だ。
「あら? ジルベールくんじゃない。どうしたのかしら? アリスならまだ授業中よ?」
オレの姿を見てこの錬金工房の主であるカチェリーナが少し驚いた顔をしている。
相変わらず、白衣をビシッと着こなして、すらっとしてて美形だ。驚いている顔すら美しいとか反則だと思う。
まあ、アリスの方がかわいいがね!
「なんだろう? 私、今貶められた?」
「いやだなぁ。そんなことないですよ、カチェリーナ先生。実は今日はカチェリーナ先生とアリスに相談があったのですが、そっか、アリスはまだ授業中か……」
アリスと会えると思っていただけにかなりショックだ。今のオレには圧倒的にアリスニウムが足りない。早くアリスに会いたいな……。
「あのね、人の顔を見ながらテンション下げるのやめてくれないかしら?」
「すみません……。アリスがいないという現実に耐えられそうになくて……」
オレはそのまま錬金工房の床に体育座りをして、俯きながら大きなため息を吐く。
「そんなに!?」
カチェリーナが驚いているが、オレにとってアリスは太陽なのだ。アリスがいない空間なんて死んでいるも同じである。
「それで? 相談があるんでしょう? 私なら話を聞くから、話してみない?」
「はい……」
まぁ、いつまでも嘆いてはいられないか……。
「はぁ……」
「その人の顔を見ながら溜息吐くのやめてくれる?」
「すみません……。カチェリーナ先生は悪くないんです。それはわかっているのですが、どうしても……」
「重症ね……」
カチェリーナは処置なしとばかりにおでこに手を添えていた。
アリスがいないのは非常に残念だが、ここに来た目的を果たそう。
「実は、大量の水を温める魔道具が欲しいんです。可能ですか?」
「大量がどの程度かにもよるけど、おそらく可能よ。どれくらいの量のお湯が必要なの?」
「少し余裕を持たして、学生寮の大浴場の二つ分のお湯が作れるものが欲しいです」
「そんな大量のお湯を作ってどうするのよ? 川の魚でも死滅させるの?」
「そんなことしませんよ。実は学生寮の浴場のような施設を作って商売がしたいんです」
「商売ねー……」
カチェリーナが不審なものを見るような目でオレを見てきた。
なんで?
「どうしたんですか?」
「あなたはもうムノー侯爵家の人間ではないのよね?」
「はい。そうですよ」
「ずっと気になっていたんだけど、あなたってお金はどうしてるの? ムノー侯爵家の人間でないということは、もうムノー侯爵から歳費を貰っているわけではないんでしょう? アリスの授業料もあなたが払っているみたいだし、あなた自身も生活に苦労しているようには見えないし……」
うーむ……。やっぱり不思議に思うよなぁ。
どうしようかな?
まぁ、黙っておくのが賢いか。
べつにカチェリーナが信じられないというわけじゃない。
オレはカチェリーナのことを信用している。
ゲームを通してカチェリーナという人物について知っているというのもあるし、実際に接してみてやっぱりいい人だと思った。
だから、オレはカチェリーナにアリスを託したのである。
でも、カチェリーナはたぶんオレがダンジョンに潜っていることを知ったら、大人として止めるだろう。
なんだかんだカチェリーナはいい人だからなぁ。子どもがそんな危険なことをしていると知ったら必ず止めるはずだ。
だから、オレはカチェリーナには真実を話せない。
でも、カチェリーナが納得するだけの話が必要だ。
どうしたものか……。
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