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17.一歩、前へ

『ふぅん。やっぱり佐藤香穂は佐藤香穂と死ぬんだね』

「ホオズキ……!」

 暫く姿を消していたホオズキが、犬の姿で再登場する。

『正しい判断だよ』

「お前、よくものうのうと!!」

『柊要人、ちょっと血の気が多いよ』

 ホオズキが呆れたように目を閉じる。


「あれ……わたし……?」

 この口調、雰囲気。

「……佐藤?」

「海上君……え、わたし手術中で……! この身体、要人?」

 くるくると身体を回転させて“柊要人”の身体を見る。

 そして、絶句する。

「なんで? みんなにはもう手を出さないでって……!!」

『報告をしようと思ってね。佐藤香穂の望み通り、これが最後だよ』

 もう一度ホオズキが瞳を閉じる。

 まるでマジックを見ているみたいだ。

 佐藤の人格と柊の人格があっという間に元に戻る。

「……っ!! あれ、今……」

『佐藤香穂ならまだ手術中だよ。そろそろ時間だね』

 時間とは……手術が終わる時間?

 佐藤の死の時間?


『もういいよ。十分、楽しんだからね』

 瞬間、手術室のランプが消え医者が出てくる。

 そして一言。

「大丈夫。峠は越えたからもう彼女は安心だよ」

「…………っ!!」

 四人が一気にホオズキの方を見る。

『いやぁ。死ななかったねぇ』

「知ってたような口利きやがって……!」

『だって死ぬなんて嘘だもん』

 う、そ……?

『反応を見たかったんだ』


『さっきも言ったけど、これで人格入れ替わりはおしまいだよ』

「……おしまい……」

『嘘なんかじゃないよ、おしまい。手土産なんてないけど、無事に退院することは保証するね』

 それだけを残し、ホオズキは去った。

 残された俺たちも退院まで面会できないと言われてしまったので、大人しく帰ることになった。

   ***

 そして数日後、佐藤は無事に退院した。

「佐久間君っ!」

 手をブンブンと振って佐藤が近付いてくる。

 退院して学校に来たら、校舎裏の一番高い木の所で待ち合わせしていた。

 この場所はよく授業をサボる時に使っていたお気に入りの場所。

 他人に教えるのは初めてだ。

「遅れてごめんね。今日に限って五組のホームルームが長くて……」

「いいよ、気にしてない。それから佐藤が退院したら、言おうと思ってた」

 佐藤が俺の中の雨に傘を差し出してくれた。


 ――――――ずっと佐久間君と一緒にいるよ! いたいんだよ!


 佐藤のおかげで、どんなに救われたか。

 やっと雨は止みそうだ。

 感謝している、心の底から。

 だからこの言葉を贈ろう。


「今、俺がこの場所に入れるのはあの時の佐藤の一言があったからだ。本当に感謝している」


「ありがとう、佐藤」

 目を見開いて頬が赤く染まってきた……と思ったら急にしゃがみ出す佐藤。

 佐藤の目線に合うよう、自分のしゃがみ込む。

 ……ぐすっ。

 小さなすすり声が聞こえる。

 顔を上げると佐藤が泣いていた。

 一気に血の気が引くのを感じる。

「さ、佐藤?! どうした?」

「ごめんね、嬉しくて」


「こんなわたしでも、誰かの役に立てた……! そう思うと、嬉しくて……!」

「佐藤」

「わたしもね、佐久間君に言いたいことがあるの。ずっと表情が堅かった。あの時怒ってくれたのってわたしのためだよね?」


「後ね後ね、ホオズキにわたしを助けろよって言ってたの凄く嬉しかった。わたし、佐久間君と友達になれて本当によかった」

 佐藤が微笑む。

 嬉しくてたまらない、という表情で。


 ……ああ、そうか、俺は気張りすぎていたのかな?

 耳が不自由なことくらい構わないほど、もっと自由に。もっと優しく。

 もっと自分から人と付き合おうと思っていたなら、違う景色が広がっていたのかな?

 それを気付かせてくれたのは、間違いなくこの人だ。


「あ、佐久間君の笑った顔、初めて見たかもね」

 ここで予想外。

 俺が笑って、た……?

「佐久間君の笑顔、可愛いね。わたしの笑顔をあったかいって言ってくれたけど、佐久間君の笑顔もすっごく温かいよ! 一番初めに見たのみんなに自慢しないとね」

 これが、人の笑顔。

 温かい、か。

 ずっと諦めてきたこの気持ち、もっと知りたい。

   ***

「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 次の日の朝、園の人たちは戸惑いながらも俺の言葉を返してくれた。


 その後ろをおずおずと歩いてくる二人組。

 ふと思いついた、というように言葉を繋ぐ。

「あ、そうだ。大地(だいち)、千沙(ちさ)……帰ったら遊んでやるよ」

 花が咲いたように、一気に明るくなる。

「ほんとぉ?! 佐久にぃ!」

「やったぁ! 早く帰ってきてね!!」


 前に一度、佐藤との人格入れ替わりで話しかけてくるようになった木村(きむら)大地と高野(こうの)千沙。

 園では一番幼い五歳たち。

 無邪気さが、佐藤に似ている。

 この人たちにも向き合っていこう、少しずつ。


 大地と千沙、それから園の人にも一礼して扉を開ける。

 ああ、悪くはない。

 こんなにも心がスッキリしているのは久しぶりだ。


 太陽が差し込み瞳が眩む。

 ゆっくりと前に一歩、進んだ。

『コネクト』シリーズ第一章・完結です。

これから第一章の見直しをして、第二章へ移ろうと思います。

それではまた。

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