第65話 「天狗城」
ついに、天狗城へ足を踏み入れる、鈴空とステーノ。
闘技大会を確約させるため、ハテンゴと飢餓が居る天守閣を目指すのだが…
僕とステーノは、作戦通り、天狗の大屋代に到着していた。
「ここが、大屋代か。竜宮新城に似てるな」
上流階級の者達の居住区、天狗の大屋代。そこは、古風で歴史を感じさせる、格式の高そうな木造建築の店が立ち並ぶ繁華街。ここが、天狗の国の中心都市だと一目でわかる外観だ。繁華街から少し離れたところに上流階級の者達の居住地区があり、どの家も、とにかく大きく豪華な造りで、セレブ感が駄々洩れな印象を受ける。
「やはり、経済水準は、新吉原より格段に上のようだな。色々と見て周りたいところだが、今は目の前の問題をさっさと解決しないとな」
闘技大会が終わって、この国が僕の物になったとき、改めて、ゆっくりと堪能させていただくとしよう。
僕とステーノは、天狗城へ向かう。天狗城は、大屋代の中心にあった。天高く聳え立つその様は、とにかく目立つ。繁華街のどこにいても、目に入ってくる。おかげ様で、迷うことなく、城まで辿り着けそうだ。
天狗城の目の前に着くと、そこは堀で囲まれ、唯一ある城内へ続いているであろう門には、天狗の兵が2人見張りをしていた。
「ステーノ、バレないように、静かにな」
「ふぁぁぁい」
見張りは、透明化している僕達には気付かないようで、見当違いのほうを監視している。とはいえ、鬼族のように、透明化していても感知されることもあるようなので、細心の注意を払う。
「鈴空様。ヤバそうな気配がたくさんある」
城内に入ると同時に、ステーノが覚醒し、忠告してくる。
カルラ山に入った時にも一度覚醒したっけ。あの時は、鞍馬と巨鳥カルラが居たんだよな。ステーノは、強敵感知器みたいだな。面白い。
あれ?そういえば、僕と一騎打ちしたときは、覚醒していなかったような……。ま、まぁいいか今はそんな些細な事。
「おい、ステーノ。道はそっちで合っているのか?無言でグイグイ進まれると、透明化ローブが脱げちまうぞ」
透明化ローブは、鬼神修羅に切り裂かれたせいで、短くなっており、僕とステーノはギリギリ収まっている。
「こっち。みたい?」
ステーノは、自信無さげに言う。だが、足取りに迷いはない印象だ。
「ステーノ、そっちは下に降りる階段だぞ。地下に行く気なのか?」
城に入るや否や、ステーノは迷うことなく、早々に地下への階段を見付け、邁進する。透明化ローブからはみ出すわけにもいかないので、僕もステーノに続く。
「ステーノ、やっぱり地下じゃないか。しかもここ牢屋か?」
ステーノは黙って、直進する。途中、見張りの兵が数人いたが、関せず奥へと進む。しばらくすると、目の前に一際頑丈そうな扉の付いた牢屋や見えてきた。
「ここだ」
ステーノは、ようやく足を止め、口を開いた。
「ここって、何が?ただの頑丈そうな牢屋があるだけなのだが……」
ステーノは、また黙り込む。彼女は、牢を注視したまま動こうとしない。
「あー、いや、しかし、こんな厳重な牢には、どれほど凶悪な罪人が入っているのだろうな?」
僕は、気まずくなり、世間話を始める。その時。
「そこに誰かいるのですか? 」
やばッ!話し声が聞こえたか?
緊張が一気に高まる。まだ、ハテンゴや飢餓と接触もしていないのに見つかるわけには、
「私……、私の名前は、ララ」
え?今、なんて?
ララ……だと?いやいやいや。聞き間違いだ。騙されるな。ここは敵陣。これは罠かもしれない。いや罠だ。間違えない。それとも、功を焦るあまり、幻聴でも聞こえたか?僕は、自分が感じている以上に、追い詰められているのか。
「もし。そこに誰かいらっしゃるのでしたら、どうか私を救い出してくださいまし」
く、くそー!なんて可愛い声なんだ!僕の大好きな萌え声じゃないか!なんて狡猾な罠なんだー!
ひ、一目だけ。見るだけなら、大丈夫かな?透明化ローブもまだ着ているし……。い、いやダメだ!僕は、何をしにここに来た?ハテンゴと飢餓に闘技大会出場の話を取り付けるためだろう。こ、こんなところで、作戦を失敗するわけには、
「罠を恐れない勇気」
ハッ!
僕は、ステーノがぼそりと言い放った言葉に、我を取り戻す。
そうだった。僕は、作戦云々より、自分の欲望に正直な漢だったはずだ。
罠だと分かっていても、避けて通れない時が、漢には、ある!
そう、まさにそれが、今だ!萌え声少女の悲痛な言葉を無視できるほど、僕は腐った漢ではない。僕は、決意を固める。
これがデターミネーション。断固たる決意というものか。以前、漫画で読んだことがあったな。あの時は、そんな覚悟ができる日なんてこないと思っていた。だけど、ついに僕にもその時が来たようだ。
「ということで、一目だけ……」
高鳴ろうとする心臓の鼓動を必死に抑え、呼吸を止め、僕はそろーっと、牢の扉に開いた小窓を覗き込む。暗がりの中、ぼんやりと見えてきた視界の先には、見覚えのある容姿の少女が移った。
「リ、リア?」
あまりに似ていた。似すぎていたのだ。僕の天使、リア・アンテローグに。その気持ちは、声としてリアの名前を発するまでに至った。
「え?い、今、リアとおっしゃいましたか?あなた様は、リアを、妹をご存じなのでしょうか?」
僕の心の声を聞いた彼女は、立ち上がり、牢の扉の小窓へと歩み寄ってきた。
「あっ、いや、その……」
僕は、口ごもる。さっきまでの威勢は、どこへやら、だ。
「私は、リアの姉でララと言います。お会いしたばかりで、不躾とは存じますが、どうか私をここから救い出してはいただけないでしょうか?」
この顔立ち。間違えなくリアの親族だ。だが、それだけで本物のララと決めつけるわけにはいかないな。
「すまないが、僕は君に1つ確認したいことがある。それが確認できないうちは、君を信用するわけにはいかない」
正直、ケモ耳って時点で、もう信用しちゃってもいいんだけどねー。しかも抜群に可愛いし。ララじゃなくても助けるのアリ。
「君が本当にリアと姉妹であると言うのなら、リアと対を成すものをその体に宿しているはずなのだが、それを確認させてくれないか?」
余殃眼の対になる眼。常婆は言っていた。ララは、その眼を持っていると。リアの余殃眼を治せる唯一の眼。
「わかりました。それで助けていただけるのでしたら……」
彼女はそうゆうと、右眼にかぶさっている前髪をかき上げた。
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