一
この小説は、女性同士の恋愛を含みます。
内容は重いです。
苦手な方はご注意ください。
「三津子、どうしよう。私、妊娠しちゃった・・・」
愛した人が口にしたその言葉は、私を殺してしまいそうなほど、暴力的だった。
■ ■ ■
私と楓は、生まれた時から一緒だった。
楓の家と私の家がお隣さんなのと、偶然生まれた日が一緒だったからだ。
私達の住む地域には産婦人科のある病院が一軒しか無く、しかも産科の医師が2人しかいないので、大変な騒ぎだったと良く聞かされた。
私の上には兄が二人いたが、楓は一人っ子で、私達はまるで双子のようにいつも一緒に遊んでいた。
楓は私の、私は楓の一番の親友だった。
いつからだろう。
私の楓に対する想いが恋心に変わったのは。
もしかしたら、気付かなかっただけで最初からそういった意味で好きだったのかもしれない。
楓がバレンタインのチョコレートを作る度、彼氏が出来る度に、私は嫉妬で狂いそうだった。
それでも私は親友だったから、笑顔で応じるしかなかった。
したくもない、楓の恋の応援をするしかなかった。
幼かった私は、懸命に心を押しつぶした。
私達が大学へ進学するとき、学校は違えど上京することに変わりは無かったため、二人一緒に暮らすことになった。
私が念願叶って高校教師になったとき、楓はすでに大手企業に就職していた。
四年付き合っている彼氏もいた。
傍から見ていて、とても幸せな二人。
「私、タカシと結婚するかもしれないの」
笑顔でそう言う楓は、本当に輝いて見えて。
結婚に備えて節約しながら貯金をする姿は、楽しそうで。
楓が幸せになるなら、私は何も伝えずに楓の結婚を祝おう。二人で暮らしている今を、大切な思い出として胸に抱いておこう。一緒に節約生活をしながら、成長した私はそう考えるようになっていた。
けれど。
楓は彼氏と別れた。
原因は、彼氏側の浮気。
最低な野郎だと、2人で酒を飲んだ。
涙を零す楓が可哀想で、私も泣いた。
テーブルに突っ伏して寝てしまった楓の頭を撫でているうちに、やっぱり私は楓のことを好きだと、愛していると、ひしひしと感じた。
ほんのり茶色に染めた髪に口付けをしたとき、胸が一杯になって、また少し泣いた。
それから二ヶ月経ったころだった。
家に帰ってくると、楓の靴はあるのに部屋が真っ暗だった。
「楓?いないの?」
スイッチを入れて明るくなった部屋の中で、楓はぼんやりと座り込んでいた。
「どうしたの?具合悪い?」
心持青い顔を覗き込むと、活力の無い目が私を捉えた。
「・・・三津子」
「ん?どうしたの?」
楓は私の腕に縋り付いて言った。
「三津子、どうしよう。私、妊娠しちゃった・・・」
鈍器で頭を殴られたような衝撃。
私は暫く何も言えなかった。
「・・・え、それ、ほんと・・・?」
震える声で、呟くように口から出た言葉に、楓は力なく頷いた。
「暫く生理来なくて、でもあんなことあって、ショックだったから、そういう月もあるかなって、思ってたんだけど・・・、今日、病院、行ってきたの・・・そしたら・・・」
「わかった!もういいよ!わかったから!!」
ぎゅっと抱きしめると、楓は堰を切ったように泣き出した。
ねえ、神様。これは夢でしょう?
こんな、こんな、一昔前のドラマみたいな展開、笑えもしない。
ねえ?
頭は真っ白で、
室温は真冬のように冷たく、
それでも腕の中の震える体温は、暖かかった。




