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ハンカチの木  作者: Gardenia
番外編1
64/67

S6 二人の生活

家に戻ると、亜佐美は保坂に家の合鍵を渡した。

保坂の部屋には二人とも留守になる場合を考えて、鍵を付けた。

番号式の鍵なのでその暗証番号を保坂が亜佐美に教える。


亜佐美は保坂を、自分の小さなホームオフィスに案内し、他の鍵の保管場所を教えた。

「ここで事務仕事をしてるの?」と保坂が聞く。

「そうなのよ。ここで賃貸物件の書類を管理しているんです」

「亜佐美はよくやっているよ」

「そんなこと・・・。大事な書類は一也さんのアドバイス通り、銀行の貸金庫に入れました」

「この家は木造だから、火災やそのほかの事故に備えないと」

「はい。安心して出掛けられるようになりましたよ」

保坂はゆっくり頷いた。


「バックアップはとってあるかい?」

「書類のコピーってことですか?」

「うん。紙で保管しても良いし、デジタルデータにしても良いし・・・」

「いいえ。古いものは必要ないし、現在のものだけだとそれほど数があるってわけじゃないから

そのまま金庫に持って行ったんだけど」

「そうか」

保坂は何か考えているようだった。


亜佐美のホームオフィスには、デスクトップコンピューターとプリンタ、そしてファックスが並んでいる。

「そのうち僕が管理に適したログラムを見つけてあげるよ」

「あっ!ありがとう。心強いわ」


保坂は頷くと、「今日は疲れただろう?僕も今日は仕事しないからのんびりしよう」と言って亜佐美の手を取った。

そのままキッチンに亜佐美を引っ張っていく。

「そうは言っても、使い易いようにデスクまわりだけでも片付けて置くか。

でもその前にこれを開けよう」

冷蔵庫から缶ビールを取り出して亜佐美に一個手渡した。


そしてそのまま保坂の新しい部屋まで亜佐美を引っ張って行き、

亜佐美をベッドの端に座らせておいて、自分はデスクの引き出しを開けて所定の位置に書類を入れ始めた。


保坂はデスクの上にはあまり物を置きたくないらしい。

筆記用具もすべて引き出しに仕舞って、ラップトップPCだけをデスクに置いた。

もう一台あるデスクトップ型のPCは部屋の隅に置いた専用ラックに収まっている。


「ここのネット回線はどうなっているの?」と保坂が聞いた。

「光ファイバーよ。さっきの事務用の部屋とリビングに、そしてそこにジャックを作って置きました」と亜佐美が壁を指差すと、

「それは助かる」と言って、ラップトップの蓋を開けた。

亜佐美は保坂に設定情報を口頭で伝えると、素早い動作であっという間にネットに接続したみたいだった。


保坂は画面に目を向けたままで亜佐美に、「来週は二条さんたちを食事に来てもらおう」と話しかけた。

「ええ、そのつもりでもう伝えてます。一也さんのほうが大丈夫?」

「うん、僕も出張がないので大丈夫だよ」

「一也さんのご両親はどうかしら?」

「うちの親は来週は無理だな」

「ね、冬休みにしない?クリスマスかお正月前後、お兄様のご家族も一緒に来ていただけないかしら」

「兄達もか?」

「だって、私の環境を見ていただきたいし、できれば一度に済ませたほうが・・・」

そう言って亜佐美は笑った。

「何度も緊張するのは・・・ね?」


保坂は少し考えてから、「兄達にも聞いてみよう。でも、両親が来て、それを兄達に伝え

ればいいんだから必要ないと思うけどなぁ」と言った。

「そうね。でも聞いてみるだけでいいから、聞いてもらえませんか?」

「うん、わかった」

そういうと保坂はメールの題名だけを読んでしまい、次にカレンダーを立ち上げた。


「亜佐美さん、ちょっとこっちに来て?」

「まぁ、さん付けでやけに丁寧ね」

「僕はいつも丁寧な男ですよ?」

亜佐美は笑いながら保坂の居るデスクに近づいた。


保坂が手を出したので、その手に向って亜佐美も右手をだすと、保坂はその手を掴んで引き寄せる。

亜佐美を膝に乗せた保坂は、亜佐美にも画面が見えるように正面を向かせた。

亜佐美はデスクと保坂に挟まれる格好でPCに向き合った。


「これが来年のカレンダー」

保坂の声が頭の上で聞こえた。

「あのマンションの完成が8月末。その次の年の1月に辞令がでる。」

わかった印に亜佐美はコクリと頷いた。

「1月とは半端な時期よね。普通は4月じゃないの?」

「うん。実は来年の4月の予定だった。それを延ばしてもらったんだ。

ここの工場での仕事もあるので、当分は本社と工場を兼任だ」


保坂は話を続けた。

「6月初め頃には、茜ちゃんは夏休みになる。結婚式には帰国してもらおう」

「えっ?」

亜佐美は思わず振り返った。


がつっと鈍い音がして、保坂が呻いた。

「危ないよ、亜佐美・・・」

「ご、ごめんなさい」

亜佐美が驚いて顔を上げたので、頭が保坂の顎にぶつかったようだ。

「大丈夫なの?」

恐る恐る亜佐美が聞くと、「まぁ、なんとか・・・」と保坂が苦笑している。

あまり強くはぶつかっていないようだ。保坂の顎は赤くなっていなかった。


「これからは腹筋だけじゃなく、顎も鍛えないといけないのか」と保坂が呟いている。

「ほんと、ごめんなさい。これからは急に振り向かないように気をつけるから」と言うと、

「ほら、今度は動かないように画面見ててよ」と保坂が話を続けた。


「もう一度言うよ、結婚式は来年6月。

マンションの完成が来年8月末の予定。

東京への完全引越しは来年12月末。

それでどうかな?

マンション完成も遅れるかもしれないし、引越しもあるから、落ち着くのは正月だな。

1月1日付けで東京本社だよ」

「む~~~」

亜佐美は一気にいろんなことを考え始めた。


「亜佐美はどこで結婚式挙げたい?」

「うん?」

「ここ?東京?それとも海外挙式にするか?」

「ちょっと待って。今考えるから」


「一也さんはどっちが良いの?」

「僕は亜佐美の挙げたいところがいいよ」

そう言いながら保坂は亜佐美の髪に手を伸ばした。

細くしなやかなその髪は、一本一本元気そうにつややかだ。

保坂は亜佐美の香りを一杯吸い込んでたまらなく幸せになった。




しばらく黙って考え事をしていた亜佐美が急に身じろいだ。

「一也さん、何してるんですかっ」

「あ?亜佐美は柔らかいねぇ」

「もぉっ・・・いったいこの手は・・・」

「柔らかいけど弾力があって・・・気持ちいいよ」

亜佐美が気がつくのに遅れただけで、保坂の手はいつのまにか亜佐美の胸をセーターの上からやわやわと揉んでいる。


「ちょっ・・・話が・・・」

「うん、話してご覧?」

「え~~~、こんなじゃ話せない」

「大丈夫、亜佐美は大丈夫。話してごらん」


「とりあえず、その手は止めてちょうだい」

断固とした口調になったので、保坂はとりあえず手を止めた。

「止めるだけだ。動かさないからこのままで」と一也が言うと、

「まったく・・・」と言いながら亜佐美は自分の意見を言い始めた。


「結婚式、来年の6月って早くないですか?」

「亜佐美はジューンブライドになりたくないの?」

「6月に拘ってないですよ?」

「そうなのか・・・」

「そちらのご両親にも聞いて都合をあわせましょうよ」

「うん、そうしよう。二条の伯父さんの意見も聞かないと・・・」と保坂は言って、手の動きを開始した。

「待って、まだ続きが・・・」

「まだ何かあるのかい?」

「とにかく、手を止めてちょうだい」

保坂はしぶしぶ手を止めた。


「まったくしようが無い人ねぇ」

亜佐美はぷるっと身震いをしてから話を続けた。

「とりあえず基本プランを考えて、修正しながら進めましょう」

そう亜佐美が言うと、「とりあえずそんなところかな」と保坂が締めくくった。

「酷いわ、一也さん」

亜佐美の抗議も意に介さずに、保坂は亜佐美の身体を弄る。


亜佐美が降参した気配を感じた保坂は本格的な愛撫を開始した。

そのままの姿勢で亜佐美を一度高みに連れて行った後、一緒に風呂に入った。

亜佐美をたっぷりの泡で洗い上げ、手足にマッサージを施して、

バスローブに亜佐美を包んで保坂の寝室に運んだ。


亜佐美をベッドにうつ伏せにして、保坂は亜佐美の背中をゆっくりとマッサージしている。

「どうして?」亜佐美が虚ろな表情で聞いた。

「引越したいへんだったろう?亜佐美は大活躍だったからお礼だよ」

「そんな・・・お礼なんて・・・」

「こうやっておけば明日は辛くないから。

それに明日からも頑張ってもらわないといけないし・・・」

「なんだ、下心ありなのね」

「うん、そういうこと」

亜佐美は弱弱しく笑いながら、「じゃ、もっと」と保坂に囁いた。


保坂は亜佐美が自分にすべて委ねてくれるこの瞬間が好きだった。

なんとも言えない満足感と幸福感が押し寄せてくる。

亜佐美を好きだと確信していても、更に上回る感情がこみ上げてくるのだ。


「愛してる」自然にその言葉が口をついて出た。

亜佐美の背中に胸を寄せ、背後から耳元でもう一度呟いた。

「愛してるよ」

亜佐美は閉じていた目を一度開いて、ゆっくりと瞼を閉じた。

「私もよ。愛してるわ」





それから朝まで二人は何度か昇りつめ、眠り、目覚めるとまた愛し合った。

翌朝、朝食の支度をするために起きようとする亜佐美に、

「今日からこのベッドで寝てくれないか?一緒に」と保坂が言った。

「ええ。そうするわ」簡単に亜佐美は答えてバスローブを羽織ると、

「コーヒーは僕が用意するよ」と保坂の機嫌の良い声が背中から聞こえた。







不定期更新でと言いながらも、長期間空いてしまって申し訳ございません。

クリスマス特集ということで、亜佐美と一也の同棲生活を楽しんでいただければと思います。



すぐ隣に誰かが居るというのは素敵なことだと思いませんか?

家族と距離を置いて接していた一也がようやく手に入れた宝物が亜佐美だったというところです。



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