閑話 田中くん視点
自転車で駅へ向かう。
駅のロッカーに、部活で使うユニフォームなんかが入ったスポーツバックをロッカーに入れる。
……荷物を取りに家に帰る時間がもったいない。できれば、1分でも長く一緒にいられればなんて……。
そんな思いで、電車にのり、待ち合わせの駅に降り立つ。
あー、さすがに待ち合わせの時間の30分前は早く着きすぎたかな。
でもちょうどいいや。白川が来るまで、お店を調べておこう。
スマホを取り出して神保町のスポーツ洋品店マップという情報ページを見る。
先輩に聞いた野球用品の充実したショップの情報も載っている。
あ、女性向けスポーツ用品専門店なんてあるんだ。白川はそっちの方がほしいものが見つかるかな?
えーっと、場所は……。
「ご、ごめんなさい、お待たせいたしましたっ」
え?
し、し、白川?
持っているスマホで時間を確認する。
まだ、僕が到着してから3分と経っていない。
「え?あ、いや、待ってないっていうか、ずいぶん早いね?まだ30分前だよ?」
「田中くんこそ、いついらしたのですか?」
「あ、ああ、さっき来たところ……まさか、白川がこんなに早く来てくれるなんて思わなかったな……」
白川は時間にルーズじゃないだろうから、5分、10分前には来るかもしれないなぁとは思ってたけど……。
まさか、楽しみすぎてそわそわして、つい早く来ちゃった僕と同じように30分も前に来てくれるなんて……。
白川も、楽しみで早く来ちゃったとか?
そんな都合のいい話はないとは思いつつも、思わず顔がにやける。
「えっと、もしかして女性は支度に時間がかかると?」
「いや、違うんだ、遅れてくるとは思ってなかったけど、僕と同じ理由で早く来てくれたって想像したら嬉しくなっただけだから……」
おっと、本音が漏れた。
「え?」
白川が可愛い顔して、首をかしげる。
「何でもない。さぁ、行こうか」
白川は、電車でここまで来たのかな?だとしたら、乗りなれない電車で遅れてはいけないと早く出ただけかもしれない。
車で送ってきてもらったとしたら、渋滞に巻き込まれて遅れてはいけないと早めに出ただけかもしれない。
……。
自分の都合のいいように想像して喜ぶくらいはいいよな。
それから……。
ちょっと勇気を振り絞って、白川の手を握る。
白川の手が、驚いたようにビクンと動くのが伝わってきた。
心臓がガンガンとうるさいくらいなる。手を握るなんて、ずうずうしかっただろうか。
前、手をつないだからって、今日もつなぐのは不自然だろうか……。
「また、変なのに絡まれるといけないから……」
と、言い訳めいたことを口にする。
「嫌だったら……」
嫌だと言われたらどうしようという気持ちで思わず口にする。
ずるいな。白川は優しいから、嫌だって言って僕を傷つけるようなこと言わないだろうに。
もし、嫌でも、大丈夫ですわと言いそうなのに……。
「ううん、ありがとう」
にこっと白川が微笑んだ。
よかった。
手をつなぐことを、嫌がられてはいない……。
というか、安全のためという言葉を素直に信じてくれるなんて。ごめん。
本当は、僕が、白川に触れたかったなんて言ったら……その時は嫌われちゃうだろうか。
甘酸っぱい。甘酸っぱい。
あああ、身をよじる。
日曜と祝日は更新休みです。




