「たまたま気付いただけですから」
「ふぅむ。それではおヌシが、我が輩と真子殿を助けてくれる、と?」
「ええ、そうです」
僕は愛想笑いを浮かべた。
アミエルとエヴェレットは、話し合いがついたのか、戻ってきたときには仲良く振る舞っていた。――少なくとも、表面上は。
「もっとも、『お助けする』などと言うのはおこがましいかもしれませんね。銀行に忍び込もうかとステルスを願ったら、たまたま気付いただけですから」
僕は照れ臭く見えるように頭をかいた。
「いやあ、まさかこんな大掛かりな作戦が進行していたなんて、正直脱帽ですよ」
「ふふふ。そうであろう、そうであろう」
エヴェレットは満足そうにヒゲをなでていた。プライドは高いが、持ち上げてやれば余裕ぶった態度で自慢話を披露する……。なるほど、下馬評どおりの悪魔だ。正直、御しやすい。
「実はのぉ、他の悪魔達が参加せねば、我が輩は大赤字だったのじゃよ」
「と、申しますと?」
「ふむ。実は地震と噴火には、莫大な魔力が必要なのじゃが、それを他の悪魔達に出させておってのお」
「なるほど」
「まあ、我が輩にかかれば、他の有象無象なぞ下僕よの!」
そう言うと、エヴェレットは高らかに笑った。
「おっと、流石に言い過ぎたかのぉ、ふふふ……。まあ、この災害で得られる魔力の取り分は折半であるからして、人数が多ければ多いほど、我が輩の元には莫大な魔力が転がり込んでくるというわけじゃ」
「ははぁ、後で何倍にもするためには、先にちゃんとした所に投資をする必要があるわけですね。その手腕、是非とも見習いたいです」
適当なことを言って機嫌が取れるなら、こんなに楽なことはない。
「本当、あなたのような悪魔がついていてくれたら良かったですよ。まったく、うちのときたら……」
そこで口を濁し、アミエルの方に目線を送ってみせると、エヴェレットは大層ご満悦だ。
「はっはっは、いや、それは残念じゃったのぉ」
「あのぉ、これを尋ねるのも変な話ですが、どうやったら悪魔って離れるんでしょうか」
「済まぬが、一度契約を結んでしまったら、悪魔側が解除するしかないのじゃよ。仮にそうなったら、それまでの願いは残って、おヌシにとっては最高なんじゃが、如何せんアミエルが許さぬじゃろうて」
契約解除は悪魔からのみ。さっきアミエルから聞いたとおりだが、願いの内容まで残るとは思わなかった。――なるほど、よほどのことがない限り、解除などしないだろう。
エヴェレットは、そんな思考など露ほども気付かず、悠然とくつろいでいた。
「まあ、嘆いても仕方がないが、その分良いこともあるぞ。アミエルならば、出し抜くのも容易いということじゃ。何せ、人間変身も出来ぬほどの下等悪魔ゆえな」
「おいコラ、お前モーロクしてンのか? さっき言ったことをまた宣うなんてよお」
「残念ながら、物分かりの悪い悪魔がおるでのぉ。何度も何度も言ってきかせねばならぬのよ。我が輩も、実に心苦しい……。う〜っくっくっ」
「笑ってンぞ」
アミエルをだしに、エヴェレットの笑いに追従する。始めこそ疑問を持たれたが、欲深い小悪党の振る舞いは、この悪魔にとってすこぶる効果的だったらしい。水を向けずとも、自分からペラペラと喋ってくれる。
対して真子は、自分の部屋だというのに、隅の方ですっかり大人しく座っていた。
「真子さん」
僕は、悪魔達のコントから、真子へと向き直った。




