#49 絶望の光と希望の時間
リノは元は軍人だ。しかも、元軍人とはいえ肩書きもとてもつもなく凄いというか長い肩書きだった。僕と出会う前までは幾千の戦場を駆け抜けてきたの筈なのだ。仮に強さが何かしらで補正されて同等だったとしても経験値や知識だけはどうにも出来ない。いくらソラの真核を持ってしてもこの経験値や知識を埋め合わせることなんてとても難しい。だからこそ、この模擬戦には意味がある。気づきがある。
この模擬戦で何を僕は得る。戦いの愉悦か?負ける恐怖心か?否、違う!僕はリノとのこの戦いを通して得たい何かがあると予感したから申し込んだのだから。
「お姉さまの本気をリノに証明してみてください!」
「ああ、言われずも」
リノは前回は僕に負けたと言う。それは違う。あの時もリノは僕より強かった。あれは僕の真核やら能力に由来する力による偶然と発芽だ。僕の実力では無い。だとしたら、能力を使わずにリノに勝てるか?違うだろう!
リノとのこの模擬戦で勝ち得ることはバランスだ。
「ソラ!」
《はい!主》
「さっきは一人で突っ走ってごめん。僕はこれから今の全力を出す。付き合ってくれるかな」
《私の愛しの主よ、私は貴女です。何処までもお供致します!》
「ありがとう、ソラ!」
「行くぞ、リノ!」
『深淵之魔神』
「それがお姉さまの究極技能ですね。私もとっておきを見せますよ!」
『百万鏡』
なんだあれは?
膨大な数の巨大な円が空間全体を包み込むような。
《主!、あれは危険です!回避を!》
回避、何処に?
あのレンズの数に大きさは尋常じゃない。何がこれから起きるというのだ。間違いなく、リノは僕よりも強い、油断するな考えろ!
「多次元跳躍で回避する」
《了解。観測による未来予測を演算完了。ポラリス周辺の空間を支配に成功。回避による被害を最小限に》
「お姉さま!行きますよ!!」
『外成神』
虚数空間内で創造された建築物、大地は観測範囲内で光と共に消えて逝く。あれはなんだ。自分の頭の中での演算が追いつかない。
リノはここまで進化していたというのか。凄い。心から尊敬する。
《深淵之魔神による支配によって重力子爆発は無効化に成功。同時にリノの究極技能よる影響でポラリスの究極技能が相殺され無効化にリノも成功しました。次回発動時間までコンマ000000000.1以内を演算完了終了。常時発動に移行に成功しました》
虚数空間内にあった創造物は瞬く間に新たに創造されていくが、創造された瞬間に光の中に溶け消し飛んで逝く。究極技能が常時発動はリノも同じか。
「お姉さま、リノはここです!」
リノは宣言した位置から全く動いていない。僕は放射される巨大な光線の束を転移しながら、進むが一向に前に進んでいない気がするのは気のせいだろうか。
ならば
『宇宙ノ色彩』
宇宙に三次元的に存在する色に全てが僕の味方をしてくれる究極技能だ。
「ソラ、このまま色でリノを固定する座標の演算を」
《既に演算完了済みです》
「OK、ソラ」
『宙縛』
「!!!??体が動かない!!」
あのリノを束縛出来る時間はそうと無い。リノを中心として法則を書き換えられてしまうからだ。おそらく1秒が限界。
「お姉さま、無駄です!」
「ああ、分かっている」
「!!??」
「リノ、お返しするよ」
『百万鏡』
深淵之魔神による効果だ。攻撃された隙を突いて模倣させてもらった。しかも、ソラの自動追尾式による収束砲だ。
1秒と隙は勝敗を決めるのには充分過ぎる時間だ。
「流石です、お姉さま」
収束された巨大な光の束にリノが飲み込まれた。
「ソラ、観測を!」
《リノは未だ健在》
これでも届かないか。
考えろ!自分の頭でソラと協力してリノに勝てる方法は無いか?
リノは恐らく僕の攻撃を全て物理変換している最中だ。しかも油断すると時間にすら介入できる速度を誇る実力者。僕の行動を様子見ということか。
「威力の高い派手な攻撃はリノには届かない。今もそうだ。僕の力だと現時点では足止め程度だ。どうする?これしか無いだろう虚数空間を新たに展開!別虚数空間事圧縮させる!」
『新たに虚之神を展開』
《光の速度で圧縮開始》
『多元掌握』
リノも気づいたか?!
依然、リノの光の攻撃は止まっていない。あれに直撃したらいくら僕のスキルでも防ぎようの無い。転移しながら避けつつ攻撃を休めないことが最善!そして、足止めしている内にトドメの空間圧縮だ。しかも、虚数による攻撃だ。膨大な攻撃を放とうとも物理空間を書き換えようとも、いかなる手段を用いても現状、宙王の未来予測演算では回避不可で算出が既に完了している。詰みかリノ?
「いいえ!!まだです!!お姉さま!!」
《あり得ません、虚数が書き換えられていきます》
リノも安定して出鱈目な存在だ。何というか、今のリノは最初に模擬戦をしたときのリノとは数段も別次元にいるリノだ。ソラも想定外のことが起きたことは僕も良くわかった。何せ自分自身の一部なのだから。
《観測掌握不可!色彩攻撃全て無効化されました。続いて、虚之神完全消失まで残り2秒》
圧倒的過ぎるリノ・ノノ
今持てる僕が全力で戦って尚、届くか届かないかの存在。
さすがは最終防衛ラインの一人に数えられるだけある。僕もその一人なんだが。
深淵之魔神による支配は有効範囲内だ。
「時間を支配して攻撃する。ソラ、タイミングを合わせてくれよ」
《深淵之魔神による権限行使により時空への干渉権を獲得。究極技能ティンダロスの猟犬を獲得に成功し行使実行》
『ティンダロスの猟犬』
時間は過ぎた瞬間が本物なのだろうか。今という刹那の時間が本物なのだろうか。未来が本物なのだろうか。否、どれも分けられる筈が無い。僕は導き出した答えは全ての時間だ。
虚数と時間が融合した僕の収束した攻撃がリノを直撃した。
「かはッ!お姉さま、流石です」
膨大な巨大な光の柱が消えて征く。
光の柱は仮想世界を穿ち、世界に大穴を空けた。
虚数空間で創造されたであろう、大都市ギルヴァートはポラリスとリノによる戦闘の影響により通算570回も完全消失し、虚数空間内という仮想の世界とはいえ、この大魔法世界は300回にも及ぶ世界崩壊を経験した。




