閑話 兄視点 エイプリルフール
明日は、エイプリルフールだ。
毎年、エイプリルフールといえば、たわいもない嘘をついて楽しんだものだが……。
昨年の璃々亜の嘘には笑ってしまった。
「私、璃々亜ではありませんの。昨日までの璃々亜はもうこの世にはいません。私は異世界の人間です」
と、いい出すんだものな。
そういえば、璃々亜からもらった本にそのような設定の主人公の本があったことを思い出した。
あれは、たしか、異世界の聖女が現代日本に生まれ変わったという話だったろうか?
流石に読むのは辛かったが、せっかく璃々亜が私にくれたプレゼントだからな、あらすじと、最後の落ちは読んだ。
それだけで、璃々亜に感想を聞かれれば答えに困ることはない……程度の内容の本だとは口が裂けてもも言えないが。
確か、異世界から転生してきた聖女は、その世界で相思相愛だった王子の魂を持って生まれ変わった青年と結ばれて終わったのだったか……。
どうするか。
これは、あきらかな嘘だろう。
エイプリルフールだ。だまされたふりをするべきか。
いや、だまされたふりというのは、璃々亜に悪い。
エイプリルフールなのだから、私も嘘をつくことにしよう。
「璃々亜、実は私も異世界の記憶があるのだ。少し待っていてくれないか……」
と、部屋に戻り小さな石と手品の道具を持って璃々亜のもとに戻る。
「前世では、かなりの魔力を持つ大賢者だったようなんだ。だから、うまれかわった今でも……」
小さな石を手のひらにのせ、璃々亜に見せる。
「天地遍く魔力をこの手に、重力魔法【浮遊】」
適当な呪文っぽい言葉を口にして、手品の定番、物を浮かせてみた。
璃々亜の顔がびっくりしたような、感動したような顔になっている。
近頃は無表情なことがおおい璃々亜が珍しく見せる表情に嬉しくなって、もう一つ手品を披露する。
「火の精霊よ、我にやどりし魔力を糧に力を、火魔法【点火】」
指先に、小さな火がついて、すぐに消える。
これも、単純なよくある手品だ。
「え、お、お兄様……まさか、本当に……」
璃々亜が両手に口を当てて驚きの声をあげる。
「璃々亜の前世の異世界とは、どういう名の世界だい?私がいたのは」
と、ネタ晴らしする前にもう少し嘘を続けようとしたところで、嘉久がやってきた。
「くそっ、騙された!この会社、エイプリルフールでこんな凝った嘘サイト作るなんて……。ああだが、気が付いてよかった」
あー。
「なぁ、敦也兄、エイプリルフールだからって、企業も浮かれすぎじゃないと思わないか?」
中学でずっと株にはまっている嘉久は、売買に関して企業のサイトをこまめに見て回って情報を集めているようだ。
一体どの企業がそこまでエイプリルフールに力を入れているのだろう?
むしろ、そういうことができるだけの余裕がある企業だと思えば、今後成長も期待できるのではないだろうか?
「そうだ、璃々亜、嘉久にも聞いてもらうといいよ。璃々亜が異世界から転生したと。前世の記憶があるのだと」
「は?異世界転生?前世の記憶?ばかばかしい。誰がそんな嘘を信じるかって。エイプリルフールだからって、もうちょっとましな嘘を考えられないのか?」
嘉久が、株関係でイライラしている時はこうして八つ当たりのように璃々亜に冷たい口調で話しかける。
璃々亜も、それはよくわかっているので取り立てて怒って言い返すようなことはしない。
だが、今回ばかりは違った。
「私は確かに、嘘ですけれど、お兄様が異世界の大賢者様だったのは本当ですわ!」
と、嘉久に言い返した。
あー。ごめん、璃々亜。
私も嘘だったんだが。まさか、信じているなんて……。
異世界からの転生で、前世の記憶があるなんて、そんな非現実的なこと、本当にあるわけないのに。
こんなところは、まだ璃々亜も純粋で子供っぽくて可愛いと思う。
化粧が濃くなっても、心は白いのだろう。
いつもご覧いただきありがとうございます。
春休みをいただきたいと思います。
今回ちょっとまとめて長いお休みです。
GW明け再開を予定し、4月まるっと更新をお休みいたします。
あ、この話はエイプリルフールじゃないですからね?だって、ほら、今日は3月31日ですから……




