閑話*弟視点
バレンタインの話。また閑話でごめんね。
バレンタイン。
僕にとっては、厄介なイベントの一言に尽きる。
中学の女子どもは、すでに僕がバレンタインにチョコをもらうことを歓迎していないことを知っている。だから去年はさほど嫌な思いをせずにすんだ。
今年は外部生が入学している。
知らない女子どもが、校舎の入り口に立って華やかな包み紙を持って僕を見ている。
うざい。
中身がチョコレートであれば食べずに捨てる。
手作りチョコレートなんて、気持ちが悪い。何が入っているか分からないもの、口に入れられるわけがない。
ネットを少し検索すれば出て来る。馬鹿なおまじないの数々。
自分の髪の毛を入れると思いが通じるとか。涙を入れるだの、爪の垢を煎じて入れるだの、湯せんではなく自分の体温で溶かして作るだの……。
気持ち悪い。それを信じて実行する女子が実際にいるのが恐ろしい。
効果がありました!だの書き込みの数を見てさらにぞっとする。
市販のチョコレートだからって油断はできない。
一度開封して再び包装することくらい簡単だ。開封してつばでもつけてると考えただけでぞっとする。
口に入れるものだけじゃない。
手作りの品も怖い者ばかりだ。市販品もそうだ。
盗聴器やカメラを仕込むなんて簡単だ。アイドルがファンから送られたぬいぐるみに盗聴器が入っていたなんて話は有名だ。
入れようと思えばなんだって入れられる。
バレンタインは、そういったおぞましいものを押し付けられる地獄のイベントだ。
おぞましいものを押し付けようとしているのに、こちらが冷たく応対すると泣いたり切れたりとさらに厄介だからやってられない。
「あのっ、これっ!」
校舎の入り口を通り過ぎようとするとき、案の定女子が手に持っていた包みを突き出してきた。
はぁー。
めんどくさい。
「あなた、ご存知ありませんの?三笠蔵様は、誰からもバレンタインは受け取りませんわ」
「そうです。もらっても気持ちにこたえることができないから、僕に渡すつもりでその分どこかへ寄付してくれと……それは心優しいお方なのですわ!」
「私は早速、バレンタイン寄付を行いました。三笠蔵様のファンとしては当然のことです!」
ふっ。
ファンか。
中学の持ち上がり組は、まるで親衛隊のように僕の周りをうろついていてうっとおしいが、こういう時ばかりはありがたいな。
自分で断る手間が省ける。
下駄箱には、チョコは一つも入っていない。
親衛隊の一人がおはようございますと小さく挨拶をする。
教室の入り口でも同じようなやりとりがある。そして、教室では女子たちの言い争う声が聞こえてきた。
「あなたに何の権限があって、三笠蔵様が受け取るべき私からのプレゼントを突き返そうというのですか?」
「三笠蔵様はそのようなことは迷惑だと言っているのですわ。何を期待しているのか分かりませんが、あなただけ特別扱いしていただけると思っていらっしゃいますの?」
そうか。
下駄箱や机の中やロッカー、全て誰かが当番となって外部生からのチョコを突き返してるのか。
「あ、おはようございます、三笠蔵様!セントバレンタインですわ!」
にっこり笑って、金のリボンのついた包みを差し出される。
「私も勉強したのですわ。チョコを送られても受け取っていただけないという話は聞いております。ですから、これは、お父様にお願いして特別に用意していただいた発売前の○×社の××……」
お父様にお願いねぇ……。
「君は、僕がそれを君にもらわないと手に入らないと思って用意してくれたのかな?」
にこっと笑って目の前の女子に話かける。
「え?あの、その……」
「三笠蔵の力じゃ手に入らない品物だから、君が僕に与えようとしてくれているとうことかな?」
ガタっと女子が後ろに一歩下がる。
「そ、そういうつもりでは……わ、私……」
めんどくさい。本当に。
僕は誰からも何も受け取らない。
平等で分かりやすい対応をしているというのに。なぜ、自分だけはと思う人間がいるだろう。
ああ、苦しい。
何故、迷惑しているのが分からないんだ。
何故、何故、何故、何故!
「僕のためを思うなら、僕のためではなく世の中のためにお金を使ってほしい。僕は幸いにして恵まれている。……でも、僕が世の中にできることには限りがあるんだ。だから、僕の代わりに、誰かに募金を……愛を届けてほしい」
にこっと笑う。
ああ、笑うのは上手だ。
敵を作るなと父に言われている。
敵を作るようなことがあれば……潰すと。
僕の大切な作品を生み出したアニメ制作会社を一つ潰す。次に失態を犯したら別の会社を潰す。……。
「わ、分かりました。私……、三笠蔵様のために、頑張りますわ!」
女子は去っていった。
はー、朝から疲れた。
やはり、休めばよかった。
……だけど、休みたくない理由がある。
会えないとは分かっていても、それでも何度か姉と会えた。
話ができた。
偶然また会えるかもしれない。そのチャンスをつぶすような真似はしたくない。
……もし、姉と自由に会えるのであれば、姉は……今日、僕に……チョコレートをくれただろうか?
本命チョコなんて望んでいない。
義理チョコでもいい。
手作りチョコなんて望んでいない。
市販のチョコでもいい。
姉からだったら、10円のチョコ一つだって、僕には宝物なのだから。
次の大きなイベントは春コミか……。
春休みだ。バレンタインとは離れている。
無理……かな、もう。春コミで会えるとしても、バレンタインチョコって時期じゃないから。
「姉……」
3時限目が終わるまでに、親衛隊のような女子たちのおかげもあり、外部生の女子たちからの突撃もほぼなくなった。
昼になり、いつものように一人の時間を求めて社会科準備室へと向かう。
姉と、ここで会ったんだ……。そう思うだけで、幸せになれる。
と、思ったのに……。
ここにまで身の程知らずな女子が侵入したようだ。
社会科準備室の窓辺にリボンのかかった赤い箱が置かれている。
目障りだ!
捨ててやろうと手を伸ばすと、箱に付箋が貼られていた。
「弟へ」
ああ、僕は……。
赤い箱を抱きしめ座り込んだ。
こんなにも、こんなにもバレンタインが幸せだったことなんて……今までなかった。
おひさひさー!連載再開までもうちょっと待ってねー。
なかなか書く時間が取れなくてにゃーん。
バレンタイン、いつまで続くんだよ……




