022 打ち上げと噂話
「「「「「かんぱーい!」」」」」
その後、第九階層まで一気にダンジョンを攻略したオレたちは、冒険者ギルドに併設されている食堂で景気よく打ち上げをおこなっていた。
「ぷはっ! うめー! これだからエールはやめられねえぜ!」
まるで一仕事終えたおじさんのようなことを言っているのが、我らが『狼の爪牙』のリーダーであるジルだ。口の周りには白いヒゲを生やして、本当におじさんみたいだ。
その隣では、酒よりも食い気が勝るのか、ギュスターヴが両手で口に物を放り込んでいる。
イザベルはそんな二人を呆れたように見ながら上品にエールを飲んでいた。
リーズ? リーズならオレの隣で悲しそうに串焼きを食べてるよ。そんなリーズも圧倒的なまでにぷりちーだ。
なぜリーズがこんなに悲しそうなのかというと、実は今日ドロップした六つのウサギ肉をすべて換金したからだ。リーズは食べたがったが、今は急いでお金を稼いで装備を充実させたり、錬金術のレシピ本を買わなくてはいけない。
これもリーズの為なんだ。許してほしい。
「あたしのウサギ肉……」
「リーズ、ごめんってば。今度、二人で潜った時は売らずに食べよう?」
「ほんと……?」
「ああ、本当だ。オレのギフトがあれば、すぐに集まるさ」
「期待してるわよ!」
さて、なんとかリーズの機嫌が直ったところで、オレは気になってることをジルに訊いてみた。
「なあ、ジル。それで、オレたちは合格か?」
「おん?」
まだ口ヒゲを生やしているジルがオレを見て、そしてイザベルを見た。ジルはパーティのリーダーだけど、イザベルには頭が上がらないからなぁ。
「そうね……」
みんなの視線が集まったことに気が付いたイザベルが口を開く。
「私は二人の参加に賛成よ。ギーのギフトは戦闘では役に立たないけど収益が上がるし、それにリーズの作るエーテルは是が非でも欲しいわ」
さすが魔法使いのイザベルだね。リーズが魔力回復アイテムであるエーテルを作れることを高く評価したみたいだ。
イザベルの言葉を聞いたギュスターヴが、食べるのをやめて口を開く。
「ギーの弓の腕はすごいよ。ほとんど外さないし、最初にモンスターにダメージを与えられるのは大きいと思うよ」
「そうだな。えーてる? ってのはよくわかんねえけど、ギーもリーズも今日の戦闘で役立つところを見せてくれた。俺たち『狼の爪牙』は、ギーとリーズを歓迎するぜ!」
「やった! やったわね、ギー!」
「そうだね!」
思わず手を取って喜び合うオレとリーズ。そんなオレたちをギュスターヴは羨ましそうに、ジルとイザベルは呆れたように見ていた。
「お前ら、ほんとに仲が良いな」
「まあね!」
いやー、仲が良いなんて照れるなぁ。
そんなわけで、オレとリーズは晴れて『狼の爪牙』に加入した。パーティを組むことで、ダンジョンの攻略速度は跳ね上がるだろう。それは貰える経験値の上昇にもつながり、強くなるスピードが上がることを意味する。リーズもMPが増えることによって、錬金術のレシピを今よりたくさん回せるようになる。
好循環が生まれている。そのことに満足すると、オレはエールを呷るのだった。苦い。だが、これがいい。
◇
「そいやー知ってるかよ? 森に入った『暁の英雄』が負けたって話だぜ?」
酔いもいい感じに回ってきた頃、ふとジルがそんな話をし始めた。
「『暁の英雄』?」
「何それ?」
『暁の英雄』と言われても、オレの知識に引っかかる情報はなかった。
リーズも知らないのか、首をコテンとかしげている。かわいい。
「知らねーのかよ!? 有名だぜ!?」
「最近話題の若手では一番期待されていたパーティよ。ギルドからの指名依頼で最近森に出没するようになった魔物の調査と討伐に向かったんですって」
「最近出没するようになった魔物……」
それって、もしかしなくてもソウルイーターのことじゃないか?
「で、負けたってわけよ」
「まだ負けたと決まったわけではないわ。正確には全員意識不明で発見されたの。それで、まだ目を覚まさないのよ。何が起こったのかは不明よ」
「全員、意識不明……」
ここまでくると、ソウルイーターの可能性がかなり高い。その『暁の英雄』というパーティは、おそらくソウルイーターに襲われたのだろう。
ソウルイーターはその名の通り魂を食べる。肉体は食べないのだ。森の中で意識不明で発見されたのにも納得はできる。
「最近、森で意識を失う人が多いよね。逃げてきた人によると、骨のバケモノみたいな見た目の魔物がいるらしいよ。怖いよね……」
ギュスターヴがその大きな体を震わせて言う。
「ギー、これって……」
「ああ」
間違いなくソウルイーターだな。リーズも気が付いたようだ。
「教会では、原因不明の意識不明患者が増えていると聞くわ。神聖魔法もポーションも効果がないらしいわよ」
ヤバいな。もうそんなに犠牲者が出ていたのか。
ソウルイーターへの対抗手段はある。だが、それにはリーズの意思を確認しなくてはいけないな。オレの秘密も打ち明けることになるだろう。なんだか気が重たいが、何も選択せずに時間切れというのは避けたい。
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