036 森
バローの街の南門を出てしばらく歩くと、深い森へとたどり着く。
バローの街の南に広がる大森林。さまざまな薬草が自生し、獣も豊富。
電気もガスも普及していないこの世界では、火を着けるといえば薪だ。魔法という手段もあるにはあるが、あまり一般的ではない。
いつもなら木をこる木こりの斧の音が聞こえてくるのだが、今日は聞こえてこなかった。きっとソウルイーターを警戒しているのだろう。虫や鳥の鳴き声だけが響いている。
「じゃあ、行きましょう……!」
決意を秘めたリーズの声に従って、オレたちは森へと侵入した。
しばらくは里山のような歩きやすい整理された森が広がっていたが、しばらく歩くと腐葉土の溜まったズボズボと足の取られる地面へと変わる。
間伐もされていないのだろう。日の光は大量の木の枝葉が止めてしまい、朝だというのに真夜中のように暗い。
そんな足元も悪く、視界も悪い中、オレたちはギュスターヴを先頭に歩いていた。パーティの隊列はギュスターヴ、ジル、イザベル、リーズ、オレの順番だ。
ギュスターヴの鎧が擦れるガチャガチャという音が響く。それに暑い。
風が木々によって止まってしまうからか、空気はどんよりとしており、とにかく湿気がすごい。
「想像以上に暑いわね……」
「そうね……」
「はぁ……はぁ……」
「…………」
オレは日本の夏を経験しているからかまだ平気だったが、いつもうるさいくらい元気なジルもこの暑さには閉口しているようだ。
そんな時、ギュスターヴの緊張感を持った声が響く。
「クロウラーだ!」
クロウラー。たしか黄色い芋虫タイプの魔物だったはずだ。
前を向けば、ギュスターヴよりも前方に丸太のように大きな黄色い体が見えた。中に人が入ってそうなほどデカい芋虫だ。
オレは素早く弓に矢を番えると、放つ。
矢はまっすぐに飛び、クロウラーのお尻に突き刺さった。緑色の汁がぷちゅっと漏れる。気持ち悪い。
クロウラーは驚いたように体を震わせると、そのまま木の陰に走り去ってしまった。
逃げた?
オレの矢……。
しかし、去ってしまったかに見えたクロウラーはすぐに戻って来た。二体のクロウラーを引き連れて。
「おい! 増えたぞ!?」
ジルの焦ったような声が森に響く。
最悪だ。一体だけだと思ったのに、木の裏にはさらに二体のクロウラーもいたらしい。オレのミスだ。
合計三体に増えてしまったクロウラー。これはオレも前線に出ないとマズい。
「みんな! 目を閉じて!」
慌てて弓を投げ捨てようとしたオレの耳にリーズの声が届いた。
オレは反射的に目を閉じる。
その瞬間、目を閉じていても感じるほどの強い閃光が走った。
閃光弾か!
あまりの光に目を閉じているはずなのに少しだけ目が痛くなる。
「もういいよ!」
リーズの声に慌てて目を開けば、少しだけ視界が暗くなった森の中で、クロウラーが三体とも腐葉土の絨毯の上でのたうち回っていた。視界を焼かれて混乱しているんだ。大チャンスである。
「目が、目があああああああああああああああああああああ!?」
しかし、目を閉じるが遅れたのか、ジルがクロウラーと同じように腐葉土の上でのたうち回っていた。最悪である。
「ジルはあたしが! みんなは左からやっつけて!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
リーズの指示にギュスターヴが走り出す。向かうは左でのたうち回っているクロウラーだ。
オレも慌てて弓を放り投げると、腰から短剣を引き抜いてギュスターヴの後を追う。
「サンダーアロー!」
イザベルの横を通り過ぎる時に、イザベルの魔法が発動した。雷属性の第二魔法だ。
イザベルは火属性の魔法の方が得意なのだが、森で火属性の魔法を放てば火事になってしまう。イザベルの火属性魔法が使えないのはかなり痛いが、今回は自主封印だ。
発動したサンダーアローはオレのすぐ横を通って左でのたうち回っているクロウラーに命中する。
ズドンッという雷のような命中音と共に、クロウラーの体がビクビクと震える。よく見れば、命中した箇所が焦げていた。
しかし、クロウラーはまだ生きている。
そこに追撃に入ったのはギュスターヴだった。
「やああああああああああ!」
ギュスターヴが片手剣をクロウラーの額に叩きつける。クロウラーの額からは緑色の汁が噴き出した。
だが、クロウラーはまだ動く。ギュスターヴに顔を向けると、口から白い物を吐き出した。糸だ。まだ目が見えないのだろう。所かまわず糸を吐き出し続ける。
「うおおおおお!?」
あっという間に真っ白に染まるギュスターヴ。
ギュスターヴの声から位置を判別したのか、クロウラーの体当たりがギュスターヴにヒットした。
芋虫といっても、クロウラーは推定で百キロを超える巨体だ。ギュスターヴはそのまま突き飛ばされ、尻餅を突くようにしてズボッと腐葉土の中に沈んでしまった。
「くぬっ!? なんだこれ!?」
クロウラーの糸は予想以上に丈夫なのか、ギュスターヴをしっかりと拘束していた。
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