電話
ここに電話番号がある。
さっきから呆れるくらい見ている。
暇人過ぎて悲しい。
やっぱり穂乃果の言う通り日曜日に電話したら良かった。
日曜なら昨日は有難うございましたって言えたけど、もう今日は水曜日。
土曜日は有難うございましたと言っても、もう忘れられているかもしれない。
結局何も話せなかった。
揚げ物好きですか?なんて何聞いてるんだろう。
馬鹿じゃないの。
他に聞くことあるでしょ。
呆れられちゃったかな。
つまんない女だと思っただろうな。
まあつまんないことは事実だし。
というよりロースかつ重が余りにも美味しくて、もう何も考えられなかったんだよね。
お漬物の時点でダメだったもん。
ううん、ほうじ茶から美味しかった。
もう一回行きたいな。
青柳さんが食べていたミックスフライ定食もすごく美味しそうだったし。
ああ、タルタルソースとウスターソースをかけてエビフライ思いっきり食べたい。
アジフライと鰯のフライにも合うんだよね、あと鱈フライと牡蠣フライも。
お魚とタルタルソースは最高の組み合わせ。
山盛りにして食べたい。
こんなことばかり考えて携帯を握りしめベッドに寝ころんでいる女なんて日本で私だけな気がする。
私は食い意地ばかり張っていて意気地がない。
佐々木さんが送ってくれた青柳さんの写真を見る。
写真を拡大して見ると青柳さんの机にはチキン南蛮。
佐々木さんは沢山写真を送ってくれたけど、食べ物と一緒に写っていたのは青柳さんだけだった。
このせいだ。
全部チキン南蛮のせい。
こんな写真でもわかるタルタルソースの存在感とチキンの光沢感溢れる照り。
食べたい。
私は一体青柳さんを見ているのだろうか。
それとも青柳さんがこの日食べたであろうチキン南蛮を見ているのだろうか。
同じ写真をずっと眺めているなんて初めてだ。
青柳さんは私の連絡先を知らないから私からかけない限り永遠にもう青柳さんとの線は繋がらない。
かけなきゃいけない。
だって生れて初めて気になっている。
チキン南蛮定食を社員食堂で一人食べるあの人が。
淡々と当たり前のようにミックスフライ定食を食べていたあの人が。
好きな揚げ物はと聞いた時鶏のから揚げとコロッケと大根おろしとポン酢で食べるとんかつが好きと言ったあの人が。
電話しよう。
しないと一生このままこの青柳さんの写真を見続けてしまう。
何がそんなに青柳さんの写真ばかり見ているんだろう。
チキン南蛮のせい?
好きだけど、世界一好きって程チキン南蛮好きだったっけ?
ああ、こんなの初めて。
唯一緒に食事しただけなのに。
これはあれなのかな。
ロースかつ重が余りに美味しかったから、青柳さんまでよく見えるのかな。
兎に角かけてみよう。
電話して、電話して、どうするの?
どうしたいの?
どうしたいんだろう。
自分でもわからないけど、もう一度話してみたい。
かけよう。
どんな展開になるかわからない。
でもどう転んだとしてもかけたらもう明日から写真を眺める日々は終わるだろう。
それだけでいい。
この落ち着かなささえ終わるなら何だっていい。
自分一人のことじゃない相手がいることだ。
思い通りの展開などあるはずがない。
そもそも想像できていないから、思い描く展開すらない。
想像は最も苦手とするものだ。
青柳さんがどんな人なのかも全く知らない。
知っているのは二つだけ。
オタクだということ。
揚げ物が好きということ。
あと実家暮らしでお婆さんとお母さんと一緒に暮らしているということ。
こうしてみると意外と共通点がある。
私も実家暮らしで揚げ物が好き。
オタクと言っていいかはわからないけど食べ物が好き。
よし、いける。
電話する。
取りあえず、景気づけにアイスを食べてから。




