閑話 嘉久視点
璃々亜は優しい。
だめな俺を傷つけないようにと……笑ってくれる。
俺は、本当にダメやなつだ。
京都旅行が決まったときに、真っ先に浮かんだのは孤久だった。
名割烹である「椿屋」が閉店と聞いた時には、二度とあの味が楽しめないのかとどれだけ残念に思ったことか。
そこに、新しく情報が飛び込んできたのはつい最近のことだ。
「椿屋」で10年近く修行し、味を引き継ぐ者が店を開いたというのだ。しかも、開店1年でミシュラソに掲載されたらしい。
これは、ぜひとも行かなければ!そこに、この京都旅行の話だ。
よし、さっそく予約だ!
今ならわかる。
この流れの思考の中には、俺の気持ちしか入っていない。
一緒に行く璃々亜の気持ちも、都合も何も考えていないのだ。
いや、どこかで「璃々亜もおいしい物が食べられるんだからいい選択をした」くらいの驕りすらあったかもしれない。
店に入ったときも、食事をしているときも、璃々亜は何も言わずにニコニコとしていた。
にこにこ料理を食べていた。
とても、満足げな表情を見せていた。
だが、会計を済ませ、唐突に思い出したのだ。
今日の目的を。
京都に来たのは、手土産を買うためだ。
手土産を買うのはなぜか、璃々亜が明日持っていくためだ。
どこに持っていくのか……。料亭だと言っていたではないかっ!
「ごめん、璃々亜……」
過ちに気が付き、すかさず謝る。
「この店、失敗だったな……うっかりしていたが、璃々亜は明日は料亭だろう?似たような料理が続いちゃうな……」
俺が行きたい、俺が食べたい……それだけで決めた店だ。
璃々亜が何も言わないから、璃々亜も満足していると……勝手に思っていた。
違う。
璃々亜は言わないでいてくれただけだ。
いくらおいしい物でも、続けばいやになる。漫画にも出てきたじゃないか。「えー、また今日も○○なのぉ」と文句を言うキャラクターたちが。
中には「アタクシ、昨日もフレンチでしたのよ?それなのに、今日もまた食べろとおっしゃるの?気が効かない殿方は好みじゃございませんの。さようなら、二度と私の前に姿を現さないでくださいませ」と言っていたお嬢様までいたはずだ。
……あああ!
気が利かない殿方とは、まさに俺のことじゃないか。
相手のことを考えずに自分の思いだけで突っ走ってしまった。
嫌われる!
璃々亜に、嫌われるっ!
ところが、璃々亜は漫画の中のお嬢様とは全く違う表情を俺に向けた。
眩しいくらいに輝く笑顔。
「明日も、こんなにおいしいものがいただけるんですわね!なんて幸せ者なのかしら!」
ああ、なんてことだ!
「璃々亜……」
暴走する俺のブレーキになってくれる璃々亜。
気が効かない俺を責めることなく……
「そうして、俺の失敗も笑って許してくれる……」
「嘉久様は失敗などしておりませんわ!このお店、本当においしくて、とても幸せな気持ちになれましたものっ!兄にも自慢できますわ!」
それどころか、明らかに失策なのに……。
大丈夫だよ、気にしないでと言わんばかりに笑顔を向けてくれる。
幸せな気持ちになれたと……そう言ってくれるのか……。
どうしよう。
やっぱり、俺には璃々亜しかいない。
一生そばにいてほしいのは璃々亜しか……。
「璃々亜……俺……好きだ」
気持ちが抑えきれずに、思わず告白してしまった。
あ……。
何の準備もなく、こんなシチュエーションで……告白してしまうなんて……。
「ええ、私も。このお店好きですわ」
璃々亜の返事に、肩の力が抜ける。
勘違いされた。
……。
「……うん、そうだな。今はそれでいいか」
というか、今はそっちの方がいい。
こんな俺は、璃々亜に好きになってもらえない。
もっと、周りのことも考えて、相手の気持ちも考えて……。
独りよがりにならず、暴走しないようにしなければ。
時々なら璃々亜が助けてくれるかもしれない。だけど、いつも助けてもらうんじゃ……。
そんな情けない男、璃々亜が好きになってくれるとは思えない。
がんばろう。
いつもありがとうございます。
嘉久、告白失敗の巻。
事前準備しての告白とか、どんな準備をするつもりなんだ……|д゜)




