038 ソウルイーター戦
「目を閉じて!」
ついに見つけたソウルイーターへの初撃を奪ったのは、意外にもリーズだった。彼女のどうしてもソウルイーターを倒したいという思いが伝わってくるようだ。
オレは投じられた薬瓶から目を逸らすと、固く目を閉じる。
そのまま右腕を背に回すと、矢筒から一本の矢を取り出し、弓に番えた。
その瞬間、目を閉じてもなお感じる強い閃光が走る。
目を開ければ、先ほどよりも少しだけ暗くなった視界にソウルイーターの姿を捉えた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ギュスターヴがウォークライをあげてソウルイーターに突っ込んでいく。
彼にとっては未知の、そして四つ足の状態でも体高が二メートルを超える巨大な魔物に向かっての突撃。戦闘ではあまり目立たないギュスターヴだが、その胆力は本物だ。彼こそがオレたち『狼の爪牙』の盾なのだ。
そんなギュスターヴの後ろでは、大剣を担いだジルがギュスターヴにピッタリとくっつくように並走していた。
ギュスターヴが攻撃を受け止め、ジルが攻撃する。『狼の爪牙』の黄金パターンだ。これで何度も魔物を倒してきた。
そして、オレが弓で援護する。
ふと番えた矢を見れば、リーズの作ってくれた特別製だった。
ホーリーアロー。当たった対象に光属性の追加ダメージが入る特別な矢だ。闇属性のソウルイーターには効果抜群である。
「喰らえ!」
絶対にここで倒す。
そう決意の込めたホーリーアローを放つ。
ソウルイーターはまるで大熊のように大きい。この距離なら、目を瞑っていても当たると確信できるほどだ。
「なっ!?」
放たれたホーリーアローは、ソウルイーターの右前足によって落とされてしまった。
だが、当たった判定になったのか、光属性の追加ダメージが発動する。
まるでホーリーアローからフェアリーが出てきたように白い光球が現れると、ソウルイーターの右前足にぶつかって儚くも消えてしまう。
ゲームの通りのエフェクトだ。ソウルイーターの右前足を見れば、骨にヒビが入っているのが見えた。効果ありだな。
確かな手応えに気をよくすると、前線ではギュスターヴとジルがソウルイーターとぶつかった。
「はああああああああああああああッ!」
ソウルイーターの真ん前に陣取ったギュスターヴが、盾でソウルイーターの鼻先を殴る。シールドバッシュだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらッ!」
そして、ジルはソウルイーターの左前脚を狙うようだ。その関節目がけて大剣を振り下ろす。
パキンッと硬質な音が響いて、大剣が剥き身の骨を半分ほど砕く。
「いける……!」
レベル的に少し不安があったが、間違いなくオレたちはソウルイーターにダメージを与えられている。
そう思ったのもつかの間だった。
「うおッ!?」
「うわあああああああああああああああああ!?」
ジルがソウルイーターに蹴り飛ばされ、ギュスターヴがソウルイーターのホーンアタックを喰らってぶっ飛ばされる。
「げふッ!?」
軽々しく飛ばされたギュスターヴは大きな木に幹にぶつかり、ドサッと腐葉土の絨毯に落ちた。
ギュスターヴは盾でソウルイーターのホーンアタックを受け止めようとしたようだ。だが、ソウルイーターは骨とはいえ、あの巨体だ。あの骨格を支えるだけでもかなりの力が必要なはずだ。おそらく、かなりのパワーだろう。それを真正面から受け止めるのは、今のギュスターヴには厳しい。
「あたしが行く!」
リーズがギュスターヴの治療のために走り出す。
リーズはMPを消費して錬金術アイテムの強化ができる。ポーションを強化してギュスターヴに使うつもりだろう。ギュスターヴの容態がわからない以上、リーズが行くのが正しい。
「よくもギュスターヴを! 喰らいなさい!」
イザベルがソウルイーターに腕を振り下ろし、魔法が発動する。
発動した魔法は雷属性第四の魔法サンダーランスだ。
サンダーランスはバチバチと音を立てて高速で飛翔する。
しかし――――。
「ッ!?」
イザベルの驚くような息を呑む音が聞こえてきた。
だって、ソウルイーターがその巨体に見合わぬ俊敏な動きでサンダーランスを避けたのだ。
「こいつ、見えてやがる!」
ソウルイーターに蹴飛ばされたジルが叫ぶ。
そう。イザベルの魔法を避けたことも驚きだが、避けるためにはまず魔法が飛んでくることを予測しないといけない。そのための情報は、目が見えていなければ集めることはできないはずだ。
ソウルイーターには、リーズの目潰しが通じていない?
最悪だ。
ソウルイーターが動く。
その向かう先は、先ほどぶっ飛ばされたギュスターヴだ。確実にギュスターヴを殺すつもりだろう。
「させるかよ!」
オレは指が痺れるほど連続で六本の矢を放った。
弓のスキルである乱れ撃ちだ。
命中率は少し下がるが、幸い的は大きくすべてが命中する。
矢自体のダメージはそうでもないが、オレの矢はリーズの作ってくれた特別製だ。
とくと味わいやがれ!
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