「代わりに取ってもらえばいいんですよ」
「申し訳ないです、突然押し掛けて」
僕が座ったまま深々と頭を下げると、真子は「いえ、そんな……」と恐縮した。
「いやはや、でもこの眠り病のアイディアはシビれましたね。これは、真子さんが?」
「はい、い、一応……」
「よろしかったら、なんで思い付けたのか、ご教授願えませんか?」
「そ、そんな大したことじゃないんですけど……」
顔を伏せがちにした真子は、眼鏡の奥の目をしきりに瞬かせた。
「え、えっと、人って誰でも、ウマが合うとか、合わないとかって、あるじゃないですか」
「はい」
「それが、少しぐらいならいいんですけど、かなりウマが合わない人ってのも、いるじゃないですか」
「ふむ」
「で、それも、1人か2人なら良かったんですけど、何人もいた……いや、いるってことも、ありますよね」
「ええ、そうですね」
「1人だけなら、始末っていう手段もあるんですが、ターゲット1人につき願いを1コ使ってたら、足りないじゃないですか」
「仰るとおりです」
不意に「始末」という単語が飛び出したが、素知らぬ顔で頷いておく。
「それで、ふっと気付いたんです」
「――とは、一体?」
「悪魔さんは、『魂を取る』じゃないですか。なら、そういった相手に憑いてもらって、代わりに取ってもらえばいいんですよ」
「――おお~っ」
彼女の「逆転の発想」について、僕は演技でなく、心からの拍手を送った。
願いを歪めて、さっさと魂を取ることが目的の悪魔が現れた。ならば、それをムカつく相手に取り憑かせれば、ロクに願いを叶えることも出来ず、速やかに命を奪ってくれるという道理だ。それも、自らの願いは全く消費せずに。
「聞いてみたら、願いを叶える一番確実な方法は、『眠らせてから夢の中で叶えること』らしいんですね。でもそれだと、最後に魂を取る際、起きてしまうのがネックとのことなので、じゃあ色々提案をしてみた結果、最終的には災害を起こすのなら出来るというので、そうしましょうと」
「ふむふむ」
「で、エネルギーを溜めるのに時間が掛かって、それまでに眠った人達の対策を考えられると困るって話だったので、それなら、思考を妨害しようって思ったんです」
「なるほど」
もちろん、真子に取り憑いたエヴェレットが、「その願いすら歪める」おそれもあったが、悪魔達の斡旋をすることで魔力の稼ぎを折半できるなら、そのまま叶えたほうが得であるという計算が働いたのだろう。
そして……、いま確信できたが、真子はエヴェレットに、いいように操られている。
真子はたしかに目的を達成できるが、わざわざ大災害を起こす必要などない。現に、いくつも提案を出したらしいが、却下されたという話だ。ターゲットだけを始末する方法など、それこそいくらでもあるはずなのに。
悪魔の規約だからと、何も知らないのをいいことに、エヴェレットにとって都合が悪い情報を明かさず、絞っている。
――やれやれ。これで真子が想定どおりの人物なら、かなり惨いことを強いるな……。僕は誰にも気付かれぬぐらいに小さく歯軋りをした。
もし彼女が、思ったとおりの人間だったなら……いや、おそらくそうだろうが。
ーーそれでも僕は、彼女を殺さねばならない。
僕は心が急速に冷えていくのを感じつつ、眼鏡をしっかりと掛け直した。




