瞑想世界32
あの崖からジャンプするしかないと、僕は田村に提案した。
成実ちゃんの叫び声がつかず離れず間断なく続く中。
坂を登り切ったところで、灯台が見え、ゆっくりとその灯台を迂回して吊橋を目指したのだが、ある筈の吊橋が無くなっている。
僕は訝りつつ言った。
「これはどうなっているんだ?!」
杖をつきつつ田村が答えた。
「騙し絵だ」
僕は顔をしかめて言った。
「騙し絵?それじゃ今目の前にある灯台は違う灯台なのか?」
田村が答える。
「同じ物なのか違う物なのかは分からない。たださっき登って来た坂は、最初灯台を訪れた時は無かったじゃないか?」
僕はかぶりを振り言った。
「いや、別方向から来たのかもしれないから、それは分からないじゃないか?」
眉をひそめ、田村が一計を案じるように言った。
「いずれにしろ吊橋は無いのだから、生還の道は閉ざされたという事か…」
僕は田村の言葉を拒むように否定した。
「いや、これが騙し絵ならば、その向こう側にある本質を見据え、ジャンプするしか俺は無いと思う」
田村が杖に両手を添え、体重を預けながら言った。
「それはどういう意味だ?」
僕は岸壁を指差し言った。
「あの岸壁から吊橋が実存のものとして、あると思い込み、ジャンプするしか無いと俺は思うんだ」




