第347話 ど、ど、どげざらしい
きょとーん。
他の子もきょとーん。
だけど、料亭娘だけは、うんうんと頷いている。
えええ?そ、そうなの?
いや、でもさ、板前さんたち「高校生に何が分かる」みたいな感じだったんだよね?
「最後の料理をお出しして、皆様が召し上がっている間に、いただいた意見は二人に伝えてあります」
女将さんが、視線を見習い板前さん二人に向けた。
それまで、女将さんの後ろに立っていた二人は、正座をすると、がばりと頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたっ!」
ど、土下座ーっ!
ちょ、なんで?どうして、この場面で土下座?
「長年修行をしてきて……その審査を高校生にされると聞かされて……」
「高校生なんかに、私たちが作る至高の味が分かるものかと、どこか驕った気持ちが湧いてしまいました」
あーうん。
ごめん、本当に分かんなかった。試食じゃなくて、板前さんたちにとっては審査っていう形で伝えられたの?
だとしたら、審査員が素人集団の、しかも高校生だと知れば、そりゃぁやだよね……。
でもさぁ、よくある話じゃない?
どの分野にでも「素人に何が分かる!」って激高して逆切れしちゃうパターン。大抵こういわれるのよね。
「でも、それを楽しむのは素人ですよ?」
と。
ほら、この間もパクリで大問題になって結局デザイン取り下げになったあの、東京なんたらのマーク。
あれも選ばれたときに散々「ダサい」とか言われて「プロから見れば素晴らしいデザインだ」みたいなアホなこというやつがいたよなぁ。
街中にあふれ、それを目にする人間の何人がプロだっての!ほぼほぼ、素人だろう!その素人が素晴らしいって思わないデザインを街中で目にするとかどんな拷問ですかっ!本物のプロならば、素人も素晴らしいと思えるようなデザインを生み出せよっ!って話。
「ありがとう。白川さんでしたわね。娘の友達にこんな素敵な方がいらして嬉しいですわ」
女将さんが小さく頭をさげた。
ふおおおおーーーっ!
今、今、娘の友達って……!
娘の、友達って!
友達だって!
はぁ、はぁ、はぁ。
親後任の友達だって!
だ、大事なことなので、2度言いました。
あ、いや、3度?……あれ?まぁいい。
とにかく、もう一度繰り返します。友達だって!
「食べる相手によって、作る物の質を変えるようではまだまだです。今回はそれが、真の審査意図でした」
女将さんに言われ、板前さんズは再び深く頭を下げた。
「いつもできていることができればそれでよし。お客様にお出しするということは、いつも同じクオリティの物を提供しなければなりません。いえ、いつも常に上を目指して食材と向き合わなければなりません」
まー、うん。そうだね。
なんか昔、有名店が問題起こしたよなー。貧乏そうな身なりのお客に対して横柄な態度をとったとか。どうせリピーターにならないからって……。
いやいや、いつかまたこの店の味をと奮起して成功するかもしれないのに。
「今の客は未来の客……」
へと、つながるかもしれないのにねぇ。
「まぁ、白川様は、父が椿屋で修業時代に言われたという言葉もご存知なのですわね!」
料亭娘が、目をキラキラとさせている。
えーっと、ごめん。知らない。グルメ漫画にそんなセリフがあったような気はするけれど……。
「恐れ入りました!吸い物のわずかな濁りを言い当てるだけのことはあります」
「火加減のミスで少し濁りが出てしまったのを承知で、どうせ気が付かないと出してしまったことを、今は深く反省しております」
またまた、板前さんズが畳に額をゴリゴリ擦り付けてる。
「吸い物の透明度が、椿屋で修業を積んだものの腕の証」
あ、そういえば……。
「弧久」
嘉久に連れて行ってもらった昨日の店も、椿屋で修業がどうのとか言ってた気がする。
「まぁ、ご存知なのですか?父の弟弟子のお店ですわ」
あー、そうだったのか。つい昨日の吸い物と比較して透明度がとか言っちゃったけど……。本当は全然味なんてわかんないんだよねぇ。
「さすが白川様ですわ」
「本当に。私なんて、兎の形が可愛いとか、そんな感想しか出ませんでしたもの」
あ、そうだった。
「あの、お二方とも、顔を上げてくださいませ。……私たちに食べさせる料理を真剣に考えてくださったことは間違いないのではありませんか?女子高生だから、兎にしたらかわいいと気に入ってくれるのではないか……とか。デザートは和菓子の材料を使った見事なパフェでした。あれも、私達を喜ばせようと考えてくださったのでしょう?」
顔を上げた板前さんズは、小さくうなづいた。
「その点は、主人もとても評価していましたよ。老若男女、相手によって少しずつ変えるのも悪くないと」
女将さんの言葉に、板前さんズは涙目。
「ですが、見た目にどうやらこだわり過ぎていたようですね。味がおろそかになってしまっては本末転倒です」
き、厳しいっす。
確かに、誰かがかわいいから甘い系のが合うかもとかなんとか言っていた気がしないでもない。
「それから品数とボリュームに関しても検討の余地はありそうですよ」
あー、それは試食なのでおいそれと残せない事情も絡んだわけで……。
「取り分けることも考えて、分けやすい形状の品にするなどの工夫ができそうですね」
「はい。お母様、私もそう感じました。食べられなければ残せばよいのではなく、残さずに食べていただく工夫……。今まで来ていただいたお客様も、残すことに抵抗があるけれど仕方なく残してしまった方もいらっしゃったかもしれません……」
「ええ、そうですね……。続きは、また今度話し合いましょう。皆様、本日はとても貴重なご意見の数々、ありがとうございました」
と、女将さんがしめようとしたところ、板前さんの一人が小さく手をあげた。
「女将さん、お願いがありますっ!」
「なんでしょうか?」
「もう一度……、皆さんに試食していただく機会を設けていただけませんか?」
はい?
この場合の皆さんって、私たちだよね?
ごらんいただきありがとうございます。
えーっと、これ、壮大なる伏線だから(と、もう一度繰り返しておく)
なんで食事会にこんなに話数が必要なのかと疑問を持たれるのもあれなんで……。
(´・ω・`)




