2 弓兵は恋に落ちた
前回のシリアスな雰囲気から一気にコメディ展開になってしまった……
主人公がひどいことに……
「俺、転生したくないです」
「…………は?」
「転生したくないです」
「…………なんで?」
「俺が求めるゲームが無くて養ってくれる人もいないなら転生しなくていいです」
「…………はぁ?」
「バカなことを言っていることは自覚しているが社会に出るくらいなら転生しなくていい!!」
「えぇ……」
今度は俺が何言ってんだこいつって顔された。
「日がな一日ゲームをするのが俺の生き甲斐だったというのに……」
「そんなこと言われても困るんだけど……」
「これから何をしていけばいいんだ……」
「まっとうに働いて生きていけばいいんじゃない」
呆れた顔で言われた。
「そもそも転生自体はもう終わってるわよ」
「え?」
「あとは人界に送り届ければ全て完了するわ」
「なん……だと……」
「転生は決定事項なの」
決定事項って拒否もできないってことだよな……
「いいや、認めんぞ! 断固として認めん!!」
「認めんって……」
「俺の聖域のない世界などにいられるか、俺は元の世界に帰るぞ!!」」
「………………」
「嫌だ、嫌だ! 転生などしない!! さぁ、元の世界に戻してくれ!!」
「いい加減にしなさーい!!」
―――ドゴッ!
「グベラッ!?」
俺は後方に吹き飛ばされる。なんて力だ。
普通の人間だったら死んでるはずだが、何故かそこまで痛くない。というか、ちょっと気持ちよかった。
「嫌だ、嫌だっていい大人が子供みたいに駄々こねるなぁ!!」
「なんだと! 男はな年をとっても心は少年なんだよ!!」
「………………」
―――ドゴッ! ドスッ! ドスッ! ゴスッ! ゲシゲシッ!!
「グホッ! ゲフッ! ガッ! グフッ! ブヒィィィィ!!」
「いい、ふざけたこと言わないで大人しく転生なさい」
「はぁはぁ、中々に素晴らしい攻めだった……」
「うわぁ……」
「だが、ここで引いては男が廃る!! 俺は……」
―――ヒュン!! バキッ!!
俺の股間の下を何かが掠め、床に小さなクレーターができた。
「いい加減にしなさい……」
「はひっ」
俺は呆気なく敗北した。
「ぐすっ……ひぐっ……」
俺は泣いていた。それはもう見るも無残な程泣いていた。
何故こうなったかというと先ほど情けなく敗北した後も何度か彼女に挑み、その度にタマヒュンを味わう羽目になったのだ。だが、途中から当たりそうで当たらないスリル感が気持ち良くなってしまい調子に乗ったらまさかの股間にジャストミートして現在に至る。
「……ごめんなさい、さっきはやり過ぎたわ。だから、もう泣かなでよ」
「男にとってここは命と同等なんだ……新たな命を作る為の重要な存在なんだ……」
「そ、そうなんかごめんなさい」
「いいんだ、どうせ俺は世界が変わってもダメなままなんだから……ごめんな新息子よ、この先お前の出番は排泄と自家発電くらいになりそうだ……というか、息子生きてるかな……本当に俺はダメな奴だな……」
「なんか面倒くさくなったわね……」
「俺は期待されてない引きこもりなんだ……ただ飯ぐらいのニートなんだ……フヒッ、フヒヒ」
フヒヒだって俺、気持ち悪いなぁ……
「……はぁ~、まったく」
そう呟いて彼女は何か考え込んみ、少ししてこちらに向き直り口を開いた。
「えっと、わ、私は期待してるわよ!!」
「………………え?」
「だから、私はあなたに期待してるの!!」
「え? え? なんで?」
「転生作業をしてるときに気付いたのだけど、あなたの肉体データは他の転生対象者に比べたら隔絶した能力を持っていたの。そんなあなたが人界に行ったら、とても凄い偉業を成し遂げるはずよ!!」
「俺が……凄い? そう……なのか……」
「ええ!! あなたは凄いのよ!! だから、私は期待しているの。私が担当した転生者が人界で知る者がいない偉人になるかもしれないのよ!! そうなったら私としても誇らしいし、今の状態から成長したあなたを見てみたいわ……巻き添えで死なせてしまったあなたが楽しく笑って過ごせるようになって欲しいから、ここで諦めないで全力で生きなさい……それが私の願いよ」
「………………」
彼女は微笑みを浮かべ慈愛のこもった眼差しでそう言った。
何だろう……この何かが胸にこみ上げてくる感じは……
こんな美少女が笑顔になれば誰だって見惚れるだろう。だが、この感じは違う。うまく言えないけど彼女の笑顔をもっと見たい、その笑顔を俺だけに向けてほしい、もっと彼女のことを知りたい、そう思った。
「どうしたの? 急に黙って」
「あ、いや……そういやこの部屋凄いすね」
なんか恥ずかしくて、話をそらすためにぬいぐるみだらけの部屋のことを聞いた。
「え? あ、これはその……可愛いの好きだから趣味で作ってたら自室に収まらなくなっちゃって……それでここに飾ろうかなって……」
……照れてる姿可愛すぎだろ!! なんか抑えられなくなりそうだ。
これはもうあれだな、俺堕ちちまったな。
「あの~名前聞いてもいいですか? あ、俺は河内 宗隆っていいます」
「ん? そういえば名乗ってなかったわね……私の名前はユーティアよ」
「ユーティア……」
落ち着け宗隆、名前は分かったんだ。あとは真摯な態度でこの気持ちを伝えるだけだ。
……よし、心は決まった。
母ちゃん、俺はこれから一世一代の大勝負に出るよ……
「な、なんで死地に向かうような顔してるの?」
「ユーティアさん! いや、ユーティア!!」
「ひゃ、ひゃい!?」
「俺と結婚しよう!!」
「……………………………………………………………………へ?」
「絶対に幸せにする!! 君が泥をすすれというなら喜んですすろう、命をくれというなら喜んで差し出そう!! 俺は君が欲しい、俺には君が必要だ!!」
「え? ほえ? にゃにを言って!? ふぇぇぇ!?」
「好きだ、ユーティア。俺と結婚しよう」
「と、突然何を言い出すの!? け、結婚ってそんな急に言われても……そもそも出会って直ぐにプロポーズとかあり得ないでしょ!?」
「時間なんて関係ない、俺はユーティアが好き、ただそれだけだ」
「なんでドヤ顔でそんなこと言えるのよ!! 私だけテンパっててバカみたいじゃない!!」
「可愛いから問題ないぜ!!」
「なに清々しい笑顔でサムズアップしてるのよ!! むかつくわね!!」
「それで答えを聞かせてほしい」
「え!? えと……その……いきなり結婚とかは……ま、まずは恋人として付き合ってからって私何言ってるの!?」
物凄いテンパってるユーティアたんマジ可愛い。
というか、恋人からなら良いんだ。これはもう誘ってるだろ、いやそうに違いない。
「そうだよな……分かった……」
「そ、そう分かってくれた?」
「ああ、結婚したら初夜のことも考えないといけないもんな。ユーティアたんは処女だし俺も経験ないからそりゃあ心配になるよな。だから、まずは恋人になって徐々にお互いのことを知っていこうってことか」
「違うわよ!? ていうかなんで処女だって分かったの!?」
「その反応で分かるし、処女の香りがするからな」
「処女の香り!?」
「そんなことより恋人同士ならハグは有りだよな」
「恋人になったつもりないんだけど!? にじり寄って来ないでよ!!」
俺はユーティアたんとの距離を少しずつ詰めていく。
勝負は一瞬だ。この身体は想像以上に素早く動けるみたいだから、ユーティアたんが隙をみせた瞬間に俺の熱いハグを決めればイチコロだろう。
「………………」
「………………」
どうやらユーティアたんは警戒しているみたいだ、まったく照れ隠しがすぎるぜ。
暫くしてしびれを切らしたのか彼女が一瞬目をそらした瞬間、俺は足に力を込めて彼女にル〇ンダイブをした。
「なっ!?」
「ユーティアたーん!!」
「くっ! 【障壁よ】!!」
突如俺の前にに半透明の板のようなものが出現した。
「ちっ! 舐めるなぁぁぁぁ!!」
障壁に手をつき力尽くで彼女の後ろに跳んだ。
「嘘っ!?」
「貰ったぁぁぁぁ!!」
「えっ、きゃあ!?」
後ろを取った俺はそのまま彼女に抱きつき身体を弄った。
「ちょ、ん……やめ、は、ぁ……なさい、ふぁ……」
すげーいい匂いがする。何よりも……
―――むにゅ
「ふぅ……ユーティアたんは着瘦せするタイプなんだな……」
「っ! ……い」
「い?」
「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
―――ドゴォォォォォォォォォン!!
「かはっ……」
「【転移】!!」
吹き飛ばされた俺は光に包まれた。
「何なのよあいつ!!」
ユーティアは一人憤慨していた。
原因はさっき転移させた青年である。
「戸惑ったと思ったら急に駄々こね始めて、そしたら今度は落ち込み始めるし。あんまりにも見てられないから慰めたら今度は、け、結婚してくれなんて……」
彼女は余りの急展開に混乱していた。
「付き合うなんて言ってないのに恋人呼ばわりされるし。あ、あんなに身体を……っ!」
抱きつかれたことを思い出しユーティアは赤面した。
「あ、あの変態!! 許さない、許さないんだからぁ!!」
「フフフッ♪ 中々面白いことになってたわね~」
「え!? あんたいつの間に……」
ユーティアの傍に美しい女性が現れた。彼女はユーティアと同じ人界の管理者、つまり同僚だ。
「最初から全部見てたわよ~♪」
「相変わらず悪趣味ね」
「面白い子だったわね~」
「面白いもんですか。忙しい奴だし変態よ」
そう言いユーティアはそっぽを向いた。
「それにしても女性担当のユーちゃんの方に男の子が混じってるとはね~」
「見た目女にしか見えないから他の奴が間違えたんじゃないの。というか、あんたの方は終わったの?」
「魂が肉体に定着した人からさっさと転移させたからずっと前に終わってるよ~」
「あんたね……」
「いちいち事情説明してるのはユーちゃんくらいだよ~」
「巻き込んだ責任として当然のことでしょう」
「相変わらず真面目だね~あ、そうそうこれから会議するらしいよ~」
「はぁ~今回の不祥事と後始末についてでしょうね」
まだ山ほど残っている仕事にユーティアはため息をつくのだった。
真摯な態度とはなんだったのか?
次回からやっと異世界です。
誤字脱字がありましたら、教えてください。