第64話 「またまた、ワケあって作戦変更しちゃいました!」
多勢に無勢。
1人で天狗城へ乗り込むと言い出した鈴空。
だが、彼には、あるアイディアがあった。
僕は、1人で天狗城に乗り込むことを決断した。それは、あるアイディア、もとい、あるワケありアイテムを持っていたから。
「鈴空様。1人ではさすがに危険すぎるっす」
「そうです!我々も最後まで一緒に行きます!」
皆が僕を制止する。僕もこのアイディアが100%上手くいくとは思っていない。そんなに自信過剰な人間でもない。ただ、天狗のハテンゴと飢餓は、きっと僕の話を無視できないだろう。
「鈴空様は、ワケありアイテムをご使用になられるおつもりでしょうが、あれには代償が………」
僕が持ち込んだ、ワケありアイテムについて、良く知るカイザは、僕の身を心配する。
「あぁ。それは承知の上だ。ただ、ここで引き返すわけにもいかない。今回の目的は、ララの救出。それが叶わなくても、救出するチャンスを作ることはできるはずだ」
僕の言葉に、皆は黙り込む。
「わかったよぉぉぉ。じゃぁ、僕が一緒に着いて行くよぉぉ。それならまだマシでしょぉぉぉ」
ステーノが眠そうな眼をこすりながら、僕の傍に寄ってきた。
「はぁ………。ステーノ、あんた良いの?寝てる暇なんてないわよ。ま、あんたが行くなら、間違えても鈴空が死ぬことはありえないけど………」
メデューは、面倒臭がり屋で、三年寝太朗のようなステーノの性格を考えて、彼に言及する。
「お姉ちゃんは、僕を信用できないのぉぉぉ?」
「そうゆう意味ではないけれど………」
「じゃぁ、きーまりぃぃぃ」
僕の護衛として、陽炎の隊長が付くのであればと、皆納得した。
「あっ、そうだ。リュビア。お前、新吉原に帰ったら、リュアレにプラン変更、宜しく頼むって伝えてくれるか?」
「プラン変更ですか?」
「あぁ。そう言えばわかるから」
「承知しました」
こうして、僕とステーノ以外は、ポルタ―ドで一旦新吉原へ帰国した。
「ステーノすまないな。俺の我儘に付き合ってもらって」
「別にぃぃ。僕は、やりたいようにやるだけぇぇぇ。君には、多少なり恩もあるしねぇぇぇ」
相変わらずの自由人。だが、心強い。彼の強さは、実際戦った僕が一番良く知っている。あの時は、結局彼の本気を引き出すことすら出来きずに敗北したが。
「ステーノ。今回の作戦を君に伝える。しっかり起きて聞いてくれ」
「ふぁぁ。いいよぉぉぉ」
ステーノとの打ち合わせが終わり、いよいよ僕達は、行動を開始する。
まずは、天狗の大屋代を目指す。そこまで行くと、『猿田彦の面』と『天狗の装束』の効果が無くなるため、ステーノが無防備になる。そこで、僕が今使用している透明化ローブに2人で入る。透明化した状態で、天狗城まで行き、ハテンゴと飢餓がいる天守閣を目指す。
「ステーノ。今回は、なるべく戦闘は避けたい。もしものときは、俺が合図する。それまで、手を出すな」
ステーノは黙って頷いた。
―――――――――ところ変わり、こちらは新吉原帰国組。
「皆さん。私は、鈴空様のご命令通り、リュアレ様の元へ行って参ります。しばらく待機をお願いします」
リュビアは、リュアレのいるタイパン病院へと急いだ。
「わかりました。リュビアご苦労様でした。月華と陽炎の残りメンバーをここに呼んでください。それから、幹部の面々も。準備を始めます」
リュアレは、僕のプラン変更を聞いて、慌ただしく動き出した。
「皆さん、集まりましたね。先程、月華と陽炎が帰国しました。そして、鈴空様より伝言です。『デミヒューマン最強決定戦を開始する』以上です。準備に取り掛かってください。月華と陽炎のメンバー、それと西華は、私のところへ。作戦の説明をしますので」
幹部である、リア、龍じい、シューレ、ルリアは、早々に動き出し始めていた。
「それでは、作戦を伝えます。鈴空様は、予め、龍人族と天狗族が手を組んでいた場合の作戦を立てておられました。それが、三つ巴の闘技大会。大会名を『デミヒューマン最強決定戦』と言います」
「姉様、敵は、天狗・龍人・飢餓でしょ?三つ巴にならないじゃないの?」
メデューが早速口をはさむ。彼女の性格からして、まどろっこしいのは苦手なのだろう。だが、リュアレはそれを知った上で、メデューに掌を向けて制する。
「三つ巴は、『新吉原』vs『天狗・龍人・飢餓凪翔』vs『鬼族・鬼神修羅』ということです。我々だけでは、天狗・龍人・飢餓凪翔を討つのは戦力的に厳しい。そのため、鬼族・鬼神修羅も参戦させます」
「ちょっと、それってリスクが大きすぎない?そもそも、どうやって奴らを闘技大会に参加させるのよ?」
この作戦は、諸刃の剣でもある。負ければ、それ相応の代償を払わなければならなくなるだろう。しかし、僕ら新吉原という出来たばかりの小国が、手を組んだ格上の大国に勝つには、これしか手段はない。面と向かって戦えば、敗戦は目に見えている。かと言って、ちまちまとやっていたのでは、その間に攻め滅ぼされてしまう可能性が高い。だったら、仕掛けられるより、仕掛けた方が有利。
「メデュー。少し落ち着きなさい。鈴空様が心配なのはわかりますが、結論を焦ってはいけませんよ。その辺は、鈴空様がきっと上手くやってくれます」
リュアレの助言に、メデューは頬を赤らめて、視線を床に落としていた。
「それでは、作戦の概要を説明します。良く聞いて、各々、新吉原の為に尽力してください。皆さんの背中には、鈴空様の命運、ひいては、新吉原国民とリアの命運がかかっています」
「リア?なんであのコの命運まで? 」
リュアレが、メデューを注視する。メデューは慌てて、口を塞ぎ、リュアレから目を背けた。
「作戦として、まずは、闘技場を造ります」
「そんな、大きな施設、すぐに造れるのですか?」
「はい。可能です。もう既に、8割方完成しています。場所は、前ゴルゴーン国の宮殿です。あそこは、宮殿があっただけあり、地盤もしっかりしています。また宮殿内の設備もある程度使いまわしが効きますので」
僕が、ゴルゴーンの宮殿を闘技場として定めたのには、いくつか理由があった。
「鈴空様は、今回の闘技大会を、ただ戦う場としてだけ考えているわけではありません。ビジネスとしても視野に入れています」
皆黙って、リュアレの話に注目している。
「続いて、参加者。つまり、新吉原の代表として闘技大会に出場する者を発表します」
皆が固唾を飲んで、リュアレの口から自分の名前が告げられるだろうと、身構える。
「『カイザ』、『ネメア』、『癒華』、『メデュー』、『セウス』、『ハルペー』。今は不在ですが、『ステーノ』、『鈴空様』です」
闘技大会代表者が発表された。その場にいる者の名前が、ほぼ全員呼ばれていたが、ただ1人、リュビアだけは、名前を呼ばれていなかった。
「リュアレ様!どうして私は、代表ではないのでしょうか?それに、リュアレ様も……」
リュビアは腑に落ちないと言わんばかりに、リュアレに食ってかかる。
そんな、弟子リュビアを見て、温顔でリュアレは説明した。
「今回、私達は『医療班として闘技大会に参加せよ』との、鈴空様よりのお達しです。戦い、傷付いた仲間を治療することも、立派な戦いだと。医療現場は戦場です。あなたなら理解ってくれますね、リュビア」
師匠からの言葉に、反論の余地もないリュビアは、黙って下を向いている。
それを見た、リュアレが続ける。
「リュビア。あなたが、私に意見をするなんて珍しいですね。でも、鈴空様のこと、国のこと、国民のこと、仲間のことを思っているのは、良く分かりました。私は、師匠として、とてもうれしい。誇りに思います。ですが、今回は、私と共に、皆とは違った場所で戦いましょう」
リュビアは、リュアレの目を見つめて頷いた。元々、優秀なリュビアだ。言いたいことは山程あっただろう。だが、最終的に彼女を動かしたのは、リュアレの弟子としての、医療従事者としての意地とプライドだった。
「わかりました。今回の戦いで、死亡者は誰1人として出しません。全員救ってみせます!今日より先の未来で、今回の戦いを皆で笑って話せる過去にするために、全力を尽くします! 」
それを聞いたリュアレは、笑顔でその場に佇む。他のメンバーも、安心して、全力で戦いに望めると、安堵した表情を見せていた。
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