109 ブラックウルフ戦
ブラックウルフは、個にして群のボスモンスターである。そのすべてを倒さなければ、遠吠えで何度も何度もこうして数を増やすのだ。
範囲攻撃の得意な魔法使いがいれば、そこまで脅威的なボスモンスターではない。
しかし、格闘術は一対一ならば遠近も対応可能な最強クラスのスキル構成だが、あいにくと範囲攻撃スキルだけはなかった。
ブラックウルフを一度に殲滅できない以上、本来ならば、撤退も視野に入るほど厳しい状況である。
「オレでなければ、な」
オレは三つの収納空間を展開すると、即座に今まで集めていた日光を照射する。
「ソーラービーム!」
それはまるでSF映画で見るような、三本の野太いレーザー砲のようだった。
ジュッ!
まるで熱したフライパンにバターを落としたような音が響き、すべてが光に包まれた。目をきつく閉じていても視界は真っ白だ。
「おわったな……」
日光の照射をやめると、途端に感じるのは獰猛なまでの熱風だった。一気に汗が吹き出し、その汗も一瞬で蒸発する。たぶん、身体レベルを上げていなければ、直接照射されていないはずのオレもただでは済まない環境だろう。
それほどまでの破壊力。日光の照射は一秒にも満たないというのに。
ようやく慣れてきた視界で見渡せば、ブラックウルフは一匹残らず消滅しており、地面はとろりとマグマのように溶け、円形闘技場を形成する白い石が赤くなっていた。
これがほんの一秒足らずで起こった災害だと誰が信じるだろう。
「あちち……。お! 宝箱じゃん!」
どうにか固まっている地面の上を歩き、ボス討伐の証である宝箱までたどり着く。
「なにがでるかな? なにがでるかな?」
宝箱を開ける瞬間はいつだってドキドキだ。自分の鼓動が聞こえてきそうである。
オレは第二十五階層のボスモンスターを倒した宝箱からなにが出るかは覚えている。でもここはゲームの中ではなく現実だ。もしかしたら、オレの知らないアイテムが出る可能性だってある。こりゃもうウキウキだね!
「御開帳!」
宝箱を開くと、そこには革のベルトが一本入っていた。
これはゲームでも見たことあるな。
「パワーベルトか。ハズレではないけど……なぁ……」
知っているアイテムの登場にちょっとテンションが下がる。とはいえ、オレは腰装備を持っていないし、ちょうどいいといえばちょうどいい。それに、パワーベルトはその名の通り力の値を上げてくれる装備だ。前衛には嬉しい装備である。
「どうせなら、アリスに渡せる装備の方がよかったんだが……」
まだまだ装備が盤石とはいえないけど、オレは白虎装備と英知の歯車のおかげでそれなりに格好がついている。
問題はアリスの装備だ。未だに店売りの装備というのはいただけない。そろそろ卒業させたいところだけど、その代わりになるような装備も見つからない。
「できれば自分たちで集めたかったけど、お金には余裕があるし、王都で探してみるのもありか?」
この世界には、当然だがオレたち以外にも冒険者がいる。そして、冒険者たちは日夜ダンジョンに潜り、アイテムを持ち帰っている。
持ち帰られたアイテムはどうなるか?
自分たちで使うこともあるだろうが、そのほとんどは売りに出される。王都の店を探せば、ダンジョンから持ち帰られた物で溢れているのが現状だ。
ゲームでは、自分たちでダンジョンに潜り、モンスター倒して手に入れるしかなかったアイテムが、この世界では普通に店で買えるのである。
なんとなくズルをしたような気分になるので今まで買ってこなかったが、解禁してもいいかもしれない。オレの変なプライドよりも、アリスの身の安全の方が億倍も重要なのだ。
「だが……」
オレは自分の顔を隠す髑髏の面を触る。
オレ的には超絶カッコいいと思っていたのだが、周囲の反応を見るとどうやら違うようだ。まぁ、オレは前世の日本人としての感覚が強いし、たぶん美意識も日本人としての感覚が強いのだろう。そのせいでこの世界では若干浮いているのかもしれない。
「うーん……。オレに女の子の服を決めるのは荷が重いか?」
ゲームのデータを思い出して、数値だけを見たコーディネイトならばできるだろう。だが、その場合はチグハグな格好になることを知っている。上半身が緑で下半身が金色、そして魚の顔のマスクとかな。数値だけ見て見た目を捨てると、とんでもないモンスターが生まれるのだ。
たぶん、アリスならばそれでも着てはくれるだろう。内心は嫌でも、嫌な態度一つ見せないかも。そして、オレに微笑んでお礼まで言ってくれるのだ。
だが、オレは嫌だ。アリスにそんな気を使ってほしくない。
というか、オレもアリスにかわいい格好をしてほしいのだ。
「うん。アリスに任せよう。アリスの装備を選びながら、王都をぶらぶらデートしよう。そうしよう」
オレはそう決定を下すと、王都に戻るためにボス部屋を後にするのだった。
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