05.ネロ
「ワインを。」
ダンタリオンちゃん、今日は強い酒はやめとくんだって。
半グレが来るかもしれないから。
「翼もしまっとく。」
「本気モードね。でもなるべく穏便にね、他のお客さんもいるから。」
「わかってる。」
◇
そして、8時を少し回った頃だったかな。あいつが来た。
「今晩は。」
襟の大きな縞柄のスーツを着た、瘦せ型の男が店に入って来た。
「花代を頂きに来ましたよ。」
こいつか。
「花代?なんのこと?」
「夕方、若いのが二人、花を届けに来たでしょ。」
あんたも十分若造だけどね。
「要らないって言って追い返したわよ。花は受け取ってないわ。」
「あれえ、おかしいなあ。」
男は、ポケットから電子タバコを取り出して吸い始めた。
「ちゃんと受け取ってもらえた、って聞いてますよお?」
「じゃあ、あんた嘘つかれたのね。」
「そうですか。」
スーツの男は、また電子タバコを吸い始めた。
男の持っている電子タバコには、小さなぬいぐるみのキーホルダーがつけられていた。
それは、背中に黒い翼を生やした悪魔のぬいぐるみ。
◇
「あんたの方が嘘ついてるんじゃないの?」
居直るつもりらしいわね。
「とにかくねえ、代金は払ってもらわないと困るんですよ。手ぶらで帰るわけにもいかないもんでね。今日は折角来たんだ。土産くらい持たせてくれてもいいでしょ?」
しつこいやつ。まあでもこのくらいやんないと誰も花代なんか出さないでしょうからね。
◇
「マスター、シルバー・ブレットを。」
この状況でオーダー入れてくれるお客さんがいるなんてね。助かったわ。
「シルバー・ブレットね、待ってて。」
縞スーツの半グレ、溜息をついて電子タバコをポケットにしまった。次の店に取り立てにでも行くのかしら。なんかとりあえず帰ってくれそうだわ。
「あんた、オーダーしないんだったら出てってくれない?」
「わかったよ、今日の所は帰ってやる。」
縞スーツの半グレは、むしろホッとしたような顔をしながら、こんな捨て台詞を吐いて出ていった。
「俺の名前は『ネロ』ってんだ。覚えといてくれよ。」
ネロ?
ふん、暴君気取りかよ。
◇
ああ、とりあえず帰ってくれた。
ネロとやり取りしながら、実は気が気じゃなかったことがある。
やりとりの途中で、カウンターの端の方から、背中がぞくぞくするような強い気配がするのを感じていたの。ちょうどダンタリオンちゃんが座っていた場所からよ。
「殺気」って、本当にあるのね。びっくりしたわ。
「ダンタリオンちゃん、すごく殺気立ってたでしょ。背中でビリビリ感じてたわよ。」
「……………………。」
ダンタリオンちゃん、黙ったままでこちらを見ない。
どうしたのかしら。
「……どうしたの?」
「キーホルダー。」
「え?」
「……あいつが電子タバコに着けてたキーホルダー。」
「あのかわいい悪魔の?」
「あれ、私が父にあげたものだった。」
◇
「本当にそうなの?」
「あれは私が手作りしたやつだから、同じものが他にあるはずがないの。あいつはどうしてあのキーホルダーを持ってたの?」
あり得る答えは三つ。
① あいつが村長を撃った犯人で、撃った後村長から奪った。
② 村長を撃った犯人から奪ったか、もらった。
③ 偶然どこかで拾った。
このうち③はまずないでしょ。あんな派手なスーツ着て二丁目をうろつくようなやつが、何のキャラかもわからないような拾ったキーホルダーなんか使わないわよね。
だとすれば、①か②。
「どっちでもいい!とにかく、あいつが父を殺したか、殺したやつとどこかで接点があるか、どっちかってことよね。」
◇
「あいつは犯人じゃないわ。」
ダンタリオンちゃんと一緒に来ていたカイラちゃんが、突然口を開いた。
カイラちゃん突然どうしたの?
忘れてたけど、そういえばこの子探偵さんなんだった。浮気調査とペット探しが専門だけど。
「でも犯人とはつながりを持ってる。」
本当に?
「そして、犯人はさっきまでここにいたの。」
………待って何それどういうこと?




