01.いきなりの幕間
「オカマバー『アコーリス』へようこそ」の続編になります。今度はカイラが主人公。
パン・パン・パン、パン・パン・パン、
パパパ・パパパ・パパパ……………
手拍子とは思えない乾いた音で、機関銃のような早打ちのパルマが鳴らされる。3人がかりで鳴らされるパルマは、時に三連符を交えて激しく、しかし時計のように正確に進行してゆく。
それが終わると、今度はサパテアードが始まる。フラメンコのタップダンスだ。
ダン!ダン!ダン! ダン!
ダダダダダダ……………ダン!
それからようやく、ギターの音が入る。
フラメンコの名曲「プエルタ・オスクーラの少女」が始まる。
◇
サパテアードを踊るのは、本名ラドミラ、通称悪魔ダンタリオンこと石橋 理緒子だ。
2台のギターのひとりは、オカマバ-「アコーリス」のマスターが務める。「男装したオカマ」というややこしい恰好でギターを弾くその姿は、悪魔に負けず劣らずの迫力に満ちていた。
今日は新宿の有翼人の互助会、「黒松の会」の集会だ。会場のオカマバ-「アコーリス」は、今日は夕方から貸し切りになっている。
◇
「ねえ村長、なんでいきなりフラメンコなの?」
ダンタリオンの幼馴染のカイラ(一ノ瀬 海羅)が尋ねる。
「それはね、この後にやる曲と関係があるんだよ。」
「どんな曲?」
「ラドミラが、スペインのグラナダ王国を去る日に、最後の王ムハンマド11世と交わした約束が、今日果たされるんだそうだ。」
「約束って?」
「誰も語らない『敗者の歴史』を、私が後の世に語り継ぎましょう、と約束したんだと。」
「それが次の曲?」
「そうだよ。フラメンコの古い形式に乗せて歌う叙事詩だそうだ。」
◇
フラメンコの古い様式の歌、カーニャが始まる。
カーニャの短く特徴的な節回しが、最初にギターで鳴らされる。
「プエルタ・オスクーラの少女」とは打って変わった、静かで堂々とした旋律。
このカーニャの旋律に載せて、グラナダ王国最後の二日間の出来事が語られる。
アー・アー・アー・アアア・アー
アー・アー・アー・アアア・アー
アイ、
火が見える
数えきれない野営の火が
宮殿も
離宮も囲まれた
カスティーリャの歌が聴こえる
これが最後の夜
約束は反故になった
カスティーリャは攻めてきた
アラゴンも攻めてきた
月夜に私と王はただ聴く
カスティーリャの歌を
……………
◇
「せつない歌。」
「そうだね。」
「これはお話じゃなくて、ラドミラが本当に経験したことなのね。」
「そうだよ。」
◇
……………
アイ、
私が門をくぐったら
お前は門に鍵をかけよ
そしてこの後
誰もこの門をくぐってはならぬ
鍵を掛けたら
お前はその鍵を持ったまま
ここから飛び去れ
お前はまた、自由だ
アー・アー・アー・アアア・アー
アー・アー・アー・アアア・アー
……………
◇
900年ほど前、私達はクロアチアの台地の上に住んでいた。
私達には生まれつき、背中に大きな黒い翼があった。そして、病気や老化では死なない体と、強い力を持っていた。
台地の下の、羽を持たない人達とは、最初は仲良くやっていた。でもキリスト教が伝わってから、私達の姿は悪魔になぞらえられた。
そして運命の日、クロアチアの王は私達の村を襲った。悪魔討伐と称して。
でもその直前、ひとりのクロアチア兵が、私達にこっそり教えに来てくれていた。
クロアチア王が村を潰しに来ると。
私達は、村はずれの井戸から、時空を渡って逃げた。
それは多分、私達の祖先がクロアチアへ渡ってきた時に使った井戸。そしてその井戸は、現代の日本の新宿につながってたの。
井戸をくぐって私達は再びここへ集まった。
ラドミラを除いて。
ラドミラは、色々あって井戸のことを村長から教わりそこねたから。
ラドミラは、900年かけてここまで歩いてきた。
そして私達は、偶然ここで再会したの。
オカマバ-「アコーリス」で。




