第96話 食事中にトイレの話題はついてまわるらしい
「ああーっ!お茶会部になんて入るんじゃありあませんでしたわ!」
お昼休みに、非常に取り乱した声が聞こえてきた。
アパレル社長の娘の、えーっと、名前は分からない。
「どうなさったの?お茶会部に認められて入部できるなんて、とても名誉なことだとおっしゃっていたではありませんか?」
アパレル娘の隣にいたクラスメートが口を開いた。ごめん、名前も親の職業も覚えてない。
しっかし、名誉なことねぇ。そんなことを友達に言ってたの。それって、逆に自慢だよね?
「ええ、もちろんお茶会部へは入りたいと望んでも資格を満たしていなければ入れませんからね。入部資格があるだけでとても素晴らしいことには変わりないのですが……」
そうなの?入りたいと望む人いるんだ?
よっぽどお茶とお菓子が食べたいのね。
「ですが、活動内容に掃除が含まれているなんて、聞いていませんわ!」
「掃除ですか?」
友達が、驚いて口を押さえる。ああ、まだ知らない人もいるのか。って、そりゃそうか。
「今年からだそうですわ……」
と、アパレル娘が頭を垂れる。
それを聞いていた、皐月たんが、慰めるようにアパレル娘の肩に手を添えた。
「お茶会部は、皆が憧れるライオンズクラゲの活動を参考にするそうですね。すばらしいですわ。あのライオンズクラゲですものね」
皐月たんの言葉に友達が「素敵ですね!ライオンズクラゲに近づけるんですか!」
と、褒め称えた。
「KHTでキングの座を得るのはお茶会部にかかっているとも耳にいたしましたわ」
皐月たんが、さらにアパレル娘に声を掛けている。
「まぁ、そうなんですの!流石お茶会部ですわね!」
友達がさらに賞賛。
皐月たんは、ニヤッと笑うと、アパレル娘の肩をぽんぽんと軽く叩いて、耳元でなにやらささやいた。
そのとたん、アパレル娘の顔が白くなったけど、何を言ったんだろう。
まぁいいか。
「お弁当も食べ終わったので、自動販売機を見に食堂へいきませんか?」
うおーっ!
そうだった。食堂に自動販売機が入ったんだった!忘れてた!
「行きましょう」
食堂の一角にすごい人だかり。まだ、自動販売機人気は衰えていなかったようだ。
「どういたしますか?」
皐月たんに問われ、また今度にしましょうと答える。そりゃそうさ。何が悲しくて行列に並んでまで自動販売機を使いたいと思う?よっぽど喉が渇いているか、おなかが空いているかじゃないと……ねぇ。
「トイレ」
ん?
まだ食事中の人もいるというのに、誰だ?トイレなんて言ったの。
食べている途中にトイレに行きたくても「ちょっとお花摘みに」とか、トイレって単語使わないで表現するもんだぞ!
ちなみに「ホワイトクリスマス」って言うとか……White Christmas、つまり頭文字がWCでトイレをあらわすからね!
あとは「録音」とかね!録音は、音を入れること、音入れ、おトイレってことなのだ!
「トイレ」
「トイレ」
む?
食堂のあちらこちらから、トイレって単語が聞こえてくる。そんなに皆トイレに行きたいのか?
いや、それとも「トマト入れた?」とか「問いレンガの材料は」とか、そういう会話の「と、い、れ」だけがつい耳に残っているだけなのか?
……考えたくはないが、嘉久や兄が食事中にトイレの話をしまくっていたことから考えるに……。
この世界では、食事中のトイレの話はタブーじゃないのか?それどころか、食事中の話題として相応しいとされているとか……。
ノーッ!そんな特殊文化いらない!
「あら、すでに噂は随分と広まっているようですわね」
皐月たんがふふっと笑いを漏らした。
「噂って何?」
芽維たんが皐月たんが尋ねる。
「お茶会部が、トイレ清掃合宿をするそうですわ。本当かどうかは分かりませんが」
あ、それ、たぶん本当。
……っていうか、嘉久、行動早いな!朝食のときに話してたことが、昼食時間には学校中に噂としてひろまってるって……。
っていうか、だからみんなトイレトイレって言ってるのか。理由は分かったけど、でも一言言わせてもらう。
まだ食事中の人もいるんだから、トイレって言わない!言いたいなら食堂を出て廊下ででも話なさい!
「ええー、そうなの?お茶会部すごいねぇ」
芽維たんがにこにこしてる。純粋に感心してる。
「いろいろと、後には引けないようですわ」
皐月たんがフフフと笑っている。
「だけど、誰が言い出したんだろうね?トイレ掃除合宿なんて、すごく新しいよね?」
芽維たんの疑問に、皐月たんが答える。っていうか、皐月たん相変わらず情報通だな。
「どうやら、高円寺様が剣崎様と相談してお決めになったようですわ」
「へぇー、高円寺様ってすごいねぇ」
うお、芽維たんが、嘉久の名前に興味を示した。
「高円寺様は、お茶会部では現役で一番上のお家柄ですし、剣崎様はお茶会部の部長ですから。誰も何も言えないようですわよ」
「何も言えないって?」
「活動内容に対する不満や、部活をやめたいとかですわ」
二人の会話を聞きながら教室に向かう。
芽維たんは、私が疑問に思ったことと同じことを聞いてくれるから、ありがたい。
ふふ。私たち、思考が似ているのかもしれません!これは、親友になれる、予感?わーい。
「一度入ると、部活を辞められないのですか?」
え?お菓子部とか、食べ過ぎて太ったから辞めるとかできないの?
「いいえ。本来なら、部活は自由に退部できます。ですが、お茶会部の場合は少し特殊で……。部活を途中で辞めさせられることはあっても辞める人はいません」
「辞めさせられる?」
「ええ。入部資格が無くなったら、辞めさせられます。」
入部資格が無くなる?ナニソレ。
「ご両親の仕事の業績のこととか、紹介者の方が紹介を取り消すとか……」
あー、なるほどね。庶民に落ちちゃったら追い出されるってことか。あと、紹介してくれた人に嫌われたらだめなんだ。
「お茶会部を辞めさせられるということは、家やご本人の人格を否定されるような不名誉なことなのです。いくらご自分から辞められたとしても、辞めさせられたのではないかという噂は免れません」
えー。もし紹介してくれた人がすんごいやな奴でもいうこときなかくちゃいけないとか、そういうなんかメンドクサイことがあるってこと?
大変だなぁ。可哀相。
「人の噂も75日っていうし、噂なんて気にせず辞めればいいのにねぇ?」
「それが、そう簡単な話ではありませんの。随分昔の話なんですが、とある企業の社長令嬢がお茶会部をお辞めになったのです。すると、会社の業績が悪くてお茶会部を辞めさせられたのではないかと噂が立ちました。学園から噂を生徒が持ち帰り、その噂を信じた別の会社社長が、その企業との取引から手を引いたのです。その結果、問題のなかった会社の業績が悪化してしまったという……」
「うわぁー。噂を信じて会社を動かすとか、怖い親もいるんだねぇ……」
本当だよ。そもそも、お茶会部のメンバーが会社の業績を、会社よりも先に掴むとかありえないだろうに。
いや、それとも……。お茶会諜報部員とかいるの?メンバーのあれこれを調べ上げてたり……。こわっ!
「そんなことがあって、一度お茶会部に入った者は、お茶会部を自ら退部することはありません」
「親の会社にまで影響しちゃうんなら、簡単には辞められないかもしれないねぇ。よかった。うちはサラリーマンで!」
にこっと笑う芽維たん。
それにしても、相変わらず皐月たんは情報通。
「ですから、トイレ掃除頑張ってね!とアドバイスするしかありませんわ」
皐月たん、もしかして、さっきアパレル娘にそうアドバイスしたのかな?
こんにちは。いつもありがとうございます。
お茶会部、何気に怖い部です。入ったら辞められないとか……。
きっとどんなに辛くて辞めたくても親が全力で止めるんだろうなぁとか……。
そして、辞められないので、今後義久がどんな無茶な提案しても、耐えるしかないんだろうなぁ……とか……。




