03.海はひとつ
「うそ………!」
深夜、新宿署からの電話にラドミラが言葉を失う。
どうしてこんなことになったの?
◇
黒松の会の集会が終わって帰宅した所を待ち伏せされ、アパートの前で拳銃で撃たれた。頭と首を撃たれたらしい。
私達有翼人は、病気や老衰では死なないけど、不死身な訳じゃない。頭や心臓、頸動脈なんかの急所を損傷すれば死ぬし、大量に失血しても死ぬ。窒息しても同じ。
村長の遺体は、新宿区内の大学病院で司法解剖された後、娘である私の元へ戻ってきた。遺体には色々と不可思議な所見があったはずだが、検死報告書には、そうした事は一切触れられていなかった。検死とはそう言うものらしい。
葬儀の方法は、生前に村長が自ら決めていた。
東京湾への散骨である。
◇
梅雨が明けた夏のある日、一隻のクルーズ船が東京湾を出航した。
船に乗っているのは「黒松の会」の面々の他、「アコーリス」のマスターを始めとする新宿二丁目の関係者、そして新宿署の関係者だ。
喪服を着た人は誰一人いない。無宗教の葬儀ゆえ、皆それぞれの服装で故人を見送る。
◇
「私達有翼人は宗教を持たないの。宗教は私達を迫害しただけで、救ってはくれなかったわ。」
「……そうなのね、ダンタリオンちゃん。」
「だから、坊主もお経も要らない。その代わり、歌って見送ることにしたの。」
ラドミラとカイラが、白い壺に入った村長の遺骨を、海に撒き始める。粉砕して細かい粉になった遺骨は、撒くとすぐに風に流されていった。
それはやがて海面に落ちると、一筋の白い帯のようになって、しばらくの間、波間を漂う。
「桜の花びらみたい。」
「そうね。」
◇
ティリ ティリ ティリ…… アイ アイ……
ラドミラが、無伴奏でシギリージャを歌う。
アイ、
海はひとつ
波よ、その白い粉を運んでおくれ
外海へと連れて行って
波間に沈んだら
魚よ、それをついばんでおくれ
海流にのって旅に出て
地中海まで
その先のアドリア海まで
故郷の海へと
私の父を連れて行って
アイ、
海はひとつ
ティリ ティリ ティリ…… アイ アイ……
……………………
私は、グラナダ王国を去ってからも、都合300年ほどスペインにいた。そして、刀を捨てた私は、旅芸人の一座に加わってスペイン中を放浪した。私の歌と踊りはその時に覚えたもの。そのせいで、私の歌も踊りもフラメンコの形式が基本になっている。
だから、父の魂もフラメンコの歌、シギリージャで送った。クロアチアの歌は、実はあまり知らない。まあ、そもそも有翼人はスラブじゃないしね。
◇
クルーズ船が桟橋に戻る。
父の葬儀に参列してくれた人達に挨拶をして、葬儀は終わり。香典は丁寧にお断りした。
遺骨は全部撒いたから、墓はなし。さっぱりしたもんでしょ?
これで、一区切りついた。
でも、それと同時に、私の心の中には、簡単には消せない火が灯ってしまった。
それは、怒りと復讐心。
そして、真相を知りたいと言う欲求。
それはもう、誰にも止められない。




