第203話 田中くんは試験勉強できなかったらしい
5時間目で試験が終了。
6時間目は委員会だ。
「行こうか」
田中くんが席まで迎えに来てくれた。
「ええ、行きましょう」
この間二人で作ったデモプリントを持つ田中くんの手に視線が行く。
田中くんの手は、鍛えられた手だ。一生懸命野球の練習をしている手だった。
何度も豆が潰れて暑くなったての平の皮。
弟の手とは全然違う。
指も太くて……。田中と恋人つなぎしたら、どんな感じなんだろう?
「どうした、白川?」
田中くんの声にハッとする。
「な、何でもありませんわ!あの、参りましょう!」
筆記用具とノートを手に、慌てて教室を出る。
やばい。
私、何を考えてるの!
田中くんと私が恋人つなぎなんてするわけないのにっ!
この間だって、田中くんは、妹の立花ちゃんのように扱ってくれただけだもん。
迷子になるといけないから、変な人に絡まれるといけないからって手をつないでくれただけで……。
ほら、隣を歩いていたって、手をつないだりはしないんだ……。
廊下を並んで歩く。
1年の教室の前を通り過ぎるときに、また嘉久や三笠蔵の噂をしている声が聞こえて来た。
「なんか、すごいな。特待生以外でも、頭のいい奴っているんだな。家柄もいいみたいだし……白川には、やっぱ、そういうやつがふさわしいのかな……」
田中くんが、噂を耳にして何か言った。
「え?ごめんなさい、聞こえませんでしたわ。私が何でしょうか?」
ぼんやりしちゃった。
「ああ、いや、何でもないさ。白川は、模擬試験どうだった?」
「そうですわね……前受けた時よりはできたと思いますわ」
前ってのは、もちろん前世だよ。
ずいぶん昔だけど、あのころよりはかなりできた。
なんせ、あの時よりも10年以上知識の蓄積があるんだから。
ふふふ。主に、BL同人誌で鍛えられた、社会科の知識だとは言えないけど!
そ、それだけじゃないからね?BL小説読み漁りで国語力がついたとか……無駄に難しい漢字も読めるよ。常用漢字じゃない漢字もいっぱい知ってるよ!
……まぁ、それらの漢字を実生活で用いるようなことはないんだけどね!……だからこそ、それらの漢字は、見ただけでいろいろな妄想を繰り広げられる。
そう、漢字一つで、妄想できるなんて……、ビバ!漢字!中国から伝来してくれてありがとう!
特に、私が好きな漢字は「男」を横に二つ並べた字!
ぶふふっ。なんつぅ漢字を考えたもんだ!しかも、読み方は「男女男」って漢字と同じ。「男男」で「な・ぶ・る」
きゃーっ!いやだわ!男同志でなぶるとか!きゃはっ。
ちなみに、男がその上に一人乗っかる漢字もあるのよね。男が三人で出来上がる漢字。京様と都キャプテンの二人の中を、東キャプテンが邪魔するみたいで、あの漢字を見ると不愉快極まりない!
きっと、全国三千万人くらいは、私に同意してくれると思うの!
はっ!
そういえば、女が3つでできる漢字もありましたわ!
どんな意味でしたっけ?
百合とかそっち系じゃないよね?あれ?そっち系の意味だっけ?
「へぇ~、じゃぁ、白川は日曜に勉強頑張ったんだな」
え?日曜?
日曜は……ぐふふっ。
久しぶりにイベントに行きましたー!
って、言えるわけもないですよ。
答えに窮したときには、質問で返す。
「田中くんは?日曜に勉強がんばりったのですか?」
「あー……うん、勉強できなかった」
「日曜は1日部活だったのですか?」
「いや、部活は半日だったんだけど……。土曜のこととか思い出しちゃって」
田中くんがちらりと私の顔を見る。
「いろいろ、考えちゃって、手に付かなかったっていうか……」
「まぁ!田中くん、そこまで図書委員の社会貢献について真剣に考えていらっしゃったのですね!」
な、なんてことだ!
私なんて、すっかりさっぱり忘れて日曜は同人誌に囲まれて幸せを満喫しちゃったのに……。
ううう。
田中くんなんて、部活もあったのに……。
「あ、いや、そういうわけでは……」
ごにょごにょと、田中くんが謙遜してる。
「私も、頑張って考えますわ!何か図書委員として、社会貢献ができないかと!」
ぐっと、拳を握りしめて、肘を曲げ、頑張るよのポーズをする。
「くすっ。そうだよな。白川はそういうところが可愛いんだった」
へ?
は?
か、か、可愛い?
ええーっ?!
な、何が?
えっと、やだ、ちょっと、田中くんが私を可愛いって……。うそっ。
顔が熱くなる。
「がんばろうな!」
田中くんも拳を作って、私の拳にコンっと充てる。
おお、スポーツマンっぽい。
って、違う、そうじゃなくって……。
ああもう!田中くんには深い意味ないのにっ、私が意識しすぎっ!
いつもありがとうございます。
久しぶりの田中くんでーす。
なかなか攻め込めない田中くん。分別あるし。
色々悩みも多そうだわ・・・




