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104 すべておわって

「敵いませんわね……」


 ひょっこりとテラスを覗いていた俺、コレットの上から溜息を含んだ呟きが落ちてきた。


 見上げると、俯いたエグランティーヌと目が合った。


 エグランティーヌ、泣いてるのか?


 エグランティーヌは俺の視線に気が付くと、バッと後ろを向いてしまう。


「行きますわよ、コルネリウス。わたくしも踊ってきます。付き合いなさい」

「はいはい」

「はいは一回です」


 そんなやり取りをしながら、エグランティーヌとコルネリウスは行ってしまった。


 俺はジルと踊ってたからなにがあったのかよくわからないけど、エグランティーヌが負けを認めるなんてよっぽどのことがあったんだな……。


 俺は、アリスを後ろから強く抱きしめるジルに視線を戻す。


 視線を戻すつもりもなかったし、なんなら舞踏会で用意されたうまそうな料理でも食べに行きたいところなんだが……。なぜか、俺の視線はジルから離すことができなかった。



 ◇



「はよーっす」

「ごきげんよう、コレット。朝の挨拶くらいちゃんとしてください。コレットはやればできる子なんですから」

「わーったよ……。ごきげんよう、アリス、ジル」


 アリスの小言にコレットはバツの悪そうな顔をしてオレの隣に座った。


「おはよう、コレット」

「おう」


 いつも通りのコレットの態度に思わず顔が緩んでしまう。


 舞踏会から数日。コレットを取り巻く環境は一変した。コレットを表立って嘲るような声が一掃されたのだ。


 コレットが舞踏会で素晴らしいダンスを見せたことによって、上級生や先生方がコレットの評価を上げた。


 そして極めつけが、廊下に貼り出された舞踏会での成績優秀者の名前だ。一年生ではオレとコレットの名しか書かれていなかった。つまり、コレットの礼儀作法を嗤っていた貴族たちは、軒並みコレットに礼儀作法で負けたことになる。きっと、彼らの内心は悔しさでいっぱいだろう。南無南無。


 コレットを嗤っていた貴族たちは、ほんの少しだけ貴族としての矜持が残っていたのか、今までのように表立ってコレットを「礼儀のなっていない猿」と呼ぶことができなくなってしまったのだ。


 自分たちは猿に礼儀作法で負けましたと言っているようなものだからね。


 それに、コレットがエグランティーヌの騎士に相応しい結果を出したため、エグランティーヌの見る目の無さを嘆く声も消えた。


 本当は、コレットにはクラスメイトたちとも仲良くしてほしかったのだけど、それは難しいと判断した。その結果、コレットの実力で黙らせる方法を取ったわけだが、綺麗に決まってよかったよ。おかげで、今のコレットに手を出すと、礼儀作法で負けた腹いせにいじめをしたという評判が立ちかねないからね。メンツをなにより気にする貴族たちも、下手に手を出せない状態だ。


 まぁ、貴族たちのコレットへの悪感情が消えたわけじゃないから、今後も注意が必要だけどね。その時はその時で、また実力で黙らせればいいだろう。


「ふむ……」


 まぁ、コレットの問題は一段落したとして、オレとしてはアリスの方が心配だ。


 アリスが急に不安に襲われてしまった真相を知ったのだ。


 アリスにいらないことを吹き込んでオレたちの仲を裂こうとした犯人、サミュエル・クレチアン。オレはこいつを許せそうにない。


 今回だけなら許してやろう。だがもし、サミュエルがまだアリスに執着するようなら……。


 その時は戦争だ。


「ジル、どうしたんだよ? 怖い顔してるぜ」

「ん?」


 気が付けば、コレットに脇腹をつつかれていた。コレットの方を見ると、輝かんばかりの笑顔のコレットがいる。


 思えば、教室で見るコレットの笑顔も一層朗らかになった気がする。コレット本人は気にしてないと強がっていたが、やっぱりストレスは感じていたのだろう。


 オレたちは、コレットの笑顔を守ることができたんだなぁ。


 そのことが、ただただ嬉しかった。


「またなんか悪だくみでもしてんのか? 俺も嚙ませろよ」


 コレットがキスできそうなくらい顔を近づけて言う。ちょっとドキッとしてしまった。まったく、コレットは相変わらず無防備だなぁ……。


 オレはのけ反ってコレットから顔を離しながら口を開いた。


「またって人聞きが悪いな。オレほど真面目な生徒もそういないぞ?」

「よく言うぜ」

「まあ! またお二人で内緒話ですか? わたくしも仲間に入れてください」

「アリス、聞いてくれよ。ジルが――――」


 平和だなぁ……。

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本作は3月24日に発売予定です。

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― 新着の感想 ―
いろいろ検索してたら見かけたので久々に104話までを読み直しましたが、本当に面白かったです。 おそらく作者様の意図していなかった要素が、奇跡的なバランスを構成した結果うまれた素晴らしい作品でした。 …
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