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Part.19 男の過去(7)


ジロウがアイリの参謀役になってからは様々な面でアイリ達は成長していった。


まず健康面では手洗いとうがいの習慣はあったが、それに使用する水は不純物が多く腹を下すものが多かった。

そこでジロウが魔法を使い樽一杯に綺麗な水を溜めるようになってからは、そういった者達が減った。


次に食事の面でも火種程度の魔法を使えることから火打石や薪の消費が減り、下準備に掛かる時間を採取に回せることができて1人当たりの食事量が増えた。


アイリにとってもジロウの存在は大きかった。

これまで周囲の軋轢や諍いには必ず顔を出す必要があったのだが、なぜか急激に仲良くなったジロウとユウキを筆頭に腕っぷしだけは強い仲間と組ませることで仲裁してきてくれるので、余分な手間も減って精神的に楽になっていった。


そうして内部だけでなく外部にとってもジロウはアイリの懐刀という印象を与えることになり、より手強い集団と認識されることとなってからは不要な喧嘩は減っていったのである。


そうしている内にユウキが体調を徐々に崩していき、いまは教会のベットで寝たきりのことが多くなっていった。


数日前から肩が凝り始め口周りが思うように動かせなくなっていた。

体調不良を隠しながら過ごしているとふいに転びそうになったり、寝ているとあまりの痛みに身体をそらすようになった。


その度にジロウが心配して気休めと分かっていても治療魔法を掛けるのだが、外傷に起因する訳ではないので完治させることができず頭を抱える日々が続いていく。


「何が原因なんだ、オレは一般的な知識しか持ってないし…」


顔を上げてみれば呼吸がしにくいのだろうか、ひゅっひゅっと喉を鳴らす友人がいる。

治療魔法といっても目に見える傷であれば治っていく過程を想像し、魔法を行使することができるのだが、病気であればその部位の正常な状態を正しく、また具体的に認識しなければ治すことはできない。


たった1人の友人も助けられない魔法使いなんて、そんなジロウの想いは次第に高まっていった。

しかしそれを周りに悟らせる訳にもいかず、他の看病者に声を掛けその場を離れていく。




ジロウは月明りを頼りに教会の中を進み、小さな女神像の前で祈る。


(イチロウを…ユウキをどうか助けて下さい。オレの友人を救って下さい)


ジロウにとって神とは自身をこの《世界》に引き込んだ大罪人である。

その相手に頼りたくはないが、それでも奇跡を求めて祈らざるを得ない。


心を落ち着けて、月の柔らかな光に包まれながら祈り続ける。


そこへ歩み近づく人影があった。


「風邪ひくよ」

「…アイリか」


振り返り確認すると不安そうな表情の彼女がジロウを見つめていた。

しかしジロウは目を合わせることができずに視線を逸らす。


「ここんところずっと夜にここへ来てるでしょ、体調崩したらどうすんのさ」

「…すまん」

「ユウキのこと気にしてんのなら………ちゃんとこっち向いてよ」


音を鳴らして近づいていくと両手でジロウの頬を挟んで正面を向かせる。


「ほらこっち!ちゃんと見て!」

「なんだよ」

「ジロウが治せないんだったら他の誰も治せないんだ。だからそんな思い詰めた顔する必要なんてないんだからね」


アイリは笑顔を作ってジロウに言葉を掛ける。


「全力で取り組んでるのは皆だって分かってるし、ユウキだって分かってる。でもその結果ジロウが倒れたら誰が気にすると思う」

「…ああ」

「分かってるなら行動しなよ、そうじゃなきゃ本当に倒れるよ」

「………ああ」


ジロウだって頭では分かっている。

それでも身体を動かしていないと不安になるのだ。


まだやれることがあるんじゃないか、忘れていることがあるんじゃないか。

倒れるまで、それこそ死ぬ気で魔法を使えば元に戻せるんじゃないかと。


目を合わせているのにこちらを見ていない態度にアイリの怒りが徐々に溜まっていく。


「ユウキが元気だった頃はもっとハキハキしてたじゃん。あの頃は格好良かったけどいまのあんたは見るに堪えないよ」

「悪かったな」

「そんなんでユウキの友達だって言えんの?」


頬を挟んでいた手にさらに力を込めていく。

それでもジロウからの答えは返ってこない。


ただアイリも頑固に彼の目を強く見続けた。


彼は顔を背けたくても彼女の力が強く、振り払うことはできずにいた。


(違うだろ、振り払いたくないんだろオレは…)


矛盾する心と身体に苛立ちを感じつつ、彼女をちらりと見る。


「何が言いたいんだよ」


突き放したような言い方をすると心がズキリと痛む。


アイリはやっと目を合わせたジロウに満足そうにすると懐から一枚の手紙を取り出した。


「これは少し前にユウキから手渡されたものなんだ。あいつったらいつの間にか貴族に貸しを作ってたみたいでさ、その貴族に会うために必要なんだって」

「なんでそんなものをアイリに渡したんだ」

「あんたに直接渡すのが恥ずかしかったんだって言ってたよ」


彼女はにっと笑ってユウキがどんなことを考えてこの手紙を託してきたのかを話し始めた。




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