第110話
迷宮攻略によってSSSランクの資格の証明をしたアマンドの名前は周辺に広まり始めていた。
しかし、アマンドの不幸はすぐにやって来た。
「ルス!! パロマ!!」
迷宮を攻略したアマンドとダビドが、ギーリンの町で少しの間他の冒険者に称えられた後、ピトゴルペスの町に戻り、ダビドと別れてアマンドが家に帰ると、家に人だかりが出来ていた。
何かあったのかと人だかりをかき分け家に入ると、そこには血だまりの上に横たわる妻と娘の変わり果てた姿だった。
「…………何で!? 何でこんな事に!?」
訳が分からず、パニックになりながらアマンドは2人の亡骸を抱きしめた。
「2人の悲鳴を聞いてワシらが来た頃にはもう2人がこの状態だったんじゃ……」
町の中心部から少し離れた場所に建つアマンドの家の、一番近くに住む老夫婦が事の顛末を話始めたが、家が少し離れていたのと老人の足で僅かに着くのが遅かったのか、犯人の姿をはっきり見る事は出来なかったらしい。
「ダメだ……、怪しい人間の姿は見当たらなかった……」
近所の通報によって衛兵は動き出し、アマンドの家の周囲や、町から出ようとする人々の検問を開始していた。
しかし、それらしい人間は見付からない様で一旦ここに戻って来たのだった。
「そんな…………」
その言葉に近所の者達は皆肩を落とした。
その後結局犯人は分からず、怒りのやり場のない状態のまま、アマンドは家に引きこもり、抜け殻のように日々を過ごした。
◆◆◆◆◆
“コンッ! コンッ!”
「師匠ー!!」
葬儀も終わり2人を墓地に埋葬して数日の間を開け、ダビドはそれまでのようにアマンドの家を訪問し、ノックをしたが、アマンドが出て来る気配も反応もなかった。
今日は3日目の訪問だった。
この2日は反応の無かった事からすぐに立ち去ったのだが、このままではいけないと今日は少し気合を入れて訪ねていた。
「入りますよ?」
“ガチャ!!”
返事を聞かず、ダビドは家の中に入って行った。
そこには椅子に腰かけ、何もする気が起きないのか、髭が伸びて、虚空を見るように1か所を見つめて動かないアマンドが居た。
「…………師匠?」
「……………………」
ダビドが呼びかけるが、アマンドは全く反応を示さなかった。
「…………飯食ってますか? その髭じゃ風呂にも入ってないでしょ?」
「……………………ぅさい」
色々と話しかけていると、僅かに反応した。
「…………師匠、確かにルスさんやパロマちゃんを亡くしたのがつらいかもしれないけれど、元気出して下さいよ」
「うるせぇ!! お前に俺の気持ちなど分かるわけ無いだろ!?」
「確かに師匠程じゃないかもしれないけど、俺だって悲しいし悔しいっすよ……」
ダビドも2人の死は辛かった。
娘のパロマとは何度も遊び相手をしたし、妻のルスには何度も食事を世話になったりして、かなりの恩を感じていた。
2人の死を聞いて、アマンドの家に向った時には何も出来ない状態だった。
せめて2人の為にもアマンドを元気付けようと来たのだが、大した言葉が出てこなかった。
「……元気出してくださいよ。2人の為にも……」
「何が2人の為にもだ!!? 他人のてめえに2人の何が分かんだ!!? 他人事だと思って適当な事言ってんじゃねえ!!」
ダビドの言葉が気に障ったのか、アマンドは目を見開いて怒鳴り声を上げたのだった。
「!!? てめぇ!!」
確かに自分は他人だが、ダビド自身2人を亡くした悲しみはかなり深い。
それを馬鹿にされたように思えたダビドは、一気に頭に血が上りアマンドに殴りかかった。
“ドガッ!!”
「……ぐっ!?」
突然ダビドに殴られ、アマンドは口から血を流し、床に尻もちをついた。
「あんたがそんな風にしてたら亡くなった2人が悲しむだけだろ!! ヘラヘラしろって言ってんじゃねぇんだ、せめてもうちょっとシャンとしろって言ってんだよ!!」
「うるせえ!! ひよっこが師匠の俺に向ってなめた口利いてんじゃねぇ!!」
“ボカンッ!!”
ダビドに好き放題言われ、眉をしかめたアマンドは立ち上がってダビドを殴り返した。
「……いっ、てーな!! 人が折角気合を入れてやろうってしてやってんのに、何しやがんだ!?」
「してやってるだ!? ガキが調子乗ってんじゃねえぞ!! てめえは破門だ!! 二度と俺の前に顔見世んじゃねえ!!」
「上等だよ!! いつまでも腐ってやがれ、くそ野郎!!」
“バタンッ!!”
売り言葉に買い言葉のように言葉を交わし、ダビドはそのままアマンドの前から立ち去って行ったのだった。
◆◆◆◆◆
『ダビドの奴あれからどうなったかな……? あまり良い噂聞かなかったが生きてんのかな……?』
ダビドとの最後の喧嘩の後少しずつ元気を取り戻したアマンドは、妻と娘の墓からあまり離れないように冒険者としての仕事を行うようになった。
そのせいか、ピトゴルペス以外の事は噂程度しか分からない為、ダビドの現状を知らない。
ダビドはアマンドと喧嘩をした後町を離れ、その後金藤の力でねじ伏せる姿をアマンドの拳1つで敵をなぎ倒す姿を重ねてしまったのか仲間に入り、少しづつ道を外れて行ってしまい、金藤と共に日向の戦争に加担したのだった。
「フゥーーー、生きて行くってのはしんどいな……」
自分の体が鈍っている理由を考えたら、何故か昔を思い出したアマンドは思わず呟き、魔族の男に対峙する為立ち上がったのだった。




