第338話 帰りの新幹線らしい
お土産は、お守りに金平糖と買ったからこれ以上必要ないんだけど……。欲しいなぁ。買いたいなぁ。
だめだめ。普通のJKはそんなにたくさん友達にお土産渡したりしないんだから。お金の問題もあるし。お返しとかそういうことで揉めるのもやだから。相手の負担にならない程度に慎む、これも大事。
「かわいいっ!」
とてもよい香りに誘われ、入ったお店はお香専門店。
お香立てがすごくかわいくて。小さなピンクのうさぎが跳ねてるものとか、かえるが手を合わせるようにお香を持つ形になっているものとか……。
ほしぃー。お香とか使わないけど、飾っておきたい!
だ、だめだめ。
「あ、これはもしかして……」
京都で有名な油取り紙じゃない?
欲しい!そして、油取り紙を入れるケースがこれまた、かわいいの!欲しい!
だ、だめだってば!
と、そんな葛藤を繰り返して門前町を歩いていたら、あっという間に1時間半。
いやぁ、やばかった。清水寺の拝観時間が終わっちゃうところだった。ぎりぎりセーフで。清水寺見たの……わずか10分とか?
……。あれだ。嘉久の分刻みのスケジュールはやりすぎだけど、適度に時間を配分しないと、だめだね。際限がない。
「とても、今から移動すると、5時の新幹線に乗るのにぎりぎりですわね。北海道物産展でお弁当を購入する時間はありませんわね」
残念だけど、自業自得だ。
しゅんっ。食べたかったなー。
「ああ、当初の予定では5時の新幹線だったが、時間は変更してもらった」
「え?そうなんですか?」
なんと、嘉久、意外にも気が回る男であった。
「というか、ハプニングがあるということも学んだからな。帰りの新幹線は予約してない。何時に駅に着いてもいいようにな」
あー、そうか。
……。
明日から、どの学校も休みのGWですけどね。3日4日5日6日7日の連休ですけどね。
仕事終わって東京に行くぞっていう人たちで新幹線の乗車率がどうなるのか知らないけどね……。
まぁ、上りだから大丈夫かな?下りは……結構すごいことになりそうだけど……。
ふっ。肝心なところで爪が甘い男だ。
「でも、楽しいな。璃々亜。こんなに、目的もなく歩き回るのが楽しいとは思わなかった。ミツバチを間近に見られたのも面白かった。それから、飴細工を作っているところも興味深かったし、」
と、嘉久が目をキラキラして話し出した。
そっか。そんなに楽しかったんだ。
だったら、新幹線の時間を気にして急がなくて良かったかも。
「じゃぁ、ここからも、いろいろ見ながらのんびり向かいましょうか」
そうして、いろいろなものに目をとめて、ぶらぶらしながらのんびり帰った。
北海道物産展ではすでにお弁当は売り切れてて、キヨスクやお土産売り場の駅弁を見て買った。
新幹線はグリーン車は空いてた。
……一般車両は、いっぱい並んでたよ……。
新幹線では、嘉久は案の定さっさとお弁当を食べ終わって、一人で何やら京都での思い出を語っている。
そうかそうか。ちょっと私、食べるのに集中したいから、返事できないけどごめんね。
でも、楽しかったっていうのはよくわかった。
……私も、楽しかったよ。嘉久と一緒だと、あんまり気を使わなくても済む。それに、嘉久が私以上にいろいろなものを楽しんでくれるから、庶民である自分をそれほど隠す必要もなくて楽だった。
駅弁は、前世ではかなり奮発した値段。まあ、安いものでも、こだわりのなんとかみたいなのが多くてとてもおいしいんだけど。
和牛弁当にしました。2000円近くするの。安い駅弁だと600円くらいだから、ちょっと頑張った値段だよね。
しかし、見た目は……。肉。ふたを開けると肉しか見えません。わーい。
もぐもぐ。うま。
もぐもぐ。もぐもぐ。はー、おいしかった。ごちそう様でした。
そういえば、嘉久はいつの間にか静かだな?
隣を見ると……。
可愛い顔して眠っておりました。
お疲れさまー。
さて、東京駅までまだ2時間ある。私も寝ちゃうかもしれないから、まずはスマホで到着5分前にアラームセット。
あ、弟からメールが来てる。
そうだ、ユーキOnHotのことが気になって「ビーチバレー好き?」ってメールしちゃったんだっけ。その返事かな……。
ふあ。意識が。
眠い。いいや。メールはまた後で。
うにゃにゃー。ぱたっ。
あ、椅子を倒せばよかった。頭が、嘉久の方に傾いて……まぁいいや。もう嘉久寝てるし。肩に頭乗っけるくらい……。
こてっ。
「おいっ、璃々亜、起きろ」
ゆさゆさ。
ん?ゆすられてる。
「璃々亜!」
嘉久の声?
あっ!そうだ、私、新幹線っ。起きないと、乗り過ごしちゃうっ!
慌てて椅子にもたれていた体を起こして、ゴチンッと、何かにぶつかる。
いったぁーいっ!
鼻と口をぶつけたぁっ。
「り……璃々亜……」
目の前には嘉久の顔のドアップ。
うわぁー、ごめん。
顔を覗き込むようにして起こそうとしてくれてたのか。
ぶつけた鼻と口を押える。
嘉久は……鼻から血を流していた。
「ご、ごめんなさい。痛いですよね……っ」
慌ててカバンからティッシュを取り出して嘉久に手渡す。
新幹線は、チャラリラーと独特の音楽を鳴らし、間もなく到着するというアナウンスをし始めた。
ぎゃー、降りなくちゃ。
荷物、えっと、上にのっけたものは……ああ、もう嘉久が降ろしてくれてる?えっと、袋がこれで、足りる。うん、大丈夫そうだ。
ちょっと、嘉久、鼻を抑えたままぼんやりしてるな。鼻血の件は悪かった。
だが、ちょっとぼんやりするのは新幹線を降りてからにしておくれ。
「嘉久様、到着したようですわ。荷物を忘れずにお持ちになって、さぁ、急いでおりましょう」
ぐいっと手を引いて、やっと嘉久は動き出した。
おっと、切符切符。
忘れ物、ないね。うん。よし。
なんとか無事に新幹線を降りる。
「事故…これは、ただの事故……」
ブツブツと嘉久が言っている。
ああ、さっきぶつかったのね。そう。不幸な事故です。
「ごめんなさい。私の不注意で……。鼻と、あと、どこか痛いところはございませんか?」
「胸」
「は?」
「いや。なんでもない。鼻と鼻、口と口……事故、これは、ただの……事故……」
大丈夫かな、嘉久。打ちどころ悪かった?
ご覧いただき感謝でございます。
璃々亜の寝顔が可愛くて覗き込んでいたために起きた、不幸な事故ですね。
あ、嘉久にとって不幸だったかどうかは分かりません。
鼻血だって、出た原因が物理かどうかも知りません。( *´艸`)




