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Re Day toーリデイトー  作者: 荒渠千峰
Date.1 まだそれは日常でしかなかったということ
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7 お互いに溜めていたもの


「ねぇねぇ、あれからどう?」


俺は後ろを振り返り納富いとと目が合う。


「ざっくりと聞くなぁ」


あの事件から2日経つが、とくに進展はなし。明羽のほうはどうなっているか確認のしようがないけど、少なくとも塚本はいつもの女子グループと仲良さげにしている辺り、邪険に扱われたり除け者にされたりということは無いみたい。

けど。

遠くで俺を見ながらヒソヒソと話をする女生徒がちらほら。


「一部の女子からは生理的嫌悪の対象になったのかもね」

「おー、ご名答」


小さくパチパチと拍手をされた。うれしくねー。


「納富さんはいいの? 俺なんかに話し掛けてて」


仲がいいつもりはなかったけど、事件があろうと無かろう態度が一変もしないってのは少し不思議に思った。


「んー? 別に。だって浮気とかじゃないんでしょ?」


はてと、困った顔をして逆に問われてしまった。


「後ろめたいことがある関係性ならもっと修羅場とかあってもいいじゃん? 正直言うとそういうの期待してたんだけど……、ほら明羽の性格的に許せないことでしょ?」

「あー、なるほど」


確かに、あれが浮気の現場を押さえた写真なら双方黙ってはいないだろうし、事実なら明羽は俺をけたぐりに来てそうだし。


「期待はずれもいいとこだよね、だから私は逆にそこまで意味の無いことを敢えて行った犯人の方に興味が移ったわけ!」


意気揚々と語るけど、要は昼ドラ展開が起こらなかったから夜のミステリー部門へシフトチェンジしただけだった。

マイナーだけど納富がやったんじゃないかと疑いたくなるな。


「私って気分屋だからどっかの女子グループに属してるわけじゃ無いんだよね」


グループ。

仲がいい、もしくは似たような趣味が好転して輪ができるような集まり。

リア充ヨロシクのイケイケなグループから大人しめのグループまで様々ある。それらは休み時間や昼食時、あるいはチャットのグループと青春時代に苦楽を共にする仲間たち。

たまに違うメンバーのときもあるが基本的にはブレない。

例えば織田明羽は女子の中でも流行に敏感である程度の発言権を持つようなリア充グループ。

塚本麻衣は目立つような行為を極力控え、無理のない程度で宜しくやろうという穏健的なグループ。図書委員とかやってそうな。

塚本自身は明るい性格なのだが、転入してきてまずイケイケなグループに入るようなことは古参が拒みがち。新参者は弾かれやすいのが世の常か。

化粧っ気が少なく美人で男子の話題になりがちな塚本はむしろ少し煙たがられている。あれか、合コンでは自分より可愛い子がいて欲しくないとか、そういうのに近いのだろうか。

話は逸れたけど、納富はとどのつまり気分で話す人や遊ぶ人を変える。

自由奔放、自分の拠点というものを作ろうとしない。悪く言うならはみ出しもの、半端。

何もそれ自体が悪いことではない。むしろその鋼の精神は見習うべきところであり、どこか女子高校生とはかけ離れている気がする。

大人びている。お転婆なフリをして実は誰よりも落ち着いている、含みがある物言いを時折するから何度か肝を冷やしたぜまったく。


「一匹狼って感じかね」

「んー、ただの流浪だと思うよあっははー」


俺とよく話すようになったのも、たまたま。席が前後したからである。まるで4月の時の俺と塚本みたいに。


「でも何はともあれ事件って終息しつつあるんだよ、織田属する過激派組織によってね」

「その穏やかじゃなさそうな言い草やめたりぃな」


暴力団やマフィア、テロ等を連想してしまうじゃないか。


「あっははー、でも冗談抜きでピリピリしてるのは確かだから武力行使とか滅茶苦茶やりそうなのは見ててわかるよ」

「いや見てたくない。巻き込まれそ」


俺の場合、立ち位置が複雑だから粛清の的にされるかもしれない。問答無用の断罪、有罪判決即極刑。

どこぞの国では不倫した男の下半身を地面に埋めてから頭上に石を投げ込まれる刑があるらしい。いや普通に死ねる。ここが日本でよかった。冤罪だけどね。


「むしろその巻き込まれる様子を見るのが犯人の目的だったりしてね、ついでに言うと私も見たい」

「まさか納富さんが犯人?」

「んふふーそれはどうかな、どうかな?」


犯人ではないが愉快犯っぽい。どちらにしても敵に回すと厄介な相手だと再認識したところで休み時間が終了。始業のチャイムが鳴り出す。

さっきのやりとりが余程楽しかったのだろうか、納富は授業中に俺の背中をペンで小突いて楽しそうにしていた。うぜー。


「しっしっ」


左手を後ろに回してあしらいながら、俺は授業に集中しているフリをする。

人間関係がこじれるどころか、また珍妙な相手にからまれるようになってしまった。







「ほいじゃらまたね」


ウインクを決め込み俺に別れを告げ去る納富。台風一過の気分だ。


「あ」


軽く手を挙げて応じても空振りに終わるので少し恥ずかしい。怪しまれないように自然と周りを見渡してから教室を去る。

もし誰かからの警告なら、目立つ行為を避けるべきだと判断したから今日も(いつも)早く帰るにかぎる。

靴箱に上履きを放り白いスニーカーを履く。学校指定のローファーを必ず履かなければならない決まりはない。赤やピンクとか派手な靴は校則に反するけど境界が曖昧なのは確かだ。


「ちょっと」


まさか自分に声をかけて来たわけではあるまいと横目で隣を見て数秒固まる。

知らない女子だ。いや、正確には知っているけれど話をしたことは無い。納富の言葉を借りるならば明羽が属する過激派な女子ということだけは知っていた。とんだエンカウントだ。


「ごめんなさい。GW中にライブに行って今あまりお金を持っていないんです」


やんわりと断りを入れつつカバンから財布を取り出し中から野口さんを1枚差し出す。


「ちげーよ! なんで手際イイんだよ、うっかり受け取るところだったろうが!」


やはり初対面でたったこれだけのやりとりのスムーズさ。ノリがいい。これはやはりイケイケな過激派の人たちにしか出来ない芸当ですな。そうなると厄介なのは俺に接触してきた理由だけど。


「古い言い方するならツラ貸せってこった」

「ごめんなさい今日ちょっと塾で......」

「古い嘘つくなよ」


くそったれ。

これでもクラスで十本指なんだけど、さすがにそうは思われてないか。

もしスポーツをやっていてその成績なら多少は注目されたり羨ましがられたりとかするんだろうけど残念ながら帰宅部なので自慢にもならない。

文武両道がいかに難しいか思い知っている途上なのだ。


「やれやれだぜ」


遅かれ早かれ呼び出しが掛かりそうなのは予見していた事なので無駄な抵抗はやめる。

何かあった場合、学校内の方が助けや目撃情報が出やすく先に仕掛けた方が不利になることが可能性としては高い。

それ故に、掲示板のタネは未だに明かされておらず俺の中では既に迷宮入りを果たしているけど。トリックを明かすより、今後に注意すべきだと判断した。

だから、今ここでついて行くことは避けられないフラグ回収と同時に犯人が望むものかもしれない。

玄関先で待ち構えていたからてっきり外へ連行されるものだと思っていたけど、どうやら教室棟みたいだ。それならば放課後すぐにでも呼び出せばこんなところまで手間取らずに済んだのに…...。どうあっても人目につきたくなかったということか。


「ひとつ聞いていいか?」

「どーぞ」


素っ気ない返しだが、無言になられるよりは幾分かマシか。


「あの写真を撮ったのはそっち側の人たちか?」

「......その質問の答えにはならないけど、こっちもひとつだけ言っとく」


先行する彼女は振り返り、鋭い目付きで俺を()めつける。


「ウチは明羽を悲しませるやつを許さない。それが例え明羽の好きなヤツでも」


なるほどね。

おそらくだけど俺という存在を好ましく思ってないのはどうやら読みが当たっていたようだ。

最初は俺に対する嫌がらせだけが目的かと思っていた。

例えば、GWに明羽が俺を誘うところからが計画で偶然居合わせた塚本をダシに使った、とか。正直に独白すると俺はあの掲示板を見た最初の時点ではこの可能性が高いと踏んでいた。

明羽があの場に現れてましてやあんな姿を晒されちゃ、疑いからは外さざるを得なかったけど。

だから次は明羽を除くイケイケなグループによる犯行なのでは、とすり替えた。

だがこれも矛盾している。

表向きで俺ひとりがターゲットならば何も彼女たちの顔を晒す必要は無いのだ。

明羽か塚本、どちらかの味方をする者もしくはグループの犯行ならば全員の顔を晒すリスクは避けるべき。どちらか一方を隠して特定されるのを恐れるならば2人をモザイク処理等で施せば俺だけを攻撃できる。

それをしない理由とは?

女性陣に思い入れが無く、単純に俺を恨んでいる相手。もしくは愉快犯。


「よう、立川」


辿り着いた場所は俺が属する教室の隣のクラス。明羽がいるクラスでもある。

その教室には3人の女子と2人の男子。俺が入口付近で立ち尽くしていると一斉に視線がこちらを向く。

帰りたい。


「遠慮しないで」

「歓迎されてるようには見えないけど」


そのグループには明羽はいない。けれど、どいつもこいつも見たことはある。その程度の情報。


「あー、やっと来たのな」


男子の1人が気だるそうに呟いた。まるで楽しい会話を場違いな一言で空気悪くしたヤツを見る時の顔だ。なんというか、鬱陶しいって思われていそうな表情と言えばいいのかな。


「話はよく明羽から聞いてたよー」


何をアイツはベラベラと喋っていたのか、気になる点ではあるけど勿論それがいい話じゃないってのは察することが出来た。


「俺の方は、ごめんよく知らない」


俺は素直にそう言う。こっちからすれば完全なる赤の他人だから余計な先入観は持たれないようにその場での関係性を保つ。


「今まで色々と聞きたいこととかあったんだけど、そもそもなんであんたなわけ?」

「明羽もだいぶ変わってるからねー。けど傷付けられるのは我慢出来ないんだよね」


あからさまな敵意を様々な方向からぶつけられる。でもプレッシャーなどは感じない。俺は今の状況を特別恐れたりはしてなかったのだ。


「それなら、告白された時点で断っとけば良かったのか?」

「は、なに冗談言ってんの?」


失笑気味に吐き捨てられた。


「なんか勘違いしてないか? 別に俺から告ったわけじゃない。向こうから来て断る理由が無かったから付き合ってただけだ」

「は?」


どうやら本当に知らなかったようだ。


「なんだ、結局何も知らないんだ?」


そう問いかけた瞬間、一人の男が俺の制服の胸ぐらを掴みあげた。力の差は歴然たるものか。


「調子乗んなよ?」


調子に乗る?

今まで学校生活で調子づいていた奴が、それを俺に言うのか。


「俺はただ、普通の生活を送っていきたかったんだけどな」


俺と明羽の関係性を、どうして名前も知らないヤツらにどうこう言われなきゃならないんだ。


「お前らみたいなのに絡まれるんだったら、そりゃ明羽と付き合わない道を選んだんだろうよ」

「は? 意味わかんないんだけど」


静観していた女子が聞き捨てならないという雰囲気を醸し出している。


「お前らが何を我慢してたかなんて興味無いんだよな。俺は俺でアイツに対して1年近く、色々と我慢してきたんだから」


胸ぐらを掴む男の腕を無理やり引き剥がす。シワになった部分を手で払いながら僅かに距離をとる。


「何様だよお前」

「元カレだよ友人さん」


男の握り拳に強く力が込められたのがわかった。僅かに震えていたのを見るに、怒りのボルテージがグングン上昇中というところかな。


「何もかも明羽が先なんだよ。告白も、お前らも知ってるあの掲示板の写真の日に誘われたのも」

「あたしらが言いたいのはそういう事じゃない!」


一喝。1人の女子生徒が悔しそうに、涙目で俺を睨みつける。


「明羽が、どれだけ今もあんたの事を想ってるか分かる? 転校生といい雰囲気で帰ってる姿を見てどれだけ心を痛めてたか…...分かるの?」

「知ってるよ」


少年漫画の純粋な主人公じゃあるまいし、ある程度の行動と態度を見ていれば勘違いでも好意を寄せてるんじゃないかって思うのが男だ。

だけど、だからといってそれに応える義理はない。努力は認めるけど、努力したくらいで実らないことだって世の中にはたくさんある。


「けど、それをお前らがどうこうするのが筋違いだってことに、どうして気付けないんだよ」

「それは......」

「悲しませる悲しませないじゃないだろ。悲しむのは人として当たり前なんだよ。そんな明羽の心を軽んじてるのは俺よりおまえ達だ。裏で俺の悪口を言うのは構わない。けど今やってる行為が余計なお節介だってのは気付けよ!」

「や、やめて。これ以上言わないで......」


さすがに自分たちの行為に不安が生じたのか。それぞれの表情に曇が入る。それは自分たち本意ではなく、本当に明羽を好いており心配するからこその態度だった。


「お前らが掲示板に写真を貼ったんじゃないのか?」

「それはちがっ」

「どうだろうな、こんな野蛮なことをやっちゃう奴らなんだからそれくらいなんてことないんだろ?」

「アタシ達じゃないっつってんじゃん!」


怒鳴る声が他に誰もいない教室を引き立ててしまう。これだけ叫ばれるとさすがに野次馬が増えるだろうか。

けど俺はつづける。一度開いた口はちょっとやそっとじゃ塞がらない。


「口ではなんとでも言えるだろ? 大方、懲らしめるつもりだったのが結果明羽を悲しませる形になったからこうやって俺1人を責め立てて逃げてんだ」

「やめて! いい加減にしてよ!」

「謝罪しろよ、俺に! 塚本に! 明羽に!」


言いたいことはほぼ言い終えた。荒れた呼吸を整えようとして、左目に一瞬の痛みと背中に激痛が二回迸った。揺らぐ視界に僅かに開く右目で天井を仰ぎ見る。


「はぁ......はぁ......」


女子たちは当然の如くどよめいた。


「なんで手出すわけ!?」

「バカじゃないの!」

「うっせ、てめぇらが脅し役で呼んだんだろうが!」


口は災いの元。

どうやらあの男子生徒は激昂すると手がつけられなくなるタイプの人種だったようだ。俺がまくし立てる重圧に耐えきれなかったのか、もしくはかなりイラついたのか。

殴られたことはなんとなく今の状態から察したけれど、カラダが動かないのは何故だろう、と不思議に思った。

それにだんだんと眠くなってきた、変だな。

遠くで誰かの声が聞こえる。

そしてやがて耳に、視界に何も情報が入らなくなった。







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