第198話 璃々亜の好きな本は、あんな本だったらしい
「す、すまん、璃々亜。読もうとは思ったんだ」
嘉久が頭を下げた。
「嘘はいけないな、嘉久」
兄が嘉久の頭を小突く。
「中学のころなど、包みも開けずにしまい込んでいたじゃないか」
なんですって?
株で忙しいから読む暇がなかったってこと?それとも……読書自体が嫌いだったのかな?
「そういう、敦也兄は璃々亜からもらった本を読んだのか?」
ほうほう、璃々亜は兄にも本をプレゼントしていたのか。なるほど。
兄はフランス映画が好きだから、フランス関係の本とか選べば大丈夫そうだもんねぇ。
「読んだよ。いつも、璃々亜に読んだ感想を聞かせていたのを、嘉久だって知っているだろう?」
「ああ、面白かったとか、最高だったとか、最後にああなるとは思わなかったよとか、そういう感想は聞いた」
え?
それって、読んでも読まなくても言えるようなことだけど……。
兄くらい頭が良ければ、もう少し言葉巧みな感想があってもいいと思うんだけどなぁ。まさか、読んでないとか?
「お兄様、本当に面白かったのですわよね?」
「あ……」
兄が言葉に詰まった。
これは……。
……。
黒だな。
じーっと兄の顔を見る。
「すまん、璃々亜。璃々亜の好きな本だから、読もうと努力はするんだが……。私には、理解できない部分があって、その……」
そうか。
璃々亜(前)は、自分の好きな本を送っていたのか。そりゃあかん。
だって、兄や嘉久が、BL本もらって喜ぶと思うか?
読んで理解すると思うか?
自分の声が当てられたキャラクター同士が、あはんうふんなんて、そんなの読め、読んで感想を聞かせろとか……。
きゃはっ。楽しそう。
……じゃない!
京様と都キャプテンがアレな同人誌をたっぷり二人に送って読んでもらうとか。
さらには、私の目の前で朗読してもらうとか……。
きゃー、大変です!録画じゃない、録音、録音!高音質な録音機器を今すぐそろえなければ!
確か、マイク一つでずいぶん音質が変わるんですよね?
いや、むしろ、録音スタジオ用意しなくちゃなレベルの出来事ですよ!うふふっ。全国ウンゼンマンの京都ファンから寄付を募れば、録音スタジオの一つや二つ……ふふふ腐。
って、違う、違う、えっと、何だっけ?
そうそう、私は、そこまで鬼畜なS属性は持ってません。
恥ずかしがって嫌がる兄や嘉久に無理やりBL同人誌を読ませるような……。
おっと、失礼。また思考が戻るところだった。
そもそも、プレゼント選びは、相手が喜ぶものを選ぶのが基本だから、自分が好きな本じゃなくて、相手が好きそうな本を選ばないとね。
……。とはいえ、本当に喜んでもらえるかどうかは分からないけど。
ん?待てよ?もしかして、兄も嘉久も、もらった時はすごくうれしいふりをしてくれてたのかな?
だから、璃々亜(前)は毎年、自分の好きな本を送ってたのかな?
っていうか、どんな本なんだ?
「嘉久様、読まずにそのままだと言うのであれば、返していただけませんこと?」
「え?いや、その、ごめん、読むから!」
読まなくていいから、返せ!
璃々亜(前)の趣味がどんな本なのか調べさせてくれ!
……嘉久や兄が絶句するような本……。いったいどんな本なんだ。
寄生虫百貨とか、もしやそっち系のあれだったりする?
……BLよりは、すくいがあるとかないとかなんとか。
「いいえ、ちょうどいいですわ。新品のまま保存していてくださったのですわね。返してくださいませ。新しいお友達に、私の好きな本をプレゼントしたいと思っていたのですわ」
「そ、そう、保存、保存してたんだ。二十歳になったらまとめて読もうと思ってたんだけど、新しい友達にプレゼントするというなら、残念だけど……璃々亜に返すよ」
と、嘉久。
「璃々亜、その、新しい友達というのは、同じような趣味なのか?」
兄の顔が心配気に歪む。
え?
同じ趣味じゃないと、読むのが厳しい本なの?
……璃々亜、いったい、どんな本が好きだったんだよ!
マジで、BLとかじゃないだろうな?
……。
いや、だったらさ……。
これからBL三昧したって、全然問題ないじゃぁーーーんっ!
と、思っていた時期もありました。
嘉久から受け取った本、えーっと。
兄、これ、最後まで読んだのかな?
ごめん、オタ属性で夢見がちな私も、さすがに、これは……っていう、めちゃめちゃドリームな少女小説でした。
「ごめんね(キラリ)」
涙を彼が指でとってペロリ。
「あっ(ドキン)」
「もう泣くな。俺がいるだろ」
「……(キュゥーーーン)」
やだ、何、この気持ち。
心臓がドッキンコしてるっ!
すまん。
口から砂を吐きそうなんだが、璃々亜(前)は本当にこういう本が好きだったの?
……少女漫画も読めない環境だったら、こういう小説で胸キュンとか……なくもないのか?
いつもありがとうございます。
作中の璃々亜の感想は、あくまでも作中の璃々亜の感情として描いていて、決して作者が日々そう思っているわけではございません。
昔、東京へ行ったときに「寄生虫博物館行く~?」って話題が出たなと思い出しました。




