第27話 光の雪の夜
「……あれ……?」
いつのまにか目を閉じていたらしい。
まぶたを開くと――
憂は、石田の膝の上にいた。
目線を下げた瞬間、憂は固まった。
白を基調とした騎士服――
銀の装飾が施された胸元。
ひらりと揺れる純白のマント。
(うそ……まだこの格好……!?
雪姉が着せた衣装のまま、みんなの前に……!?)
頬の涙の跡を、石田がそっと拭ってくれる。
「お目覚めですか、憂様」
その声は落ち着いていて、優しくて。
だけどどこか、別れの余韻を帯びていた。
憂は胸元に手を添える。
エメラルドのペンダントは静かで――もう光らない。
(雪姉……行っちゃったんだね)
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
でも、不思議と涙は落ちてこなかった。
「雪姉は……ちゃんと眠れたんだよね」
石田は深く頷く。
「はい。“子ども”として休むことができました。
ようやくすべてを降ろして」
(そっか……安心して眠れたんだ)
胸の奥に、小さな春の芽のような温かさが灯る。
「……千秋お嬢様のところへ、行って差し上げてくださいませ」
「あ……はい」
憂はゆっくりと立ち上がる。
膝枕をしてくれた石田へ深く頭を下げた。
「石田さん。ありがとうございました」
「お礼を申し上げるのはわたくしのほうでございます」
雪乃の影をどこかに宿したような微笑み。
それが、憂の背中をほんの少し押してくれた。
◆
ホールの片づけは静かに進んでいる。
スポットライトも消え、残るのはスタッフの足音だけ。
控室の前で――
純白のドレス姿で、小さく泣く千秋の姿があった。
(……お嫁さんみたい……)
憂は思わず息をのむ。
ドレスの白が、泣き腫らした瞳をよりいっそう美しく見せている。
「千秋」
声をかけると、千秋は涙のにじむ目で見上げた。
「憂……さん……」
憂はそっと隣に座り、手を握った。
「雪姉、最後まで……すごくかっこよかったよ」
「……とても……ですわ……っ」
「もっと……一緒にいたかったのに……!」
「いるよ」
憂は微笑む。
「雪姉はね、
わたしたちの笑顔が一番嬉しいんだよ」
千秋は憂の肩に額を預け、嗚咽を押し殺しながら涙を落とした。
◆
「憂ちゃーん!!」
バタバタと控室へ駆けてくる足音。
現れたのは――
トナカイコスの葉月。
角のカチューシャがぴょこんと揺れる。
茶色の衣装がすごく似合っていた。
「すごく……大人になったね」
「そうかな?」
「うん。雪姉ちゃんのこと、ちゃんと守ってくれた。
それが雪姉ちゃんの救いにもなった」
葉月は少し照れた笑みを浮かべる。
「これからは、憂ちゃんが……誰かを支えてあげる番だよ」
(任せて、雪姉)
憂は静かに心の中で呟きながら、葉月へ感謝を返す。
「葉月姉……ありがとう」
◆
「皆さま、こちらへ」
石田が憂のスマホを手にしていた。
葉月が誕生日にくれた、最新モデルのスマホ。
「みなさまのお姿を記念に収めましょう」
「いいねいいね!
千秋ちゃんの両親にも入ってもらおうよ!」
「えっ!?」
葉月の提案に、千秋と憂は慌てて振り返る。
そこには……
サンタコスの菊子と千秋父。
(わっ……丈短っ……!
あれ……ちょっと視線の置き場に困る……!!)
二人とも、少し照れながらも誇らしげに微笑む。
「憂さん、とてもお似合いでしたわ」
「千秋を守ってくれて、ありがとう」
(う、うん……守ったのは雪姉だけど……!)
憂は照れ笑いしながらも、胸にあたたかいものが満ちていく。
サンタ×サンタ×白騎士×純白ドレス×トナカイ。
なんだかカオスな集合写真だけど――きっと忘れられない一枚。
「はいっ! 皆様、笑ってください!!」
石田の声。
シャッターが切られる。
(雪姉……
わたしたち、ちゃんと笑ってるよ)
その直後だった。
ぐぅぅぅぅ~~~~……
静まり返った部屋に、無慈悲な音。
「……憂ちゃん!?
今の音、絶対憂ちゃんでしょ!!
せっかくの感動ムード返してぇぇぇ!!」
「ち、違うってば!!
その、ほら……騎士ってカロリー使うんだよ!!」
必死に言い訳するが、お腹は正直だった。
菊子がくすっと笑って言う。
「ふふ……きっと雪乃さんも、喜んでいますわ。
あなたたちがこうして笑っていることを」
「……そう、ですわね……」
千秋も頑張って笑う。
唇が震えていて、涙の跡がまだ乾かない。
(千秋……無理しなくて大丈夫だよ)
憂はそっと、千秋の手を握り返す。
――泣いていい。
――笑っていい。
どんな形でも、前を向けるから。
光は消えた。
でも、確かに残った。
――雪乃が安心して眠れる未来。
――その先に続く、新しい季節。
少女たちの物語は、まだ続いていく。




