第38話 「続・ゴルゴーン国『首都リミル』」
拘束を解かれた鈴空。
リュアレは裏切ったわけではなかった。
お互い敵同士だった、リュアレと鈴空達の隙間が埋まっていく。
「鈴空。リミルに来て何かお気付きにはなりませんでした?」
「あの時は体力的にも限界で、リアも担いでいたし、バレないように必死だったからな。それがどうかしたのか?」
リュアレの手前、強がってはいたが正直、虫の息だった。
「この国は女系国家なのです。首都には女性しかいません。リミル以外の領土には男性もいますが、少数です」
マジかー!素晴らしいじゃないかッ!
「なので、突然男性が家に来ると、使用人達も困惑します。私が妹の治療をしている間、屋敷内をうろつかれたり、屋敷から出られたりされるとパニックが起きます。そのため、荒療治ではありましたが、鈴空には、ゼベッタのスキルを使用し眠ってもらいました。拘束したのは、急に目覚めたときに誤解されて、動き回れないようにするためです。透明化のスキルもお持ちでしたし………」
成る程。そうゆう事情があったわけか。だったら口で言ってくれればいいのに。でも、もし僕がリミルに来た時、ここが女性しかしない国だってわかったら、軽率な行動に出ていた可能性も、いや間違えなく、目を盗んで屋敷から脱走していただろうな。
透明化のローブは、確かに敵に回すと恐ろしいよな。制限はあるんだが………。ま、それは言わないでおいたほうが利口だろう。
「わかった。そうゆうことなら。ただ、もうスリープのスキルを使ったり、拘束したりするのは無しな。色々と勘ぐってしまうしな」
リュアレは、笑って頷いた。
「ところで、メデューとステーノだっけ?あいつらは大丈夫なのか?」
「はい。もう石化は解けましたので、明日の朝には目覚めるはずです」
良かった。ケモ耳じゃないにしろ、あいつら外見は可愛かったし、死なれでもしたら寝覚めが悪い。可愛いは正義!その法則は、リアルも異世界も変わりない。
「ところで、この国に来られたのは、誰かを救うためとおっしゃっていましたね?経緯を聞かせてもらっても?」
やっと、話を聞くになってくれたか。遅いんだよ。僕は、ゴルゴールの領地に来た理由を包み隠さず、リュアレに話した。完全に彼女を信用したわけではないが、僕は今、彼女よりも優位な立場にあるし問題ないだろう。
「そうゆうことですか。人の話は最後まで聞くものですね」
「全くだ。こっちは命を落としかけたんだぞ」
「それは、お互い様ですよ」
戦闘していたときとは、正反対に場は和み、笑みがこぼれる。
「でも、不可解ですね。我々は、リザードマンの村襲撃の話や、その老婆のことは知らされていません。どこで情報を得たのかは知りませんが、我々が関わっている可能性は低いと思います………」
西華が得た情報だったな。
「西華は、どこで情報を得たんだ?」
「うちは、昔から馴染みにしてる情報屋からです。信頼性は高いはずなんやけど………」
僕は、西華を、ケモ耳を信頼している。彼女は嘘をついてなどいなーい!
「リュアレ。そのことについて探ってもらうことはできるか?」
「私は、鈴空には感謝しています。だけどゴルゴーン様の配下であることに変わりはありません」
それはそうだな。最もな言い分だ。
「配慮が足りなかったな。すまない」
僕は、自分の身勝手な言い分を謝罪した。
ただ、リュアレは僕の頼みを完全に拒否はしなかったな………。
「鈴空達は、この後どうするつもりですか?」
「俺たちの目的は、常婆の救出だ。それは変わらないよ」
「そうですか。わかりました。とりあえず、今日のところは、この屋敷でお休みください。部屋も用意させてありますので」
「助かるよ。お言葉に甘えさせてもらうよ」
どのみち、ここを出たところで街の宿屋には泊まれない。それに、リアも西華もまだ病み上がりだしな。
「って、俺まだ治療受けてないんだがー!」
「もう終わってますよ。左腕痛みますか?」
そういえば、左腕は動かせないほど痛かったんだが、普通に動く。痛みもない。何故だ―!
「リアのように、骨折されていると治癒までに1日から3日ほどかかりますが、鈴空の左腕程度の負傷なら1時間で治せます」
え?凄い。何その医療技術の高さ。ありえなくなーい?魔法か?新吉原にも導入したい!
「ゴルゴーン国って医療の水準高めか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?私、医者なんです。これでも、ゴルゴーン国随一の天才医師なんですよぉ」
言ってねーよ!初耳だわ!
「色々な医療機器を発明したりもしてます。今回、一番重症だったリアには、ICUカプセルというものに入ってもらって治療させてもらいました。余殃眼と左腕の骨折以外は、全て完治しています」
あっ!そういえば、余殃眼!リアに聞きたいことがあったんだ。
「リア。戦闘の時に使った余殃眼。アレは一体なんだったんだ?スキルか?」
余殃眼にあんなスキルがあったなんて聞いてない。それに、僕が聞いた余殃眼のスキルとは違う。
「あれは、余殃眼のスキル『臨界』です。敵のスキル効果を反射させることができます」
「余殃眼のスキルは、人と成りを見通す力だろ?」
「えーっとですね。余殃眼はスキルを使用しなくとも、ただ見るだけで人と成りを見通せます。つまり、それはこの眼元来の性質であってスキルではないのです」
あぁ、成る程。そうゆうことか。僕は、いつの間にか誤解をしていたわけだ。ややこしい眼だな………。
「ところで、余殃眼がまだ完治していないっていうのはどうゆうことだ?」
リアは、左眼に覆いかぶさった髪を避け、余殃眼を僕に見せてくれた。その眼は、光を失い、淀んでいた。
「余殃眼『臨界』の発動は、余殃眼の視力、能力を一時的に低下させます」
リアは今、左眼が見えていないのか?リアの右眼は僕の方を向いているが、左眼、余殃眼の視点は真っ直ぐ向いたままで僕の顔にピントがあっていない。
「ここからは、私が説明しますね」
リュアレ先生が口を開く。
「余殃眼という眼は、特殊で希少。滅多にお目にかかれない代物です。そのため、検体はまず入手できない。つまり、余殃眼事態の構造が謎なのです。だから今の医療技術で、余殃眼を治療することは不可能です。自己修復を待つしか現段階で方法はありません。ただ、その自己修復もどれくらいかかるのか。1年、10年、それ以上かもしれない………」
リアは、それが解っていて、僕らの命を救うために、左眼を犠牲にしてくれたのか。
「リア、すまない。俺が弱いばかりに」
「いいえ。命より大切なものなんてありませんから。左眼一つと命。そんなの天秤にも掛けられませんよ。2人とも無事で良かったです」
あの時、既に諦めていた自分が恥ずかしい。リアは諦めずに、左眼の視力と能力を失うことを覚悟して僕達を守ってくれた。結局僕は、また助けられてばかりだ。紗月だって、誰かに魔法を付与してもらえなくちゃただの錆びた刀だし、龍じいから教わった剣技も1日に2発しか放てない。弱いのに、言うことは一丁前で、怒りに任せて、こんなところまで来た。結果、リアにはまた辛い思いをさせてしまっている。
「リアさん。堪忍な。うちが弱いせいで、足引っ張って。堪忍したって」
西華。お前のせいじゃないよ。俺の弱さ、甘さが招いた結果だ。
「皆さん!この話は、ここでおしまい!これからまだ、常婆を救出しないといけないのに、こんな辛気臭くなってちゃダメですよ。今夜は、精気を養えるためにも早く休みましょう!」
一番辛いはずの、リアに励まされた僕達は、それぞれの用意された部屋へ行き、ベッドに入った。精気を養うために。リアを今度こそ守るために。ついでに常婆を救出するために………。
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