第67話 一般常識のテストの結果は散々らしい
「毎年のことだが、一般常識のテストの点数は非常に低い。平均点は30点だ」
担任が、6時間目に前置きをしてから、テストを返却し始めた。
「あー」とか「うー」とか、ため息とかが聞こえる。
……。せめて、30点。
裏向きに返された答案用紙を表に返す勇気がなかなか出ない。
そうそう、正解がプリントされた用紙に、点数の書かれたマークシートが貼り付けて返されるのが、答案用紙になってるのね。
ふぅ。先生が、教室を回って、全員の机に答案用紙を配り終えた。
見るしかないなぁ。
「じゃぁ、解説をしようと、言いたいところだが、私がするよりも満点をとった生徒からしてもらったほうが生徒視点での常識が聞けるだろう。よく聞いて、学ぶように」
ええ、平均点30点のテストで満点とるとか、すごい!
と、私が感心していると、不満の声が生徒から上がる。
「別に知らなくてもいいよ、こんな庶民の常識なんてよぉ」
「そうです。私たちは電車を利用することなどございませんし。何も困りません」
えええっ!
待って、待って、何その流れ?
一般常識の解説を聞かないってことなの?困る困る!
このゲームの世界の常識を怪しまれず聞くことができるめったにないチャンスなのに!
「牛丼やハンバーガーが幾らかなんて、食べに行くことも無いんだから知る必要もない。いや、たとえ高級レストランだろうと、値段を見ることは無いんだけどな」
「ははは、そうですよ、先生。」
そーだそーだと賛同者が増える。
待て待て待て!私は知りたいんだよ!少しでもこの世界の常識とやらを!
解説は無くていいんじゃないの?っていう雰囲気になったところで、先生が「白川はどう思う?」と聞いてきた。
あ、私が知りたそうな顔してたの、ばれた?
えーっと、皆を説得するには、一般常識は知っていて損はないよ?って主張しなくちゃだめなんだよね?
「確か、このクラスには国会議員のお子様もいらっしゃったかと思うのですが……」
生徒の何人かが、一人の男子生徒のほうを見る。
「何年か前、サラリーマンの平均昼食金額が800円として試算を出して非難された議員がいたことを覚えていらっしゃいますか?」
前世世界の話だから、こっちの世界ではそんな出来事なかったかもしれないけど。
まぁいいや。何年前かわかんないけど、所詮この間まで中学生だった子たちだもん。政治のことなんて興味なくて知らなくても当たり前だよね?
ごまかせるよね?こっちの世界では違っても平気だよね?
「何故非難されたかご存知ですか?サラリーマンは、ワンコインランチといって、500円玉一枚で昼食を済ませようとしている人も多いのです。500円でも高いと、280円弁当を買い求める人もいます。つまり、800円というのは、サラリーマンの大半にとっては贅沢な部類なのです。800円もの高級ランチを食べるのを、一般的な基準として試算を出した議員は「分かっていない」「もっと高いものばかり食べてる人間には800円なんて安い部類なんだろう」と非難を浴びました」
っていうか、100円ハンバーガー2個だけとか、100円均一の2個いりメロンパンだけとかも普通だっての。800円なんて、ランチ1回分じゃねぇ。1週間分のランチの値段だ!あほんだら議員め!とか、当時の私、みっきゅんとけちょんけちょんに言いながら、1000円するBL同人誌を大切になでておりましたとさ。……あれ?
「果たして、議員になろうという方に、一般常識は本当に不要でしょうか?」
国会議員の息子が、顔を青くしてうつむいた。
えーっと。でも、なんだろう?他の生徒は「そうだ、一般常識大切!」って顔してないんだけど……。
なんとういうか「だけど、私には関係ないけどね」って他人事っぽい。えー、そうなのぉ?
「確か、アパレル関係の方もいらっしゃいましたよね?」
もう少し一般常識の大切さを語るしかないの?
「テストには、電車へ乗るための乗車カードの問題もあったと思いますが……。例えば、通学で利用している人は、どのように利用しているのかご存知ですか?ポケットやカバンにカードを入れて持ち歩き、改札口を通るときに出して使ってまたしまう」
ブレザーの胸ポケットに入れてあるという設定で、動作を真似て見せる。
「毎日、行きと帰りにこの動作を繰り返すのです。ポケットに一緒に入れてあったものをうっかり落としたり、電車に乗り遅れそうになって焦って出せなかったりと、色々なハプニングも起きます」
生徒の顔は「だから?関係ないし」って顔のまま。
「そこで、ポケットから出さなくても使える制服だったらどうでしょうか?今、私たちが来ているブレザーの丈は短めです。改札口の高さはこれくらい。ブレザーのすそがこのくらいの長さで、裏側のこのあたりに乗車カード専用ポケットをつけます。そうすれば、ポケットから出し入れしなくても、ブレザーのすそを少し持ち上げて改札に当てるだけで済みます。便利になると思いませんか?」
前世で一人いたんだよなぁ。袖口の裏にカード用のポケットを縫い付けてた子。ただ、袖口だと色々な作業するときに邪魔になるのと、夏は使えないってことで、2週間でやめたけど。
「例えば、制服にそのような一工夫をすることで、採用に持ち込めるということがあるのではありませんか?」
まだ、教室はシーンだよ。「そうだよな、やっぱり一般常識大切だよな」って声はあがらない。
何故だ!
「では、お聞きいたしますが、ネズニーランドへ東京駅から行くには、どうすればよいかご存知ですか?もちろん、一般的にですよ?地方から、海外から日本へ旅行にいらっしゃった方々はどうしていると思いますか?」
あんまり反応がないから、斜め後ろの席の人を指名する。えーっと、名前わかんないから、手で促す。
「切符を買って、電車に乗っていくんだろ?」
ま、そうなんだけどなぁ。
「ええ、そうですね。切符を買います。じゃぁ、切符を買う手順をご存知ですか?」
「それくらいは分かるさ。券売機にお金を入れてボタンを押すんだろ」
あー、知ってるんだ。
「ええ、正解です。ですが、それだけではありません」
はぁ?って顔してる。でもさ、私はちゃんと「旅行」って言ったよ。
「まず、ネズニーランドへは、何駅を利用すればよいのか調べます。
その次に、その駅は何線を使えばよいのか調べます。
さらに、その線を利用するには東京駅からそのまま行けるのか、途中で乗り換えしなければならないのか調べます。
そして、必要な路線を確認したところで、そこまでの料金を調べます。
そこで、やっと切符を購入します」
唖然としてる。そうだろ、そうだろ。誰かに任せまくってる人間ならそんなことしないもんなぁ。
「この作業を煩雑に思う人も多いと思いません?確か、IT企業の方もいらっしゃいましたよね?もちろんパソコンやスマホのアプリで便利なものはいくつも出ていますが……。もし、駅の券売機が音声認識で「ネズニーランド」とか「金閣寺」とか行き先を告げるだけで、駅の経路から料金まで表示されるとしたらどうでしょう?購入した切符に、乗り換え駅や利用するホームの番号など印刷されて出てきたらどうでしょう?とても便利になると思いませんか?そのようなシステムを鉄道会社に提案して受注に結びつけることもできるのでは?」
本当、そういうのあったら便利だよなぁ。
事前に調べたメモとか持っていくの忘れたときのがっかり感。
スマホで調べればいいやと取り出したスマホの充電なくなりそうマークの悲壮感。
いつもありがとうございます。
璃々亜さん、必死に主張しております。




