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天界からの使者2

自称天使の女はメモを書き終えると、改めて晶を見下ろした。


「さて、ここからが本題よ。生前消費しかしていない引き篭もりニートだった貴方は社会貢献度がマイナスだったのよ。つまり、転生させる価値がないってこと。まあ、普段はそういう所謂社会のゴミにこちらが用意した適当な労働をさせて最低限の救済をしてあげるんだけど」


「もしかして、俺がこのダンジョンに転生させられた理由ってそれ?」


「は? だから人の話は最後まで聞いてね。さっきも言ったけど、貴方はわたしが導く前に輪廻転生から外れて転生しちゃったのよ。勝手にね。だから天界からわざわざ迎えに来てやったのよ」


「勝手にって、俺は呼ばれてここに来たんだけど……」


晶はあえて美少女召喚士にとは言わなかった。言ったら余計なことを言われる気がした。が、どちらにしろ嫌味は言われた。


「ほんと面倒くさい男ね。自分には罪がないって主張したいんでしょ? だったらその呼んだっていう張本人を連れてきてくれる? あ、あのアルバトラスとかいうお年寄りにもそんな力ないから。ていうか、そもそも何人も昇天した魂に外から干渉するなんて不可能なのよ絶対」


(じゃあ、あの時俺を呼んでいた少女の声は何だったのだろう……)



晶の疑問をよそに自称天使は話を続ける。


「貴方が転生先で真面目に勤労しているようだったから上も経過観察ってことでしばらく傍観してたけど、結局勤労意欲をなくして引き篭もりに戻ったから魂を回収しに来たってわけ。まあ、普通だったら一生掛けても届かないほどの社会貢献ポイントを稼げたみたいだし、良かったわね」


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


晶の問いかけに、「何?」と明らかに不機嫌そうな表情を浮かべる天使。


「普通の人が一生掛けても稼げないポイントってどういうこと? 俺、大して社会に貢献していないと思うんだけど。骸骨だし」


「まあ、確かに罠整備やダンジョン守備の労働は大したポイントにはなっていないわね。精々500ポイントってとこかな。因みに凡人が生涯かけて稼ぐのが2000ポイント前後って感じだから、この短期間にしては頑張った方ね」


胸元からA4サイズの紙を取り出し告げる天使の話を、晶は通信簿を受け取る小学生のような気持ちで聞いていた。


自分の頑張りが評価されるというのは悪い気分ではなかった。



「普段点はそんなものだけど、貴方の場合その他の臨時貢献が大きいのよ。一番目立つのが国家レベルの厄災を阻止したということ。本来ならアルバトラスはあのソフィアって子を生贄にしてアルマン王国全域に飢饉の呪いを掛ける筈だったけれど、貴方の働きでそれは取りやめになった。この世界の人命は価値が低いけれど、それでも奇跡に近い偉業として約30000ポイント加点されているわ」


「ああ……」


晶はアルバトラスがソフィアを生贄にして何の儀式をしようとしていたのか、ようやく腑に落ちた気がした。


薄々は感じていたが、アルバトラスは本当に邪悪な魔術師だったのだ。しかし寝起きのマーメイドと手を組んだ件といい、ソフィアを生贄にするのをやめたということは、今はそれほど邪悪ではないのかもしれない。



それにしても、普通の人がこつこつと生涯掛けて稼ぐ15倍の社会貢献度を棚ぼたで拾ってしまったようなもので、自覚がなかった分なんだか申し訳ない気がした。


そんな晶の気持ちを察したのか、天使がくすりと微笑む。


「因みに貴方は輪廻の不文律を侵犯して勝手に転生した罪として35000ポイント減点されるから。ちゃんと覚えておいてね」


それは悪魔の微笑みだった。


(マジか……。マイナスじゃないか)


晶は己の駄目さに心底げんなりする。


天使は続ける。


「臨時加点といえば、森のゴブリン族を虐げていたボストロールの討伐も中々の貢献ポイントだったわね。あとは、あのソフィアって子をダンジョンから解放して人里に帰したこと。乙女の救出は意外とポイント高いのよね」


「え」と晶が眼窩を見開く。


「ソフィが人里に!? どういうことか説明してくれ!」


「何その上から目線な聞き方。目上の者への口の利き方がなっていない、と……」


自称天使はメモに書き込み、軽蔑した眼差しで晶を見下ろす。


「言ったままよロリコン。あの子はアルマン王国の騎士団に保護されダンジョンの外に連れ出されたのよ。あんたのお陰でね」


「ロリコンじゃないし、というかソフィはアルバトラスの呪いのせいでダンジョンから出られない筈じゃ」


「そんなのとっくに解呪されているわよ」


天使の女が胸元から手帳を取り出しペラペラと捲る。


「えーと、あの子がアルバトラスから怪我の治療を受けた時だから、一月以上前ね」


あの時、アルバトラスはトロールの生き肝を取ってくる前に治療をしてくれただけではなく、ソフィアをダンジョンに縛り付けていた軛の呪いも解いてくれていたのだ。


「何ということだ……」


ソフィアが生きている。その事実が晶に気力を蘇らせる。


だが外の世界でソフィアが幸せになれたのか、晶にはその事も重要だった。



「--ということで、減点されても貴方の社会貢献度は2500ポイントは残るし、まあ評価点は最低としても引き篭もりにならない程度の人間には転生できるわ。未練がなければこのまま魂を昇天させるけど、良いわよね?」


「ちょっと待ってくれ。ソフィアがどこに連れて行かれたのか教えてくれないか」


「は? 騎士様に助けられてハッピーエンドでいいじゃない。もしかしてロリコンな上にストーカーなの?」


「だからロリコンじゃないし、そうじゃなくて……、ソフィが本当に幸せな生活を送れるのか気になるんだ」


「ふーん……、やっぱりロリコンじゃない」


天使は値踏みするように晶を眺め、そして深々と息を吐いた。


「まあ良いわ。ここから先の情報は【天啓】の奇跡として教えることになるから代償が必要になるけどいい? 因みに一つの質問に対して社会貢献1000ポイントね」


奇跡というだけあって中々の代償だ。【天啓】を受けると残りの貢献度は1500ポイント、転生のランクは大分落ちてしまうだろう。


しかし晶に迷いはなかった。


「頼む」と鷹揚に頷く。


「じゃあ取引成立ね」


そう言って天使がペラペラと手帳を捲り始める。


晶は内心ドキドキしながら奇跡が起こるのを待った。



「えーと、ソフィアちゃんはー……。ああ、あった。騎士団に保護された後、王都バラジルに搬送。2日前にリトナー侯爵に引き取られスミノフにある屋敷に移動しているわね。はい、天啓の奇跡終了。1000ポイントは引いておいたから」


天使はそう言ってポンと分厚い手帳を閉じた。


【天啓】しょぼっ! というツッコミを心に押し留め、晶は与えられた情報を整理する。



ソフィアは、美少女を囲ってハーレムを作っているど変態野郎リトナーに屋敷に連れて行かれてしまった。


リトナーに雇われる予定だったことを、恐らくソフィア自身が騎士団に話したのだろう。最も最悪なパターンだ。


こんな事になるならソフィアに真実を伝えておいた方が良かったのかもしれないが、今更それを後悔しても遅い。どうにかしてリトナーの魔の手からソフィアを助け出さなければならない。



問題は屋敷の場所だ。


ソフィアは屋敷のあるスミノフへ行く途中にこのダンジョンに連れてこられたと言っていた。馬車で3日の旅路で2日目の夜のことだ。それほど遠くない場所だということは想像できる。


しかしこの世界の地理に疎い晶にはそれでも未知の場所だった。



「奇跡って天啓以外に何かないのか。瞬間移動とか」


「あるよ。けど代償も高いわよ。瞬間移動に一番近い【時空転移】の奇跡は一回5000ポイント。最大10人まで同時に時空間移動させられるわ。片道切符だけどね」


(5000ポイントか……)


残り1500ポイントではどう足掻いても足りない。そもそもソフィアを連れ戻すのが目的なのだから片道切符では全然意味がない。


「くそう……」


晶は苛立ち拳骨を握る。


「もしかして、あの子を誘拐する気なの?」


「人を犯罪者みたいに言わないでくれよ。リトナーは金で未成年の少女を買うような変態なんだ。そんなとこにソフィアを置いておけるわけないだろ」


そう説明する晶に、目を細めじとりとした視線を送る天使。


「貴方だって似たようなものだったじゃない。美少女ゲームをお金で買って、部屋でしこしこ--」


「だーー!!」


慌てふためく晶を見て、天使は勝ち誇った様に高笑う。


「ほほほ! 溜飲が下がるわね。大丈夫よ。貴方のプライベート映像はわたしと、あとは本当に仲の良い友達にしか見せてないから。あの情けない姿はね……ぷっ」


(終わった……。俺の魂完全に終わった……)


燃え尽きた灰のように地面に崩れ落ちる晶。その背骨から湯気のような白い煙がスーッと浮かび上がる。


「ちょっと! 何勝手に成仏しようとしてんのよ! 嘘よ嘘! 見たのはわたしだけよ。キモいし、誰も見たがらなかったから。ね? 安心して 」


(全然フォローになってねー……)


晶は深いため息を吐いて、天使に背中を向けた。



「もう良いよ。俺一人で助けに行くから」



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