第3話 関屋さんと牛田さん
この物語は、足立未来高等学校に通う、栗原、五反野、垳の三人が繰り広げる、ほのぼの日常系・学園モノ小説である。(栗原シホ)
「栗原!どこいってるんだ?」
五反野さんが私を引き止めた。登校中のことだった。
「え?この先が学校じゃないの?」
と私が言うと、五反野さんは…
「何言っているんだ?ここを右に曲がって細い路地に入った先が学校だよ」
と言った。
「あぁ、そうだった。そろそろ覚えなきゃ」
もう…1週間経っているけどね。とりあえず五反野さんについていって、学校に着くことができた。
「五反野さん!おもしろい人がいるよ!」
と教室に入った私たち二人の目の前に垳さんがやってきて言った。
「おもしろい人って?」
と五反野さんが言うと、垳さんは。
「関屋さんよ」
と、指差した先には桃髪の大柄の女子がいた。みごとな腰振りダンスを踊っていた。
私はそっと近づき…
「何をイメージして踊っているの?」
と聞いた。すると…
「ジンギスカン」
と答えた。私たちは早速。
「私は、栗原シホ。よろしくね」
「五反野アキ子です。よろしく」
と、それぞれ自己紹介すると…
「アタシは関屋ケイ子。よろぴくね」
と関屋さんが言った。続けて…
「関屋式腰振りダンスを教えてあげるよ」
と言い出したので、五反野さんが…
「いやいや、けっこう」
と言った。
「ところでどうやって帰るの?」
と私が聞くと、関屋さんが…
「東武伊勢崎線で、北千住から牛田まで行ってそこから歩く。ちなみに牛田駅を出た後、いったん京成関屋駅の中に入って、そのまま外に出ます」
「自慢か!」
と五反野さんが言うと…
「おもしろいじゃない」
と垳さん。
突然関屋さんが、鼻歌を歌いだしたので私はスグに…
「それはマイムマイムだね」
と言うと、関屋さんが…
「正解!」
すると五反野さんが…
「この前の谷中よりも全然いいな」
「ひどいよー」
と後ろから谷中君が言った。
「何?ていうか誰?」
と関屋さんが言うので、谷中君が…
「あぁ、谷中加平です」
「あぁ、足立区に谷中と加平があるね。最寄り駅は当然北綾瀬駅だよね」
と関屋さんが聞くと、谷中君が…
「はいそうです」
と答えて、自分の席に座った。
「さて垳さん、栗原さん、五反野さん。もう一回腰振りダンスしてあげよっか?」
と、関屋さんが言うので、私たちは…
「さっきと違う曲をイメージしながらなら…」
と言い終わらないうちに…
「今、ウィリアムテルをイメージしています」
と、関屋さんが踊りだした。
五反野さんが…
「いちいち言わなくていい」
と言うと、突然谷中君が立ち上がってその様子を見て…
「うわぉ!すごいぞ、巨乳が揺れとる!まるで牛の乳みたいだ」
「ちょっと!何言っているの谷中君!これだから変態さんは…」
と垳さんが言うと、五反野さんが…
「どうせオレのは魅力ないですよ。ぺたんこのおせんべいですよ…」
『貧乳』と何度も谷中君に言われているためか、五反野さんはあきれていた。
「あれ?あの子は」
と私が見たのは、背の低い青髪の女子だった。じっと私たちを見ているようだ。私は声をかけた。
「おはよう、名前は?」
と聞くと…
「牛田エリ」
と答えた。
「どうやって帰るの?」
と聞くと、牛田さんは…
「関屋さんと一緒、ただし京成関屋駅は通らない」
と答えると、私が…
「どうして私たちを見ていたの?」
「………」
牛田さんは答えなかった。時計を見ると8時40分になっていた。
しかたがなく、席に座ると佐野先生が入ってきた。
「おはようございます」
昼休み。私たちのグループに関屋さんを入れることにした。いままで仲良く遊んでいた私たち三人だったが、友達を増やすことも大事だと思い、関屋さんをさそってみると…
「うん、いいよ」
と即答。さらには…
「あなたたちは気があいそうだし、アタシの友達になれるわよ」
と言ってくれた。すると私が…
「牛田さんも一緒に食べる?」
と誘うが…
「一人で食べる」
と、自分の席に座った。
「なぁ、あの子がどうかしたのか?」
と、五反野さんが言うと、私は…
「ちょっと気になっちゃって」
と答えた。
「いつも一緒に登校するけれど、あんまり話しかけないし、アタシも正直言って彼女のことはあまり知らないなぁ」
と関屋さんが言った。
帰りのホームルームの後、ふたたび私たちは牛田さんに近づいた。まず私が…
「牛田さん、ちょっとお話しようよ」
次に五反野さんが…
「人を避けているようじゃあ、友達つくれないぜ」
次に垳さんが…
「何か我慢していることでもあるんじゃないかな?昼休みの時間、弁当を食べている牛田さんの表情から、そういうのが感じ取れるんだ」
最後に関屋さんが…
「いつも一緒に登校しているが、なにかおかしいぞ?なにか隠し事でもしているんじゃないかな?」
と言った。すると牛田さんが…
「別に隠してないけど」
と答えた。
「けど…なんだ?」
と五反野さんが聞くと、牛田さんが…
「なんで無関係のあなたたちに言わなくちゃいけないの?」
と聞き返した。私がこう答えた。
「それは私たちが同じクラスメイトだから。だから同じクラスで気になる人に声をかけた。あなたも関屋さんも、気になったからこそ声をかけ、関屋さんとは仲良くなれた。あなたも友達がいないとさびしいと思うんだ。過去どんなことがあったか知らないけれども、みんな話しちゃったほうが気が楽だと思うよ」
すると、牛田さんは突然表情を変え…
「アタイの何が分かるの?あなたたちにアタイの何が分かるっていうのよ!」
と泣きながら教室を飛び出していった。
「待て!」
と、五反野さんが追いかけようとしたが、私が止めた。
「いいよ五反野さん、自分から来る時を待とう」
「アタシも、慎重に彼女と接するわ」
と、関屋さんが言った。
「無理矢理は良くないわ。ウチも二人に賛成です」
と垳さんも言った。
「何言ってるんだよ。気になってしょうがないじゃないか!」
と五反野さんが反論すると、私がこう言った。
「気になってしょうがないのは私も一緒。でも、牛田さんのことも考えておくと、今はそっとしてあげたほうがいいと思うんだ。五反野さんも谷中君に貧乳呼ばわりされるのは嫌だよね。だったら、しばらく様子見よう」
「栗原がそう言うならしかたがない…」
と、五反野さんも納得したようだ。
この後四人で北千住駅まで行って、そこからそれぞれの乗り場へ向かった。
翌日、教室に入ると私はすぐに牛田さんの席を見てみた。黙ってうつむいている牛田さんが座っていた。
「今日一緒の電車に乗ったんだけど、一度も口を開いてくれなかった」
と関屋さんが言った。
「おはよう、栗原」
と、谷中君が声をかけてきた。すると、五反野さんが…
「今度貧乳扱いしたら、タダじゃおかないからね」
と警告した。すると谷中君が…
「いやいや、本当のことだから…」
「本当のことでも言って良いことと、悪いことがある!」
と、五反野さんが反論した。
「牛田さん、元気なさそうだけど大丈夫かな?」
と、垳さんがつぶやいた。
私たちにも責任があるかもしれない…
そう思いながらも、牛田さんを見守ることしか出来ない、私たちであった。




