#51 素敵な夜を酔う
結局、リノはあれから幾度も挑むも一度たりともリノに勝てなかった。自分の能力や純粋の肉弾戦も全て勝てなかった。虚数空間とはいえ戦闘後の空はとても鮮やかで綺麗だった。
能力を頼らずに、スキルを頼らずに、等身大の自分で勝負したのはとても自分の中で効果的だったんじゃないかと漠然と思っていた。よくアニメや小説の中で無敵の主人公が無双していく話を生前読んだ事があったが、今の現実は僕の場合はそうじゃなかった。
能力を使ってもスキルを使っても純粋な肉体でも届かない存在や伸び代があることが自分にあることを知れただけでも大きな収穫じゃないか。それを実感するための模擬戦だったのだ。
虚しいか?
自分にがっかりしたか?
いや、寧ろリノやソラには感謝しかない。
力が無い僕にはこんなにも頼りになる仲間がいることに改めて感謝する。それが自然だとも。そうだとも。この気持ちを忘れてはいけないと思った。
世界は広い。
僕は小さい。
器量も実力も。
だが、それでいい。
それが今の僕なんだから。
「お姉さま!」
「ああ、リノ付き合ってくれて本当にありがとう。とても助かったよ。それに今の等身大の自分を知ることも出来たし、とても感謝してる」
「えへへへ、そんな感謝だなんて」
リノが照れくさそうに頭を掻いてるのを見ながら、リノは凄いなって心から思う。僕より遙かに強いのに、実力も実績もあるのに、初対面のときから僕と等身大で付き合ってくれている。
僕もリノを見習ってしかっりしなくちゃと心から思った。
「あ、お姉さま、そろそろお時間ですかね」
「そういえば、虚数空間で時間を調整しているとはいえ、かなりの時間が経過した気がする」
《戦闘時間は二日程度です。現実世界での時刻は夜の十時になります。お開きにしますか?》
「そうだな。ご飯を食べて明日に備えよう。二日も戦闘していたのか。集中してたら時間なんて全く気にしなかったな。睡眠も体力も無尽蔵だから出来る芸当か」
「お姉さま、お疲れさまでした。よくぞ、私のしごきに応えてくれました!リノも感謝感激です!」
「もう、リノったら大げさだなー」
《虚数空間を解除し、同時に金獅子亭へ転移します》
今回は虚数空間の外への被害は出なかったようだ。
ソラの性能が上がったせいだろうか。
被害が出なくて何よりだ。結構、全力を出して戦闘していたからな。
シュパン!
《金獅子亭へ転移完了》
「ふぅ、本当に疲れていないけど、疲れた気がするよ」
「お姉さま、ほらお風呂入ってご飯にしましょ」
「そうだな。そうしよう」
テーブルには出しっぱなしにしていた買い出しした食材が並んでいた。出店や露店で購入した出来上がりの物ばかりだから調理する必要が無いのが助かる。
そういえば、調理のスキルとか取得していた方が今後はいいのだろうか。今後どんな世界でどんな生活をするとは限らないし、この魔法の特異世界では出来合いのものが美味しいけれど、他の特異界がそうだとは限らないしな。様子を見て取得出来そうなら取得しておこう。
「お風呂先にいただきまーす!」
リノがお風呂に駆け足で行った。
僕はバルコニーで夜風を浴びながらお酒を呑んだ。
この世界のエールとか言うお酒は美味しい。魔法で温冷が自動で調節されていつでも呑めて食べられるなんて、本当に魔法の世界でとても便利な生活魔法だと思った。
前世でもこのような生活魔法があったらレンジとかオーブンとか本当いらなくなるよな。
夜風もだけど、夜景も綺麗だ。
この都市の生活が聴こえてくるようだ。
香りも温かさも。
春の夜風に似た夜風が頬を撫でた。
それが気持ちよくてエールがよくすすんだ。
酔う感覚は少ないけれども、雰囲気酔いという言えばいいのだろうか、居心地がとても良い。
明日はいよいよ大武道大会。
どうなることやら、勇者に歴戦の猛者に僕は何処までいけるのか。
勿論、目指すは優勝だ。
明日の試合は戦闘不能にすることが目的だから、対戦相手を万が一死亡させた場合は僕が失格になってしまう。だから、能力の調整をしながら工夫なくちゃいけない。しかも、僕の攻撃は広範囲かつ威力が高いものばかりなのでその具合をどうするかも戦闘しながら調整する必要がもしかしたらあるかも知れないな。
手を抜くというわけではない。
繊細な力の動きを経験値として会得することも、リノとの戦闘を通じて学んだことなのだ。
明日は不安でもあるけれども、ワクワクしている自分もいる。
とても楽しみだ。負けられない戦いが明日にはある。
リノとの戦闘も無駄にならないように、この経験をしっかりと活かせなくちゃね。
「お姉さま、上がりましたー次どうぞー」
「はーい、リノありがとー」
夜は更け、酔いが良い感じで回って
とても良い気分な素敵な夜だ。
次から大武道大会の予選です。




