第31話 「洗礼者」
デミヒューマン『大3亜』の種族が明らかに………。
『洗礼者』の役目とは?
リアの話から生まれる多くの疑問が、鈴空に襲い掛かる
リアには、ワケありの何かがある。そう僕に気付かせたのは、リアが南行きを提案してきたときだった。その後のリザードマンの村復興の折や、今回の常婆誘拐のときも。今までは、リアの可愛さに屈服し、特に深追いしてワケを聞こうとはしなかったが、今のリアの表情は、気にせざるを得ない心境を駆り立てるものだった。
「リア色々聞きたいことがあるんだが、一先ず今回の相手について教えてくれるか?」
リアは静かに頷き、口を開いた。
「デミヒューマン大3亜とは、ゴルゴーン、龍人、天狗です。それぞれが国を有しており、今のデミヒューマンの頂点に君臨する3種属です。大3亜の中でも序列があります。序列1位は、天狗。2位は、龍人、3位がゴルゴーンになります」
成る程。つまり、今回喧嘩をふっかけてきたのは、一番弱いヤツか。良かったぁ。
「しかし、どうしてそんな強国が常婆誘拐やリザードマンの村襲撃なんてやるんだ?」
どう考えたって、小さな案件すぎないか?村だし、老婆だし、利益なんもないし。
「リザードマンの村襲撃に関しては良くわかりませんが、常婆のことなら心当たりがあります」
老婆を拐って、老人介護施設でも開設しようってか?異世界も、高齢化社会なのか?
「常婆は、洗礼者なのです」
洗礼者?なんじゃそりゃ?
「洗礼者つまりは、預言者です。鈴空さんがこの世界に来ることを予言し、私にギルドへ行くように言ったのも常婆です。そして、鈴空さんの望む世界のために道を用意していました。道について私も詳しくは聞かされていないので確かなことは分かりませんが、私と旅立つこともその道の一つだったのかもしれません」
常婆が、僕が来ることを予言していたとは………。まさか、運営側の人間なのか?(運営なんていないけど)。僕の道を用意していたっていうのはどうゆうことなんだろう。道………。人間道としての道?僕の野望への道?んー。どの道だ???
「常婆が洗礼者って言うのはとりあえずわかったが、それが拐われることとどう関係しているんだ?」
「鈴空さんの野望はなんですか?誤魔化さずに言ってみてください」
ぬっ。たまにリアは、厳しいことを言うよな。誤魔化すっていうか恥ずかしいじゃん。なんか自分の性癖を披露するみたいでさ。西華も聞いてるし、僕の羞恥心を公開処刑しているみたいだ。
「そりゃあ、ケモ耳王国をだな………」
いや違うか。僕はケモ耳が大好きだ!でも、本当の野望は他にある。ケモ耳王国は僕の野望の内の一端に過ぎない。
「この異世界を僕のものにする。僕が中心で、僕の世界、僕の国がある。僕が人々の上に立ち、僕の自己中心的な世界を造る」
これが、僕の野望の根本だ。これ無くして、ケモ耳王国もないな。
「そうです!それって、鈴空さんがこの世界の全権を手中に収めるってことですよね。そのための道を用意する常婆の存在は、大3亜にとっては目の上のタンコブでしかないわけです」
大3亜め。自分たちの欲望のために、僕の野望を阻止しようというわけか!それでこんなことを………。
「でもさ、俺には大した力はないぞ。チートスキル貰えなかったしぃ、普通にこの世界に放り出されたサラリーマンじゃん。それが俺だぞ。大3亜にとっては恐れる価値もないくらいのゴミ人間なんじゃないか?」
自分で言っていて悲しくなるが、それが現実だ。マジでチートしてー!楽して、天下取りたい!
「以前、紗月さんの話にも出てきた『ナインレース・ヘゲモニー』。その戦いで、9つの種族が戦ったと言っていましたよね。そのうちの6種族は異世界人。つまり、デミヒューマンだけではなく、ヒューマンもマシーネも異世界人を恐れているのです。それが、洗礼者によって再度導かれることになると、第2次ナインレース・ヘゲモニーの引き金になる」
成る程。これは、僕が想像していたよりもかなり壮大な話だな。つーか、6種族の異世界人って、僕以外にも異世界人ているのか?そもそも、常婆は、第2次ナインレース・ヘゲモニーが起こるであろうことをわかっていて、なんで俺に道を用意したんだ?だいたい、なんで9種族が争うことになった?どうして、この世界に異世界人が転移されてくるんだ?
次から次へと湧き出てくる疑問に、僕は混乱した。
「リア。なんだか、頭がこんがらがってきた。わからないことがたくさんだ。俺の頭の回路がショートする前に、常婆を救出に行こ………」
僕は、同時にたくさんの物事を処理できるほど優秀ではない。今は、自分の野望のために、やらなければならないことを1つずつ片付けることにしよう。
僕は、リアと西華とともに新吉原へ戻った。
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