華出井 葵(12)と願いの井戸 57
悩む京護をよそに、先に希望を出したのは影だった。
【ガキ なかま イツタ】
【どこ イル】
【おまえ イエ】
【いわ ナイ ワシラ さがす】
京護の足元から形をもたないまま、影は炎の揺らめきのようにして、京護の肩まで上がっていく。
「お父さんっ さっきは何で、あんな事言い出したの。あんまりじゃまするなら、おれだってこの家から出ないよ」
周囲を見まわしてから、慌てて京護は2階に繋がる階段に向かう。
甚八は、京護の選択を待つ時間を奪われ、溜息を付きながら後ろを付いて歩く。
【どこだ ドコダ どこだ ドコダ】
「ごまかしてるだろ。お母さんの前で、同じことしてるの見た事あるもん、おれ」
駆け上がり、そのまま奥の隠し部屋に向かう。
既に反射なんだろうと、甚八は何も言われないので、そのままついて行く。
ついでに、影の言う事を反すうしてみる。
甚八に言えと言った。つまり甚八が、影の知らない何かを知っている。
これはちょっと、気分が良い。
ガキとはまあ、無難に葵だろう。
京護が監禁されていた時期の、二人の会話なら甚八は知らない。恐らくは、先の話だ。
霧子に怒られる甚八を生贄にして、葵は京護を連れながら2階に上がった。
二人の会話を知らないのに、甚八が知っている事。
なかま、と言った。
さがす、とも。
考えながら京護の代わりに、隠し扉を開ける。
京護の怒り方が母親似だったら面白い構図だなとも、思っている。
たどり着いた先で、最初に声を発したのは甚八だ。
「もしかして、あの日に行方不明になっていた奴の事か。葵様、言ったの?」
もし違っていたらマズイと思う前に、口にしていた。
形を作らないままの影が、甚八を見てニタリと笑った。気がした。目も口音も何も無いままだが、そう見えた。
京護はといえば、甚八と同じく考えた。
影との会話と、甚八の言い出した事が、イコールになるのか。
あの日は、影が京護を使って本家と分家の半分を殺した日だ。
「…………先生は分かる? 葵君は、艻月の人が見てるって言ってた」
お互い目を見て、イコールの話題だと確信する。
影に殺された中に居ない、生き残り。
あの日の中には、殺されない条件下の者もいた。
殺される条件は、影が決めた。
それは、5年間で京護が一度でも目があった者。
何かを京護にした者から、何もしなかった者まで。
すべからく、京護を助けなかったが為に、影に殺される条件に入った。
影は今度こそ、口を開けて笑った。
【くわ レタ そいつ ドコダ】




